『えんでぃんぐ』
「移動系の魔法か!? いや、それよりも揺れが一段と激しくなって来たぞ!」
轟音と共に天井が崩れ出して足場は激しい揺れのせいで所々床の石が隆起し始めた。
まともに立ってられない状況だ。
てか、今度こそ絶対絶命のピンチか!?
このままじゃ俺達生き埋めだ!?
そうだ!? 教授達は……教授達は――あそこにいた!! やばい!? 教授達の真上からでっかい石が――――!?
ジャークさんっ!!
「任せろっ!!」
俺の身体は風のように走り出し崩壊する神殿内を駆け抜ける。
視界は流れ一気に教授達の元へたどり着く。
「危なかったのう」
言うと同時に迫り来る巨大な石に向けて左腕を上げる。
ズシンと左腕に石の重みが伝わるが潰れる事はない。
重力を操る力のお陰でぺしゃんこにならずに済んだみたいだ。
そして左手に乗る巨大な石をそのまま、マダーヌ神を模した石像へと――――ぶん投げた。
「アミ、ここから脱出するぞ!」
「隼人くん……」
教授がまた、ぽっと顔を赤らめる。
まさか、あれか!? あれなのか!? 危機的状況で起こるとされている吊橋効果的な!?。
でも、俺であって俺じゃないけど、結果的に俺だから……複雑だけども、ジャークさん、ナイスッすっ!
「さあ逃げるぞ。二人も入口まで――――何!?」
入口に視線を向けると俺達の降りて来た階段は瓦礫に埋もれてしまっていたのだ。
「なんて事だ……入口が」
茫然と言葉にする博士。
「マサハルだったな? この神殿には他の出口はないのか?」
絶望感溢れる表情で、博士とミレアさんは首を横に振る。
せっかくレドルーツの策略を阻止したって言うのに。せっかく教授を護れたって言うのに。これじゃ俺達、生き埋めにされて終わりだよ……。
「そうか、ないのか、ならば仕方ないの」
ああ、ジャークさんまで仕方ないって言ってるぅ。もう終わりだ……もう、終わりだあああああぁぁぁ!!
――ならば、最後にせめて吊橋効果が残っている内に教授とぶちゅっと俺のファーストキスを!! ジャークさん、お願いしますっ!!
『ハ、ハヤト、お主、中々悪い奴だの……』
だ、だって、ジャークさんも諦めてるし、どうにもならないんでしょ……?
『誰が諦めると言った? ワシは禁忌の大魔法ぞ? この程度では死なんよ。ハヤト、ワシが仕方ないと言ったのはの』
と、自信に満ちた声で言うと、ジャークさんは教授達に言葉をかける。
「アミ、マサハル、ミレアよ。少々むちゃをする故、しゃがんで伏せておれ!」
言われて、動揺を示す三人。
しかし有無を言わせない雰囲気だったため困惑した表情を見せながらもそのまま頭を伏せる。
「……さて、剣は邪魔になるか」
右手にあった魔法剣を霧散させ両手を天井に向けると、ジャークさんは目線を向けただけで紫に光るドーム状の膜を教授達に張って落石から守ってくれた。
多分落ちてきた石が膜の上でフワフワ浮いているから膜の周りだけ重力が軽くなっているんだと思う。
それにしても、むちゃをするって言ってたけどいったい何をするつもりなんだ……。
「ハヤトよ、重力を圧縮し方向性をつけて解放するとどうなるか分かるか?」
身体の奥から今までにない程の魔力が溢れて来た。
温かくておおらかな魔力の波動が俺の両手に集中し始める。
そしてきかれた問いに答えられずまごまごしていると、ジャークさんは両手に集中した大量の魔力を球体に変換させ始めたのだ。
「答えはこうなる――――――――ふんっっ!!」
球体はみるみる膨脹して巨大な球体となる。
俺はそのままの勢いで解き放つのかと思いア然と成り行きを見ていたが、巨大な球体は一気に圧縮され縮小してしまう。
圧縮された魔力は今にも消えそうな極小の点。
その状態を維持しながらジャークさんはとんでもない事を言ってきたのだった。
「あ、この力は本来ワシが地球に召喚された時に一度しか使わない禁忌の魔法でな、ちょっと威力がありすぎるのだ。まあ、魔力を制限された状態のワシが更に力を抑えてみるのだが……やった事がないからの……間違って地球を殲滅したらごめんの、テヘッ」
ぬをっ!? ちょっとおおおおおぉぉぉ!! テヘペロじゃないっすよおおおおぉぉぉ!! そんな危ない魔法は使っちゃだめっすよおおおおぉぉぉ!!
うをおおおぉぉぉ――――ストップ、ストップァ、ストッピングッ!!
