第2話 「ステータス」
••✼••異世界の大草原••✼••
俺は、草原を1人歩き続けた。
遠くに1本の筋が見えたので、きっと人の住む町村に続く道だと思ったからだ。
30分ほど歩くと、馬車か荷車か何か分からないが、車輪の跡の轍と、動物の足跡のような蹄の跡のある道を見つけた。
やはり、道だった。
この道を辿れば、人の住む所に着く。
問題は、どちらへ向かうかだ。
自分が今どこに居るのかが分からない。
地図も無いし、地理も分からない。
地球ではないのだから、そもそも地図があったとしても分かる訳が無い。
さて、どうしたものかと考えていたら、1台の馬車らしき荷車が近付いて来るのが見えた!
助かった!
と、思ったが、次の瞬間には、ギョッ!とした。
荷台は荷車そのものだ。
だが、その荷台を引くのは馬ではなく、二足歩行の恐竜に見えたのだ。
まるで、肉食恐竜のラプトルを、ずんぐりと太くしたような怪物だった。
思わず、恐ろしくなって、たじろいだ。
だが、その馬車?と呼ぶべきか分からないが、運良く御者が俺に気付いてくれたようだ。
馬車を止めてもらえて、声を掛けてもらえた。
「よお~なんだい、お前さん! こんな所で1人で何をやってんだい?」
「?!」
言葉が解る!!
ってか、日本語?
ラノベなどでよくある展開の、「日本語以外の言語なのに理解できる」のではなく、紛うことなく「日本語」だったのだ。
「うん? どうしたい? 俺はコチマ村に向かってんだが、良かったら乗ってくかい?」
「・・・・・・」
目をパチクリするトロ。
「どうした?」
「はっ!? す、すなまい! 実は、路銀を落としてしまって、一文無しなんだが・・・」
と、咄嗟に思い付いた言い訳を話したとき、「一文無し」という言葉が通じるのか?と疑問に思ったのだが。
「おや、そうかい! そりゃあ、残念なこったなあ! 金の事なら気にする事はない 最初っから乗せてやるつもりで声を掛けたんだ 一緒にコチマ村まで行くなら、乗せてやるぞ?」
通じたぞ?!
なんだここは? やはり日本なのか?
いや、今話している相手は、どう見たって日本人ではない、別の人種だ。
だとしたら・・・・・・
「そ、それは有り難い! 宜しくお願いします!」
「ああ、乗んな乗んな!」
今は、ここが日本だろうが何処だろうが、どうだっていい。
悪いは無さそうだ。
とにかく、この人の好意を無駄にしてはならない。
第一印象は、良きなが大切だ。
この異世界の初めての人との交流を、どう受け取り、どう解釈するかで、これからの俺の異世界人生を左右する盛大な破滅フラグにも成りかねない。
俺は、馬車の荷台に乗せてもらえた。
これはラッキーな流れの始まりだと思うべきだ。
「始め良ければ終わりよし」
この親切な優しき人との出会いを感謝しよう。
「いやあ、ずっと歩き通しだったから、助かったよ!」
「それは良かったなあ 俺も徳を積めて良かったよ」
「ふふ・・・・・・ありがとう」
「いやぁ」
うむ。 これで良かったんだ。
流石に足元の悪い道を歩くのは慣れてないせいか、酷く疲れてしまった。
土踏まずが引き攣る。
やれやれと、大きくため息をついた。
その時、ふと4人の学生達の事を思い出し気になったが、下手に干渉しようものなら、きっと後戻りの出来ない具合になるのは必然だ。
人に親切にするのは良きな事だが、「絶対にヤバい」と感じた事柄に、わざわざ自分から首を突っ込む事もない。
こういう時ラノベだと、不穏に感じながらも下手に付いて行けば、必ず盛大に破滅フラグが立つんだ。
そしてそのフラグを回収したら最後、たとえ魔王だか悪魔王だかを討伐したとしても、死ぬまで穏やかな暮らしは望めないだろう。
下手すりゃ、魔王に次ぐ恐怖の対象として、首を刎られるのがオチだ。
良くて、戦争の駒として飼い殺されるだろう。
そんなの、まっぴら御免だ!!
