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『唸れ、重力魔法!』

「フハハハハ! 洗脳した普通の魔法人では我と違い詠唱を必要とするのが難点であるが、そんなものは誤差の範囲。いくら禁忌の魔法人とは言え、これだけの数の魔法を一度に喰らえばただでは済むまい。増してや、地下空間でのお前の魔法は自滅の力。さて、どうするのか、お手並拝見といこう」


 レドルーツは余裕な口調で腕を組み高見の見物といった感じだ。

 今の話と周りの状況からして洗脳された魔法使達は、レドルーツやジャークさんのようにポンポン魔法をすぐに使えないみたいだな。

 やはり洗脳されると想い描くことが難しいから簡単な魔法でもイメージを纏めるのに詠唱がいちいち必要なのだろう。

 とは言え、時間差で雪崩式に次々とこられたら発現のタイムラグは解消されてしまう。

 さらにレドルーツの洗脳を防ぐため身動きが取れないこっちとしては、周りに展開した重力の力場が頼みの綱だが、貫通系や転送系の魔法が来ればアウトだ。


 てか、これって、絶対絶命のピンチなんじゃ!?


 詠唱を終えた一人がこちらに手をかざし轟音と共に荒ぶる炎を放つ。

 続けて唸りを上げる風魔法が混ざり合い炎の竜巻が周囲を取り巻く。

 それに合わせて吹雪や雷の矢、水の塊なども次々と飛んで来て俺の周りは魔法の嵐で竜巻状態。

 もう、めちゃくちゃな状態だ。


 だが、そのどれもが身体に届く前に天井まで伸びる重力の壁にぶち当たり滝の如く石床に落とされ霧散していった。

 初撃の炎が来た時は、石床に叩きつけられても霧散した炎の熱だけは襲ってくるんじゃないかと覚悟を決めたけど、どうやら温度さえも重力で遮断できるようだ。


 これなら魔法使い達の魔力切れを待ってやり過ごすことができるんじゃないかと思えてきたよ。

 だって魔力は体力と同じで有限だと思うし、スポーツ選手だって全力でやってたら息切れして倒れちゃうもんね。


 と、俺は楽観的に考えていたけれど……大きな影が俺に被さって……。


「……あの巨大な岩はまずいのう。放たれたらこちらに届くぞ」


 ピーンチ!? 魔法使いが手を掲げる真上に浮かぶ岩が、メキメキと巨大化している。


 あんなの斜め上から投げられたら、重力と合わせて、俺、ぺちゃんこだよ!?


 やばい……やばいやばいやばいやばいやばい!!

 ジャークさん逃げましょ!? 急ぎしましょっ!?


 って、うわあああぁぁ――――来ましたよおおおおおおぉぉぉ!?


「ハヤト、中々頭が働くの! フィールドを解除してあの岩は切り捨てるぞ!」


 あ、どうも……じゃなくてっ!! こんな細い剣であんなにでかい岩が切れるんですかっ!?


「このグラビティ・ブレードは重力を操りし魔法剣。よく使い方をみておれ!! とりゃあっ!」


 近付く巨大な岩に向けて俺の身体が大きく跳躍する――。


 勢をそのままに巨大な岩の真下を妖艶に輝く紫の刃が風のように抜き去った。

 振り向けば、紫の残光とまるで豆腐でも切ったような感覚を残し、巨大な岩は真っ二つに割れてしまっていたのだった。


 すげぇ……俺って、こんなに高く跳べたんだ。


「そこかい!? そうではなかろう!? 細い剣で切り伏せたところを驚くべきぞ!」


 あ、いや、もちろんびっくりですよ。でも、こんなに高く跳んだのも初めてでして。

 ところで、今言われた通りどうしてあんなに簡単に大岩を切れちゃったんですか?

