その婚姻、契約上のものにつき…
窓から差し込む西陽が眩しくて、彼は目を覚ました。
窓辺に置かれた観葉植物の影の長さから考えて、夕方五時をまわった頃だろうか。いつの間にか眠っていたらしい。
最寄りのスーパーでブリと大根、晩酌用の刺身を購入したあと、野良猫に見送られて買い出しから戻ったのが三時前だった。部屋を片付けてソファで少し横になったところまでは覚えている。
毎日朝から深夜まで働いている彼女の事を思い出し、彼はゆっくりと身を起こした。
彼女とは、結婚して一年になる彼の妻のことだ。
大企業のトップである父親から会社の一つを任されて、毎晩遅くまで働いている。彼女の帰りを待ちながら、毎日深夜まで起きているのだから寝不足にもなる。昼寝でもしないと身体がもたなかった。
おそらく彼女も、栄養ドリンクやら休日のエステやらで疲れを無理矢理癒しているのだろう。
彼の前では決して弱音を吐かず、疲れている様子も見せない彼女を思い出し、彼は表情を曇らせた。
サイドテーブルに置かれた携帯端末を手に取り、新着のメールが届いていることを確認する。差出人は彼女だ。
端末を片手で操作して内容を確認した。本文は一文だけ。
『どうでもいい長文メールを送るな』
メールの本文に目を通し溜息をつくと、彼は大きく伸びをしながらソファから立ち上がった。
結婚してからこれまで、彼と妻はゆっくりと話をしたことがない。週末も碌に休みが取れない彼女と直に話ができるのは朝食の席ぐらいだ。
せめて自身の想いだけでも伝えることができればと、日に一度メールを送ることにしているが、彼女からの返信はいつも素っ気なく、良い返事が返ってきた試しはなかった。
それもその筈だ。二人は愛し合って結婚した夫婦ではない。
この婚姻は、彼女の願いを叶えるための契約上のものなのだから。
「私と結婚しない?」
数年ぶりに再会した彼女にそう言われたときは、それはもう嬉しくて堪らなかった。
大学時代から想い続けてきた彼女の口からその言葉を聞くことができるとは思ってもいなかったから、迷惑をかけないようにと距離を起きながらも密かに想い続けてきた甲斐があったと感激した。
だが、彼はすぐに気づいてしまった。この結婚が、彼女が未だ受け入れることができない婚約者との関係を解消するための偽装結婚であることに。
彼女の真意を理解して、申し出を受けるべきかと少し躊躇った。
それでも彼は、彼女の申し出を受けることにした。夫婦として一緒に暮らすうちに愛情が芽生え、婚姻が白紙に戻らずにすむ僅かな可能性にかけて。
携帯端末をサイドテーブルの上に戻し、大きな掃き出し窓からバルコニーへ出ると、目の前に夕陽に彩られた都会の街並みが広がる。しばらくのあいだ目を細め、彼女が働く高層ビル街の方角を見据えたあと、彼は洗濯物を家事室へと運び込んだ。
壁も床も真っ白なこじんまりとした一室の片隅に、カウンターテーブルが備え付けられていた。
抱えていた洗濯物をテーブルの上に広げると、彼はそれらを丁寧に畳み始めた。アイロン掛けが必要な衣類と、そうでないものを分別し、鼻歌交じりにふかふかのタオルを手際良く畳んでいると、広げられたタオルの下から覗く薄紅色のリボンが目に入った。
彼の手が止まり、頬にほんのりと赤みがさす。指先でリボンの端をつまみ、手元に引き寄せた。
淡い色の花柄の刺繍で彩られた、手触りの良いアイボリーの布地の、その両サイドに薄紅色のリボンをあしらった可愛らしいデザインのショーツだ。
いつもは飾り気のないシンプルな下着を着けている彼女だが、験をかついでいるのか、重要案件の節目になるとこのような所謂勝負下着を身に着ける。
結婚して一年近く、度々目にしてはいるものの、この勝負下着には未だに慣れない。