「かっかっかっ! いや、もう手遅れだぞ。ワシを信じ、祈るがよい!! ――――グラビティ・バーストッッ!!」
圧縮された魔力は、重力に変換されてから解き放たれる。
そして小さな点であった重力が解放されると同時に――――巨大な紫に輝く光の柱に化けたのだ。
さしずめ重力を使った魔動砲と表現しても過言ではないだろう。
その天井にぶつかったエネルギー波は、まるでチョコレートでも溶かすようにどんどん突き進んていく。
想像を絶するその光景に言葉を失いながらしばらく眺めていたが、呆然としている内に両手から解き放たれた力は収まりをみせていた。
紫の閃光が天井を全て呑み込み無くなると、いつの間にか外は夜になっていたのだと気付かされる事になる。
なんでそんな事に気付いたかって?
だって、ここは地下七階の地中深くにも関わらず月の光が差し込み、綺麗な星空が遠くに見えたからさ……。
つまり、地下神殿ごと消し去る威力で出来た――――巨大な大穴が出来上がっていたのだった。
「ふむ、成功したようだ。よかったの、ハヤト! かっかっかっ!」
教授達はポッカリと空いた大きな穴を眺めて、あんぐりと口を開き目が点になっていた。
さっきまで衝撃的な数々の魔法を目の前で見ていたとは言っても、規模が違い過ぎて頭が追い付かないのだと思う。
当然俺だって色々あり過ぎて混乱気味だもん。 そりゃみんなもなるよね……。
ともあれ、天井が崩れて生き埋めになる心配は無くなった。
教授達も無事だし、よかったよかった。
「神殿崩壊からは助かったけれど、どうやったら地上に戻れるのかしら?」
ミレアさんが頭上の穴を眺めながら呟く。
……そうだった。せっかく助かっても、地上に出れなきゃ意味がない。
博士もようやく、ミレアさんの言葉に反応する。
「ああ……そうだな、救助を待つにしても連絡手段もない状態だ……」
「ねぇ、ダディ、連絡手段だったらあるわよ。ここに携帯が……あれ? 画面が動かない。壊れちゃったの!?」
教授は慌てて携帯を操作しようとするが、全く機能しないようだ。
「ふむ、それは機械だな? 何代か前の地球で見た覚えがある。ワシの殲滅魔法の影響で使えなくなったんだと思うぞ?」
またびっくり発言を……。
色々と話を聞きたいけども、とりあえず何代か前って、地球って何回滅亡してるんだ!?
『ん? まあ、六回くらいかの? 余りにも長い時間が経っている故、ワシもよく覚えておらん』
覚えておらんって……凡人の俺には理解出来ない感覚ですな……。
「そうか!? 専門外で詳しくはないが、重力の爆発による反動で起きた電磁波が……機械を故障させたのではないのか? 確か、核爆発や雷によりそう言った現象が起きるはず……。想像の領域を越える話ではあるが、これだけのエネルギーが発生した訳だ。有り得ない話ではないだろう」
もしかしてあれかな? 電磁パルスってやつかな?
俺も詳しくないけど、機械を故障させる爆弾みたいなのがあるって聞いた事があるような、ないような。
「ふむ、昔そのような事を言われた記憶があるぞ」
「まあ、どちらにしても救助は期待出来そうもないわね……」
ミレアさんが結論を言うと、どんよりとした空気が広がった。
ミレアさんの言う通り本当にどうすれば地上に戻れるのだろうか……。
上に登るにしても相当な高さがあるしなぁ。
ロッククライマーだってきつそうな高さだ。
できたとしても専用の道具類もないし……うーん。
「おいおい、お主達。ワシの力を忘れていないか?」
ジャークさんが発言すると教授達はポカンとしてこちらを見た。
「おいおい、まさか分からぬのか? ワシの力の根源は重力ぞ?」
確かに重力って事は知ってるけど……。
あっ!?
「……君は、魔法を使って私達を脱出させる事が出来るのか?」
博士が警戒をするように話しかけて来た。
まあ、あのレドルーツみたいな悪い奴がいたんだから当然だ。
しかも禁忌と呼ばれた存在が俺を通して会話してるんだから警戒はするよな。
「ふむ、お主達には説明がまだであったな。ワシら魔法人とは一つの属性能力を持って生まれた存在だ。人間界では器である人間に収まる事で、その者はワシらの魔力を引き出し属性を操れる、魔女、魔人となれるのだ」
「つまり、君は、重力の属性魔法を操る魔法人と言う事か……。では、先ほど隼人くんは無事だと言ったが、彼は身体を乗っ取られた訳ではないのか?」
博士、俺は無事ですよぉー。
一瞬死にましたが、元気ですから心配しないでくださいねー。
「ふむ、普通の魔法人では宿主である人間を乗っ取る事はできない。人間がワシらを操る魔法使いと呼ばれる者になるのだ。レドルーツは生命を操る操作属性。奴は特殊だが、ワシは特別でな……ハヤトを乗っ取る事も出来るぞ……」
――ギョッとした表情を全員がする。周囲が凍り付くように緊張が走った。
って、ちょっと、じゃあ、このまま俺はジャークさんに……乗っ取られてしまうんですかあああああああぁぁぁ!?