絶対に、異世界人だと知られてはならない。
「それより、あんた」
「なんでしょう?」
「なんとも、奇抜な服装だねえ? 外国の人かい?」
「うっ、あ・・・・・・」
思わず、ギクッ!とするトロ。
「あ、うん、まあそうだねえ ちょいと事情があってね、詳しくは話せないが、周囲を海に囲まれた島国出身なんだよ これまで働き詰めだったからね 残りの余生は、どこか違う土地で細々と暮らしたいと思ってね」
「ほお~! なるほど! ジャポ・・・ああ、そうか! 詳しくは話せないんだったな? わかった! 余計な検索はしないさ」
「ありがとう 助かるよ」
ふぅ・・・・・・
初めて出会った異世界人が、話の分かる人で良かった。
だが今、「ジャポ・・・」って言いかけたよな?
まさかとは思うが、「ジャポネ」とか、「ジャポニカ」とかって国名じゃないよな?
まあ、どうでもいいか。
そして、1時間ほど馬車?恐竜車?に揺られていると、疎かな塀に囲まれた、小さな村に着いた。
「さあ、着いたぞ! ここは、イスヤリヤ王国、トスター領のコチマ村だよ」
「コチマ村・・・・・・」
「そうだ 薬草や白野菜を栽培していてな、それら素材から魔法薬を精製して、魔法薬の売上で生計を立てている村だな 魔法薬は、魔法の使えない人や冒険者達には欠かせない物だから需要がある代物だ 下手な魔導具なんかよりも売れるぞ?」
「ほお・・・魔法薬?!」
イスヤリヤ王国のトスター領とか言ったな。
ってことは、王侯貴族制度の世界か。
俺の嫌いな制度だ。
王族とか貴族とかって、できれば関わりたくない連中だ。
だからと言って、今更、「はい、さよなら」ってできる訳もなく。
文化レベルの間隔としては、地球の中世あたりか?
これもまた、ラノベあるある的なテンプレだな。
それより、魔法に魔法薬に魔導具だって?!
じゃあ、この世界には「魔法や魔法薬や魔導具」が存在するのか!!
それはそれは、実に素晴らしい!!
子供の頃から憧れていた不思議な力だ。
まさに、ファンタスティック!
魔法で、なんでも出来る魔法使いになりたいと、よく夢みたものだ。
••✼••コチマ村東詰••✼••
「ありがとう! 世話になったね」
「いやあ、コチラとしても、短い時間だったが退屈しなくて良かったよ 俺は、行商人のギルっんだ この村でもしばらく滞在するが、またどこかで会ったら、何か買ってくれよな!」
「ああ、そうするよ 俺の名は・・・・・・」
自分の名を名乗るとき、ふと思った。
日本での名前など、この異世界では何の意味も見なさない。
むしろ、別名を名乗った方が良いだろう。
だったら、自分好みの名前を名乗ろうと決めた。
「・・・・・・トロだ」
「トロ? 変わった名前だな?」
「そ、そうか? 俺達の国では、ごくごく平凡な名前なんだが」
自分の名前を、「トロ」と決めたのは、ただ単に今食べたいと思ったからだ。
名前を考えるのは苦手だからな。
もしかしたら、トロなんてもう二度と食べられないかも知れない。
そう思うと、この世界では何も不自由なく、自由に暮らし、自由に遊び、自由に食べたいものを食べたい!
ただ、それだけだ。
そんな事を考えていたせいか、トロなんて名前、ほんの思い付きだった。
「そうか! 俺は、秋まではこの村で、魔法薬の精製の手伝いと、トスターへの魔法薬の卸し業をしている 他にも冒険者の初級装備も扱ってるから、気になる物があるなら見に来てくれよな!」
「ああ、わかったよ」
「これは、もう使わない余り物だが・・・」
「これは・・・剣?」
「まあ、俺の使い古しだが、気に入ってたんだ 刃こぼれはあるが、まだまだ使えるぞ この村じゃあ、無装備で歩き回ると貴族の回し者と思われてもつまらないぞ? 武器を持ち冒険者の振りをした方が無難だぜ」
「冒険者、なるほど・・・ありがとう! 有難く使わせてもらうよ!」
「うん この村にも、冒険者ギルドと、商業ギルドの出張所がある そこで、冒険者として登録すれば、お前さんでも稼げるようになれるはずだ 冒険者に年齢制限は無いからな」
「冒険者ギルド? 商業ギルド? ああ、わかった!」
ちょっと、解らない事が多かったが、何も知らない方が怪しまれると思い、解った振りをした。
ギルは、使い古しだと言う「短剣」をくれた。
確かに傷だらけだし、所々欠けている。
ハッキリ言って、「ゴミ」だとは思うが、タダでくれたのだから、有難く頂こう。
文無しなので、ナイフ1つ買えないからな。
ギルドと聞いて、益々異世界感が増してくる!