契約上の関係なのだから、彼女を女性として意識しても虚しいだけだというのに、目の前にある可愛らしい下着を身に着けた彼女の姿を思い浮かべ、ついそういうことを考えてしまう。
硬く目を閉じ左右に激しく首を振ると、彼は手に持っていた下着を素早く畳み、先に畳み終えてあった彼女の衣類に積み重ねた。
畳み終えた洗濯物を所定の場所に片付けると、彼はエプロンを身につけてキッチンへと向かう。居眠りをしてしまったから、急いで夕飯を作らなければならなかった。彼女が定時にあがって帰宅したことは一度もないが、それでも夜の七時前には食事の準備を終えておきたかった。
定時に仕事を終えた彼女が、いつ帰ってきてもいいように。
◆
夢うつつに彼女の声が聞こえた気がして、彼は瞼を開けた。
心なしか心配そうに彼の顔を覗き込む彼女と目が合い、慌てて飛び起きる。
また眠ってしまっていた。
今の時刻を確認しようとリビングの壁時計に目を向けると、時計の針は既に二時を回っていた。
「すみません、あなたが帰ってくるまで待っているつもりだったのに、つい眠ってしまいました」
仕事で深夜まで働き通しの彼女をよそに眠りこけていた自分を恥じて、彼は慌てて謝罪の言葉を口にした。
彼女は無言で首を振ると、夕飯は外で済ませたこと、今夜はシャワーを浴びてそのまま寝ることを彼に告げ、自室へと向かった。
彼女の背中を見送り、彼はダイニングテーブルに目を向けた。テーブルの上に置かれたままの、手のつけられていない彼女の分の夕食を確認すると、それらを手に取りキッチンに向かう。
朝食は彼女と同じものを食べたいから、残り物は明日の昼食にでもすればいい。家計には充分な余裕があるが、元々裕福ではなかった彼は食べ物を簡単に捨てる気にはならなかった。
一人暮らしをしていたときと同じだ。自炊すると一人前の量がうまく作れず、次の日も同じものを食べることになってしまう。以前から当たり前だったことが結婚した今も続いている、ただそれだけのことなのだ。
自身にそう言い聞かせて、彼は夕食の残りを冷蔵庫にしまった。
流しに向かい食器を洗い終えて、食器用洗剤の残りが少ないことに気が付いた。買い置きの詰め替えボトルは廊下の壁収納の中に置いてある。
シャワーを浴びたばかりの彼女と鉢合わせする可能性を考えて、彼は少しだけ廊下に出るのを躊躇った。
正直言って、シャワー直後の彼女と対峙するのは気まずかった。夕方に彼女の可愛らしい下着を見たとき、若干だが興奮してしまった。
契約上の関係とはいえ、彼が彼女に想いを寄せていることに変わりはない。身体の関係をもつことだって考えることはあるわけで。
熱いシャワーで火照った彼女の身体を見て彼が欲情してしまったとしても、正常な男として仕方のないことだろう。
幸いにも彼女はいつも、薄手ではあるがカーディガンを羽織っていた。彼女に気があるとはいえ、肌の露出すらない姿に、ただシャワー直後というだけで欲情してしまうようなことはないだろう。それにこんなことで行動範囲を狭めるようでは不自由極まりない。
深く考えることをやめ、彼はリビングのドアを開けて廊下に出た。
そして想定外の事態に陥った。
シャワーを浴びて浴室から出てきた彼女とまんまと鉢合わせてしまった。おまけに、あろうことか今日の彼女はカーディガンを羽織っていなかった。
彼の姿を目にして慌てて肩にタオルをかけたようだが、開いた胸元と露出された白い腕がほんのりと色付いているのが見て取れた。
彼の視線に気がついてか、彼女が気まずそうに目を逸らし、数歩後退る。その様子から、彼は彼女に"男"として警戒されていることを容易に感じ取った。
やはり、自分と彼女の間には愛情などというものは存在しない。二人の夫婦関係は契約上のものでしかないのだと実感した。