 いくら魔法剣だって言ってもこの細い剣では物理的にむちゃな感じがするのですが……。


 ジャークさんは嬉しそうに頷き軽やかに着地を決めてから説明をしてくれた。


「ふむふむ、驚いたであろう! まず、高く跳べたのは重力を軽くしてやればよいだけの話だ。それと、この魔法剣は具現化させた時に込める想いの強さで硬度が変わる。今回の剣は中々よい感じだぞ。加えて重力を操り岩を刀身に引き付ける事で、計り知れぬ斬撃力を生んだのだ! かっかっかっ!」


 おお……。ジャークさんの言う通り重力って色々と応用出来る属性なんだな。……すげぇ。



「うむ、ワシの偉大さが分かって来たか? かっかっかっ! さて、ちょこまかと攻撃を避けるのも面倒だからの。操られた者達には……少々、大人しくしてもらうとするか」


 身体が熱くほとばしる――――。

 俺の身体から急激に魔力が解き放たれる。

 そして魔力の波動が立ち上ると、そこから分裂するように紫の球体が無数に出現した。


「あれは……」


 とレドルーツも驚いた様子で目を見開き声を漏らす。

 いったい、この球体達にはどんな力があるというのか……。俺は無数に輝く球体を眺めながらそう感じていた。


 しかし、いつまでも眺めている場合じゃない。

 魔法使い達は大量の魔力を使い何人か倒れている者もいるが、まだまだ呪文を唱えている人達がいるのだ。


 ジャークさん!!


 焦りを感じて呼びかけるとジャークさんは静かに口を開く。


「プリズン・グラビティ、この魔法の名だ。お主達は操られておるだけだからの。しばらく、そこで黙っていてもらうぞ。――ふんっ!」


 視界に映る魔法使い達へ向けて手をかざす。


 すると、無数の球体は正確に魔法使いの元へ紫の輝きを放ちながら次々と向かっていく。

 球体に接触した者から順に悲鳴を上げ床に平伏す。そして最後の悲鳴のあとには――紫に輝く光の柱が立ち並んでいたのだった。


「ほう、重力による牢獄か……」


 とレドルーツは感心するように呟く。


 ジャークさんが立ち並ぶ紫の柱に目を向けると魔法使い達の平伏す床が軽くメリ込でいた。

 重力による牢獄は相当な力が働いているようだ。

 あれでは身動き一つ取れないだろう。

 正直もう魔法の連打が襲って来ないと思うと安心する。ジャークさんのお陰で大丈夫なのはわかるけど、考古学を目指すただの学生には刺激が強すぎるよ。

 それでもあと少しだ。残るは、あと二人……あと二人!?

 一人だけ魔法使いを撃ち漏らしたのか?

 いや、あいつだけレドルーツの傍にずっといたからわざとだな……きっと。


「禁忌と呼ばれるワシにはこの者達では役不足であったな。さあ、あとはお主とそこのローブの者だけだが、そやつ上手く避けたようだな、どうやった?」


 違うのか!? でもそうだよな、操られてる人達を狙ったんだから。


 ジャークさんに問い掛けられたレドルーツは質問に答える気はないようだ。

 無言で魔力を右手に集め出す。

 その手元に目線を向けてジャークさんはボソリと言う。


「懲りない奴め……」


「――マリオネット・ソールッ!!」


 またあの黒い塊だ。洗脳魔法は一直線にこちらに向かってくる。


「無駄だと言ったはずだ。ふんっ!!」


 今度は魔法剣を使い黒い塊を振り払う。

 塊は真横に吹っ飛び離れた場所でぶつかると消滅した。


「答える気がないならば別に構わん、手駒はそやつのみだからの。お主はもうあとがないも同然だ。さあ、お主の企みと共に、黙って殲滅されるがよい!」


 気迫のこもった声を響かせ一歩踏み出すと、レドルーツは片足を引いて後ずさる。


「ジャラークよ。少々侮っていたようだ……。今回は、引き上げとさせてもらう」


「逃がすと思うか?」


「フハハハハ! 簡単にはいかぬだろうが、我も侮るなよ! マダーヌ神よ、偉大なるそのお力を我にお貸しください!」


 高笑いと共に神殿が激しく揺れ始める。振動で両足が浮き立ち思わず体勢を崩してしまう。

 戦闘に巻き込まれないように離れた場所にいた教授達も慌てて床にしゃがんでいた。


「な、何をした!?」


「……ジャラーク。この程度では死なぬだろう。また、会える日を愉しみにしている。加藤!」


 レドルーツは傍にいたローブの男を呼び付けた。

 加藤と呼ばれた男が両手を広げると他の魔法使い達が紫の柱を残したまま次々と消えていく。


「では、さらばだっ! フハハハハハ――――」


 その言葉を最後にレドルーツとローブを纏った加藤さんは姿を消したのだった。





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