もう、ドギドキワクワクが止まらない!ってのは、こういう事を言うんだな!
すっかり枯れた果てた童心が蘇るようだ。
今時の言葉だと、「厨二病精神」と言うのか?
この時、もっと若かったらと、つくづく思った。
••✼••草原••✼••
その頃、4人の学生達は。
「どうすんの?! あのオジサン、1人で行っちゃったじゃん!」
「どうだっていいよ あんなオッサン」
「なあ、そんな事より、アレ何かな?」
「ああん?・・・・・・んなっ?!」
「きゃあ!! 飛んでるぅ!!」
4人の学生達が指差す空から、箒に乗った魔法使い達がやって来る。
どう見ても、自分達の居る場所へと向かって来るように見えた。
「な、なんだ?」
「なんなんだよアイツら!」
「私達どうなるの? ねえ、どうなるの?!」
「うるさいよ! 俺にだって分かんないよ!」
そして、降り立った魔法使い達は、4人に近寄り話しかけて来る。
「勇者様方 ようこそ、ムトンランティアへ」
「「「「え?」」」」
やはり、4人の学生達は、日本からこの世界へ勇者召喚として召喚されたようだった。
「アルジオン・エリオス・メルセンベルグ国王様が、勇者様方をお待ちです」
「アルジオン・・・え? なんだって?」
「私共が、王城へお連れしますので、こちらの獣車にお乗りください」
魔法使いの1人がそう言うと、巨大な魔法陣が現れて、地面から湧き出るように、恐竜のような怪物が引く馬車なような乗り物が現れた!
どうやら、それに乗れと言う事のようだ。
「ど、どうするよ?」
「どうするも何も、このままここに居たって仕方ないだろう?」
「ちょっと! 勝手に決めないでよ! 私は・・・・」
「じゃあ、1人でここに居るか?!」
「!!・・・・・・」
「とにかく今は、言われた通りにしようぜ?」
「くっ!・・・分かったわよ! 乗ればいいんでしょ?」
「「「・・・・・・」」」
無言で頷く魔法使い達。
結局、4人の学生達は、獣車に乗り込んだ。
もう、それしか今の状況から抜け出す方法が無かった。
獣車は、魔法使い達と一緒に空を飛んだのだった。
••✼••コチマ村中••✼••
そしてトロは、コチマ村を歩いていた。
俺は、ギルの言うように、先ずは冒険者になろうと思った。
早速、冒険者ギルド出張所という所に行ってみた。
この世界、いや、この国の言語は基本日本語らしく、文字は「カタカナ」だった。
なぜ異世界で日本語?という疑問は大きいが、今は気にしている場合ではない。
しかし、とても俺には冒険者なんて務まりそうもないと痛感した。
ノービスだとかテストだとか、それすら俺には無理だと解った。
今なら、100mを全力で走れば、完走せずに途中でぶっ倒れる自信がある。
元々俺は、喧嘩なんて嫌いだったし、殴り合いの喧嘩なんてした事も無いし、体力にも自信が無い。
今回は、諦めるか・・・・・・
そして、この世界の通貨は、「ティア(Tia)」と、いうらしい。
通貨=ティア(Tia)
1円=1Tia
100Tia以下は四捨五入で使用されない
鉄貨=100Tia
銅貨=1000Tia
銀貨=10000Tia
金貨=10万Tia
白金貨=100万Tia
大金貨=1000万Tia(一般庶民には出回らない)
だったら、商業ギルドかな?
と思い、今度は商業ギルドにも行ってみたが、登録費に10万Tiaも必要だと言われた。
つまり、10万Tiaとは、日本円で10万円って事だ。
・・・・・・無理!!
冒険者ギルドでは、「いい歳過ぎたオッサンが、今更何しに来た?」みたいな態度と顔をされるし、商業ギルドでは、「文無しが何しに来た?」という態度と顔をされた。
異世界第一の村で、早々に取り付く島もないぞ?
冒険者には年齢制限は無かったんじゃないのか?
仕方ない。
こうなったら、素材を集めて売るしかない。
そのうち、冒険者か商業か、どちらか必要な時に必要な方を目指せばいい。
この世界でも、先立つものが無ければ暮らしは成り立たない。
ラノベの、お約束通りだな。
その前に、今の俺に何が出来るのだろう?
ラノベ通りだとしたら、「ステータス」と言えば、自分のステータスが見れるのか?
試してみた。
「ステータス!」
しぃ~~~ん・・・・・・
「あれ? 何も出ないぞ? もし、お約束どおりなら、『ステータス』と言えば、ステータス・パネルが開くはずなんだが・・・他に別の合言葉でもあるのか? ステータス・・・オープン?」
フォン!