胸が酷く痛んだ。自覚していた以上に、この夫婦関係に期待していたことに気付かされた。目的は他にあったとしても、多少なりとも彼女は自分に好意を抱いてくれているのだと、彼はそう信じていたかった。
彼は抱いていた微かな希望を打ち消すように平静を装うと、怯える彼女に向けて歩み出した。
ギシッと床が軋むたびに、彼女が身を強張らせるのがわかった。一歩、また一歩と歩を進め、目的の収納の前で立ち止まる。扉の前で棒立ちになった彼女は俯いたまま動こうとしない。
「そこ……」
収納の扉を視線で指し、彼女に声を掛けると、彼女は慌ててその場を離れた。彼と距離を起き、遠巻きに彼の一挙一動を観察しているように感じられた。
詰め替え用の洗剤を手に取り、真っ直ぐにキッチンへ戻ろうとした彼だったが、その前にもう一度だけ無防備な彼女の姿を見ておきたい思いに駆られ、後ろを振り返った。
未だ壁際で、彼に視線を向けたまま佇む彼女にゆっくりと歩み寄ると、彼は大きく見開かれた彼女の目をじっとみつめた。
「な…、なに……?」
頬を紅く染め上げて目を逸らす彼女の仕草は、拒絶というよりは恥じらいの情が色濃く感じられた。思いの外、彼女も満更でもないのかもしれない。
もしそうならば、この結婚にも多少の意味はある。この状況に僅かばかり感謝し、彼はそっと彼女の肩に触れると、躊躇いがちに彼女を抱き寄せた。
彼女の肩にかけられていたタオルがはらりと床に舞い落ちる。
露わにされた首筋から細い肩、白い腕が、ほんのりと上気して赤みを帯びているのが見て取れる。彼女の濡れた髪と露出した胸元に視線を落とし、ごくりと生唾を呑んだ。
彼の突然の行動に驚きを隠せずに、彼女が目を見開いて彼を見上げていた。
目を細め、身動き一つしない彼女にゆっくりと唇を寄せる。互いの唇が微かに触れ合った。
それはほんの数秒の出来事だった。欲望にねじ伏せられていた理性が首をもたげ、彼は自身の行動に驚愕した。
ゆっくりと彼女から離れ状況を確認すると、固く目を閉じ身を強張らせて、彼女は彼のされるがままになっていた。
祈るように胸の前で両手を握り締めていた彼女が、閉じていた目をゆっくりと開き彼の顔を見上げると、ゴクリと息を呑んだ。
彼女の唇の感触をもう一度確かめたい衝動に駆られ、彼が更に自身の顔を彼女の顔に近づけると、彼女は再び固く目を閉じた。その姿は嫌なことを必死で堪えているような、そんなふうに彼の目に映った。
やはり、肉体的な関係は契約には含まれていないのだと、彼は確信する。
「すみません」
彼女にそう告げて、彼は振り返ることなくリビングへ戻った。
食器用洗剤を詰め替えながら、先刻自身がしたことと、彼女の様子を思い出す。
固く身を強ばらせ、祈るようにして彼の行為を受け止めていた彼女。
あの様子を見るに、名目上は夫婦である以上、彼が肉体的な関係を求めたとしても彼女は拒みはしないのだろう。
だが、それは彼の求めるものとは違う。彼が彼女を愛しているのと同様に彼女が彼を愛し、お互いに求め合う形でなければ、その行為に意味はない。
「くそっ……」
吐き捨てるように呟くと、彼は自室へと戻った。
◆
その日、彼女から「夕食はいらない」とメールが届いた。
初めてキスを交わしたあの夜から数日が経っていた。
彼女が気にする素振りをみせなかったから、彼もあの夜のことには触れないことにした。
幸い彼女は仕事の方に身が入っているらしく、その後も特に問題といった問題はなかった。何事もなかったように、それまでどおり何の関係も持たない契約の上での結婚生活を続けた。
一人で軽めの夕食を済ませ、リビングのソファに腰掛けて本を読み耽った。
あの夜からどうも寝つきが悪く、睡眠不足だったせいもあり、時計が夜の七時を回ったころに強烈な眠気に襲われた。
彼女の帰宅は九時を過ぎるだろうと考えて、彼はソファに横になり仮眠を取ることにした。