「かっかっかっ! まあ、案ずるな。ここから出ればハヤトに身体を返すつもりでいる。まずは脱出するが故、ワシにつかまるがよい」
し、心臓に悪いですよぉ……色々あったあとだけに、冗談に聞こえないですから……。
ひとまず、教授達もホッとしたようだ。
言われた通り教授が始めに俺の手を握る。
おお……教授の手、や、柔らかいです。
「ここから出なければどうしようもないのは間違いないものね。隼人くん……じゃなかった。ジャラークくん、お願いするわ」
「ふむ、一応性別は女だが、まあよいか。ほれ、マサハルとミレアもこっちへ来い」
「女性なのか……。とにかく、よろしく頼む」
と、博士も驚きながら手を握る。
そう言えば声も姿も俺だし、ジャークさんが露出度の高い服を着てるセクシィ女性だって分からないもんな。
「あの、私はどこにつかまれば……」
と、困惑した様子でミレアさんが言う。
確かに両手がふさがってるからつかまるにしても困るよね。
「ふむ、ワシの背中にでもつかまるがよい」
言われて素直に背中から肩につかまるミレアさん。
と言うか、つかまるどころか身体が密着していた。
ヤベッ、ミレアさんの……ミレアさんの……柔らかい物体がああああ!?
ども、背中からですが――――未体験ゾーン、突、ニュウ―――――!!
「ま、まあ……ハヤトも脱出を喜んでいるみたいだぞ……。さあ、しっかりつかまっておれ。ゆくぞ! ――――グラビティ・ゼロッ!!」
身体がふわりと浮き始め床から足が離れる。
まるで風船のように、ゆっくりと上昇を始めた。
経験はないけど、無重力空間に行ったらこんな感じなんだと思う。
なんとも言えない浮遊感に教授達も緊張した様子でしがみついて来た。
教授とミレアさんはよいとして、博士が必死に腕にしがみつくのはやめて頂きたい。
せっかくの余韻が相殺されてしまうから。
そんな事を考えながらも俺達は魔法で空けられた巨大な縦穴をくぐり抜けて行った。
「すごい……私たち空を飛んでいるのよね……?」
教授が、誰に確認する訳でもなく声を漏らす。
俺と握る手も必然的に強まっていた。
博士やミレアさんも当然落ちないように一段と強く力が入る。
背中にいるミレアさんが強くしがみついてくるから、こちらにも背中に伝わってくる膨らみの感触が一段と……ぬふふ。
何はともあれ、俺達は無事に地上へ出てこれた。
眼下には変わり果てた魔女の神殿の大穴と、壮大な森の景色が映り込む。
そして一定のところまで上昇をすると、身体は空中に停滞した。
「ここからは魔力を放出しながら流れを作り移動するが、どこへ向かえばよいかの?」
そっか、宇宙空間で宇宙飛行士が移動する原理で移動する事も出来るんだな。ほんと、魔法ってすごいや。
「あ、ああ……それなら、この方角にある要塞まで行ってもらえると助かる。私達が滞在している場所だ」
「ふむ、マサハル、こっちだな? では、久々に地球の空中を楽しみながら空中散歩と洒落込むかの? よいか……ワシから離れて落ちるなよ? かっかっかっ!」
星に囲まれた夜空に笑い声を響かせ、俺達は夜風を浴びながらゆっくりと要塞へと向かう。
振り返れば、遺跡を調査するために来たヨーロッパにある辺境の村、カミーリ。
そこで突然巻き込まれて知った――大魔法人、レドルーツの陰謀……。
凶悪な陰謀は、世界をとんでもない方向へ導く最悪なものだった。
幻想であったはずの魔法を使い、バチカンを操り、世界を悪神だけを崇める偏った世界に変革させようと企んでいる。
その企みで引き起こす結果は、世界を創造したと言う――神の消滅。
まだまだ分からないことだらけだけど、この先、俺はどうなるのだろう。
なんだか、不安だらけで先が見えないや……。
でも、ひとまずジャークさんに身体を返してもらえたら、亜美教授に告白の返事を聞いてみようと思う。
そう……なるべく早くに――――吊橋効果のある内にねっ!!
『大魔法の黄昏――古代遺跡と魔女伝説――』
END.
……あ、そう言えば教授の言ってた『あの子』って結局だれだったんだ?
END.
最後までありがとうございました。
一応これで『古代遺跡と魔女伝説』は終わりです。
感想など色々とお待ちしております。
さて、まだ未定ですが次回作を書くことになれば『大魔法の黄昏2』として書くつもりでいます。
その時がくれば活動報告に載せてみようかと思います。ですが書かない可能もあります。しかしながら他の作品はちょこちょこ書いていくのでよろしくお願いします。
ではでは、また後がきなどでお会いしましょう。