「おおおっ! でた!」
俺は、ステータス・パネルを開く術をあっさり発見した。
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・⋯━☞STATUS☜━⋯・
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名前 トロ
性別 男
年齢 54
種族 人族
職業 種生成術師
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LV 1
HP 100
MP 20
TP 5
STR 13
ATK 15
DEF 9
DEX 4
INT 50
MAT 50
SPD 5
LUK 5
EXP 5
・⋯━━☆★☆━━⋯・
習得魔法
【ヒールLv1】【種生成Lv1】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
習得スキル
【ステータス】【鑑定Lv1】【異空間収納∞】【剣術Lv0】
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称号
【召喚巻き込まれ異世界人】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
資格
【普通自動車】【原動機付自転車】
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「っほぉ~~~! これは驚いた! 異世界だとは確信してはいたが、本当に出るとは」
我ながら感心てしまった。
驚いた事に、ラノベなどよくある、これぞこそ召喚者のテンプレです!と言いたくなるようなステータスだった。
最初から回復魔法のヒールが使えるようだし、スキルも、「ステータス」、「鑑定」、「異空間収納∞」と、まさに異世界召喚で得る能力としては鉄板と言えるだろう。
でも、ヒールはまだレベル1のようだ。
まあ、当たり前だな。
【剣術Lv0】ってなんだ? なんで0なんだ?
もしかして、短剣を手に持っただけで、剣術スキル?が開花したのだろうか?
他に、「種生成Lv1」ってのがある。
これがきっと、「種生成術師」の持つ特殊な固有魔法なのだろう。
ただ、「種生成術師」とは、どんな種が作れるんだろう?
ラノベなどでありそうな概念だと、「思い通りの植物の種を作れる」みたいな能力?とは思うのだが。
先ず、どうすれば良いのか解らない。
トロは、右手で器を作り、念じてみた。
「種か・・・どうせなら食べられる植物の種を作りたいよな? 今思い付いて食べたいのは~~~枝豆か?」
ポン!
「うおおっ?! で、出たあっ!! ホントに出たよおい!!」
トロは、とにかく「枝豆」と念じてみたのだが、本当に手の中に枝豆が1粒何も無い空間から飛び出るように現れた!
「作れたのは良いが、たったの1粒かよ」
たったの1粒では、腹の足しにならないどころか、酒のつまみにすらならない。
しかも、MPが3も減っていた。
「あまり燃費の良い魔法ではないな・・・」
まあどうでも良いが、豆1粒しか無いと思うと、腹が減ってきた。
でも、何か食べ物を買うにしても、金が無い。
ラノベだと、異世界召喚者には、何かしら金を得る手段があるはずなのだが、今のトロには、それらしい事柄が何も起きていない。
さて、どうしたものか・・・
トロは、何の気なしに、今しがた作り出した1粒の枝豆を、地面に植えてみた。
トントン!・・・・
「これで、みるみる芽が出て育ってくれたなら・・・・・・って、ええ!! 嘘だろ?!」
なんと!!
地面に植えたばかりなのに、みるみる芽が出てグングンと育ち、あっという間に、プクプクと太ったサヤが、たわわに実った枝豆に育ったのだ!
なんて早さだ! 1分も経ってないぞ!
まるでVTRの早送り再生を観ていたようだ。
もうゲーム感覚だな。
農家の育成ゲームなんかよりも早い収穫!
しかも、1株の枝豆の苗木に、20本のサヤが実った。
「マジか・・・これは、思っていたよりも、凄いスキルかも知れないぞ?」
トロは、たわわに実った枝豆を全て解いてみたら、全部で80個の枝豆が取れた!
これは凄い!
まだまだ解らない事だらけだが、なんとなくこの先が楽しみになってきたぞ!
しかし、こんな能力、誰にも知られちゃいけないな。
特に、王侯貴族なんかに取り込まれたら飼い殺されるぞ!
トロは、何度か繰り返して枝豆を収穫し、1000個以上の枝豆を手に入れた!
そしてステータスを見てみると、種生成のレベルが2に上がっていた!
これはまさに、異世界召喚で手に入る、「チート特権」ってやつだな!
トロは、サヤからバラした豆を、脱いだ上着を袋状にして詰めた。
「なんだか、楽しくなってきたぞ」
トロは、ワクワクしていた。
自分に思いがけない能力がある事に気付いたトロ。
戦闘向きの能力ではないが、きっと役に立つ能力だと確信したトロだった。