腹のあたりに何かがぶつかる衝撃を覚え、彼は驚いて飛び起きた。
ソファの上に身を起こし、冷たい視線を向けたまま彼を見下ろしている彼女の顔を見上げた。
「わたしがこんなに嫌な思いをしてるのに、どうして呑気に寝てるのよ」
ややあって、責めるような口調の低い声音で彼女が呟いた。呆然と見上げる彼を見下ろしたまま、表情ひとつ動かさずにいた彼女の瞳が潤み、頬の上を涙が伝った。やがて涙は嗚咽に変わり、彼女は両手で顔を覆い隠した。
心臓がどくんと大きく胸を打った。
彼女が泣くのを見たのは初めてのことだった。いつも凛として、真っ直ぐに自分の為すべきことを見据え、全てをそつなくこなしていると思っていた。喩え辛いことがあったとしても、それを他人に知られるような真似をしないのが彼女の矜持なのだと。
だから、契約上の関係でしかない彼に彼女が涙を見せることなどある筈がなかった。
「どうかしたんですか? 泣いて――――」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
ゆっくりと立ち上がり、彼女の両肩に触れた。涙に濡れた顔を上げ、彼の瞳を見つめる彼女。そこにいつもの強気な女性はいなかった。目の前の彼女は、まるで幼い少女のように酷く儚いもののように感じられた。
彼女の頬を濡らす涙を指先で拭い、頬に触れた。
月明かりにほんのりと照らされたリビングで、お互いに何も言葉を発することなく、二人はただ見つめ合った。
大粒の涙を瞳に湛えた彼女が、ゆっくりと目を閉じる。
キスを、したいと思った。
彼女に触れたいと、本気でそう思った。
だが、それだけはできなかった。精神的に弱っている彼女を相手に、その場の感情に流されて関係を迫ることなど絶対に許されなかった。喩え彼が彼女を愛していたとしても。
やがて、彼女は再び目を開いた。
彼女の姿を瞳に映したまま身動き一つできずにいた彼を、見開いた潤んだ瞳で見上げ涙を零した。
「あんな糞みたいな親父でもわたしを女として見ていたのに、どうして夫であるはずのアナタは、わたしを求めてくれないの……?」
彼女の問いに彼は困惑した。言っている意味がわからなかった。
彼女にとってこの婚姻は、彼女の望みを叶えるための契約上のもの、つまり偽りのものではなかったのか。少なくとも彼は、ずっとそう考えてきた。
朝食を除き、時間を共有したことなど一度もない。必要最低限の連絡しかとらず、帰宅するのはいつも深夜で。毎日のように送り続けたメールは嫌がられて邪険にされた。
家に帰るのが嫌なのだろうと、そう思った。
好きでもない男が待つ家に帰るなんて、とんでもないことだろう。ましてや、過去に自分を好きだといった男が待っている家など危険極まりない。契約上のものだとお互いに承諾していても、彼が彼女に手を出さない保証などないのだから。
でも、だからこそ、彼は手を出さずに彼女の信頼を得ようと試みた。会話する時間すら与えられない結婚生活の中で、それでも自分が何をしていたのかを知って欲しかった。彼がどれほど彼女を想っているのかを感じて欲しかった。
だが、それらはすべて間違っていたのだろうか。この婚姻の本当の意味は……
「この結婚は、貴女がどうしても受け入れることができなかった婚約者との関係を解消するための、偽装結婚でしょう?」
彼女の口から真実を聞きたい、そう考えて、彼は躊躇いがちに疑問を口にした。
確認しなければならなかった。言葉足らずな彼と、本音を言わない彼女の、すれ違った認識を改めるために。
「貴女の望みを叶えた見返りに、俺は働かずして何一つ不自由のない暮らしを与えられる。そしてほとぼりが冷めた頃合いを見計らって、契約は解消される。……そうですよね?」
彼が投げかけた問いに、彼女は大きく目を見開き、その場にぺたんと座り込んだ。
呆然としながらも顔に笑みを浮かべ、涙を流しながら、震える声で彼女が呟いた。
「アナタは最初から、いずれ別れるつもりで、わたしと結婚したの……? どうして、愛してるなんて嘘をついたの……?」
涙で濡らした顔を上げ、彼の顔をじっと見つめる彼女の姿に胸を締め付けられた。
嘘なんて一度もついていない。彼はいつだって彼女に本当の気持ちを伝えてきた。嘘をついたのだとしたらそれは、彼が彼女を契約上の妻としてしか認識していないということだ。
この婚姻がどのようなかたちのものであっても、彼にとって彼女は契約など関係なく、守るべき女性であり愛すべき女性であり、"彼の妻"そのものだった。
「嘘はついていません。……俺は、貴女に告白したあのときから、ずっと貴女のことを愛しています」
瞳を潤ませて彼を見上げる彼女を愛しく思った。彼女の傍に膝をつき両頬に手を添えて、彼はずっと言えずにいた想いを吐き出した。
「貴女の言葉にはいつも、肝心なものが足りない。一番言葉にして欲しいことを胸の内にしまいこんでしまう。……それでは駄目なんです。隠されてしまったら、俺はその真意に気づくことすらできない」
最初の告白を断られて、婚約者がいたことを知って諦めた。
数年ぶりに再会し、懐かしくて食事に誘ったとき、快く承諾してもらえたのが嬉しかった。
婚約者と上手くいかないことを打ち明けられ、突然求婚されて困惑した。
そして選んだ。
愛されなくても、傍にいることができる"契約”を結ぶことを――――。
「ひとつだけ確認させてください。この婚姻は、契約上だけのものではない、……そうなんですね?」
一番知りたかったことを、彼女に問いかける。
この婚姻が契約だけの、かたちだけのものではなく、彼女が自分の意志で彼を生涯の伴侶に選んだのだと。それを認めて欲しかった。
彼の問いに、真っ直ぐな瞳で彼を見つめたまま彼女が大きく頷く。
一年間の、いや、大学の講義室で初めて彼女と出会ってから此れ迄の、彼の想いが実を結んだ瞬間だった。
足枷になっていた"契約"の二文字が消え去り、胸に秘めていた想いが溢れだした。
彼は穏やかな笑みを浮かべると、まだ涙に頬を濡らしたまま彼を見上げる彼女に優しく口付けた。
まるで初めての夜であるかのように、二人は朝方まで何度も肌を重ね、求め合った。
◆
早朝のキッチンに向かい、火にかけたフライパンにバターを溶かす。
牛乳と砂糖を加えた卵液に食パンを浸し、先程のフライパンに放りこみ、両面にほんのりと焼き色をつけ、付け合わせのサラダとウインナーと一緒に皿に盛り付けた。
挽きたての豆で珈琲を淹れ、ダイニングテーブルに並べる。
あとは、身支度を整えて出てくる彼女を待つだけだ。
朝食の準備を終えると、彼は自室に戻り、机の引き出しの奥から預金通帳を取り出す。パラパラとページをめくり、残高を確認して目を細めた。
この婚姻は正式なものになったのだから、彼女に指輪を贈ろうと思った。
彼女が仕事に出かけたら駅前の宝飾店に出掛けよう。永遠の愛を誓う指輪と、二人を象徴する対になった指輪を買おう。
無駄遣いをしない彼だから貯えはたくさんあったが、彼女の元婚約者のような高価なものは流石に贈れないだろう。
それでもよかった。きっと彼女は彼からの贈り物を喜んでくれるはずだ。
彼女の部屋のドアが開く音に気付いて、彼は自室をあとにする。
その背中はいつにも増して、幸せな想いで満ち溢れていた。
最後までお目通しいただきありがとうございます。
今回のタイトルのとおり、小説のタイトルは旦那視点のものになっておりました。タイトルと本編が合ってないことで、3話目までに不快な思いをされた方がいましたら申し訳ございませんでした。
ご意見やご指摘、ご感想等ございましたら是非お聞かせください。
ありがとうございました。