第1話 「オッサン異世界へ召喚される」
54歳のオッサンに舞い込んだ異変とは?
「今回でここに通うのも終わりか・・・」
職業安定所での認定日は今日で終わり。
今日も、今の俺に出来そうな仕事なんて見付からなかった。
いや、別に見付からなくったっていいんだ。
俺は学生の頃、運動や勉強も何事も出来が悪く、そのせいか両親や弟から ぞんざいな扱いをされ、家事もほとんど押し付けられていた。
そのくせ、両親は出来の良い?弟の方を可愛がり、好き勝手にさせていた。
そんな弟は、大学まで出させて貰ったくせに、遊ぶ事しか覚えなかったのか?
それでもいつも両親は、「長男だから」と、俺に面倒事を押し付けていたし、弟には嫌味か?と思うぼとに甘かった。
俺は訳もなく叱られる時は、「俺の子では無い」とか、「橋の下で拾った」などと言い聞かされていた。
学校を卒業するまでは、「長男や拾い子とはこんなものだ」と、思い込んでいた。
だが就職する時、実は俺は、あの毒親の本当の子だったと知った。
死にたくなるほどのショックだった。
俺はずっと、養子だと思っていた。
一層のこと、本当に養子だったら、どんなに良かったかとさえ思った。
俺は養子だから、家政夫みたいな事をさせられていたんだと信じていた。
いや、洗脳されていたと言ってもいい。
毒親に甘やかされて育ったお陰で、弟は絵に描いた様な我儘身勝手男に育ち、それでも両親は弟に車でもマンションでも何でも買い与えたものだから、弟は今では、ご立派な中年臑齧り親公認ニートになっていた。
そんな両親は、父方の祖父の遺産で、俺の中学の頃から豪遊生活で、外食する時は、弟だけを連れて行って、俺はいつも家で1人居残りだった。
両親は、俺には全くもって無関心だった。
いや、心底嫌っていたと思う。
だが俺にとっては、その方が有り難い。
こんな毒親なんかに期待される方が、堪ったものではない。
そんな豪遊生活など何時までも続けられるはずもなく、両親は祖父の遺産などあっという間に使い切り、なぜそう思うのかは謎だが、全部俺のせいにして、両親の生活費から、弟のニート暮らしの支援まで俺にさせる始末。
だが弟は、自分の生活費を俺が工面しているなんて事など知る由もない。
俺は、学校を卒業と同時に、とある建設会社の足場組み立て部門で働くようになると、『足場組み立て作業主任者』の資格を取得し、40歳目前にして独立し、その頃には高級車に乗れるほどに稼いでいた。
そんな俺の稼ぎに目をつけた両親は、俺を放っておくはずがなかった。
特に父親は、「今まで育てた恩を返せ」と、会社にまで金をせびりに来るようになる。
中学生まではともかく、それ以降育ててもらった覚えなど無いのだが。
でもなんで、ここまで俺は嫌われ、都合の良いように扱われるのだろう?
そう思っていたが、歳を重ねる毎に確信した事がある。
俺は、父方の祖父に瓜二つなのだ。
両親は、俺が中学になる頃には、それに気付いていたんだと思う。
なんでそんなに、祖父を嫌うんだ?
祖父の遺産のお陰で、やりたい放題の豪遊ができたのだろう?
それでは余りにも祖父が可哀想ではないか。
そんな言葉が、両親にとって、俺に対しての憎しみの引き金になったのだろう。
祖父は農家だったはず。
若い頃から一生懸命に働いて稼いで貯めたお金を、我が息子に湯水のように使われて・・・・
俺がそんな祖父に似ていたから、高校にも行かせてもらえずに働きに出される。
そっくりだったのだろう。
父親の嫌う祖父に似た俺は、さぞかし憎かったのだろう。
そんなの、俺のせいじゃない!
社長も俺を同情してくれていたので、俺が会社を出ると言っても、何一つ反対もしなかったし、快く送り出してくれた。
この社長こそが、俺にとっての父親的存在だった。
今でも社長には、感謝の念が絶えない。
心底、我が家族ながら嫌になった俺は、両親と弟の生活費用の口座から、新しく開設した口座に全額移し、キャッシュカードも、クレジットカードも解約し、俺は家を出ていった。
これで誰も、俺の金を自由に下ろせなくなったのだ。
もちろん、携帯も解約して新しく作り直し、連絡手段を完全に絶った。
これで俺にも、自由に使える金ができた。
今後は、自分のためだけに、金を使うさ。
そんな俺も、今はもう54歳になる。
別の建設会社の工場長にまで出世したが、今まで無理して働いてきたせいか身体をぶっ壊し、長期入院せざるを得なくなり、社会的都合により解雇される。
そして今に至る。
だが、普通に何不自由なく生きていけたら、ただそれだけで良かった。
贅沢せずに今の生活基準を維持できれば、軽く10年以上は暮らせるくらいの貯蓄はある。
無理に仕事なんて探さなくてもいいさ。
65歳になれば、年金保険の受給も、老後基礎年金の受給も始まる。
今日まで頑張ってきた、ご褒美だと思って、ゆう~っくりと、ぼんやりと、細々と、誰にも邪魔されずに、生きていけるはず。
何も難しい事はない。
変化を求めなきゃ、いいだけ。
なんて思いながら、とぼとぼと帰路につく。
すると、普段はあまり立ち寄らないコンビニが目に入る。
以前は確か、小さな小料理屋だったはずなのだが、いつの間にかコンビニに変わってた。
そうだ。晩飯にコンビニ弁当でも買って帰ろう。
いつもなら、自分でカレーや、焼き飯や、生姜焼きや、ラーメンなど、簡単な料理で飯を作って食べるのだが、それが唯一の俺の楽しみだった。
他に、嗜む娯楽と言えば、ラノベ堪能くらいか。
たまには、コンビニ弁当で済ませるのも良いか。
本当に、ただそれだけだった。
特別な事など何もしていない。
普段と、チョット違う事をした事には違いないが、なぜこんな事になってしまったのか。
買い物を済ませ、コンビニの出入口の自動ドアに向かったが、高校生くらいの男女4人がコンビニへ入ろうとしていたので、俺はそっと横によってやり過ごそうと思った。
だが!
彼らが自動ドアを通り過ぎようとしたその瞬間!
キィ~~~ン!
今まで体験した事のない激しい金属音のような耳鳴りがして、眩しい光に包まれた!
足元に、巨大な魔法陣?!
なんだこれは?!
コンビニの最新の来客用の演出か?!
俺は思わず耳を塞いで目を瞑った!
目を瞑っているのに、まるで様々な色の絵の具を混ぜ合わせたような、マーブル模様のトンネルに飛び込んだようだった!
身体が無重力空間に浮いているようで、上下左右も分からないくらい、グルグル回ってる感覚だった!
そして、唐突に静かになったかと思うと、地面に叩きつけられた!
はっ!と目を開けると、そこはまるでゲームやファンタジー世界でしか見れないような、見渡す限りの大草原だった!
「おお・・・ここは? コンビニの外・・・・・・いや、違う?」
何にも無い!!
ただただ、大草原! どこまでも草っ原! 谷や丘も無い! 所々に野花らしい小さな可愛らしい花が咲いているが、それ以外は何も無い!
何処までも高く青い空! 白い雲!
とにかく、空気が違う!
排気ガスや、コンクリートや、アスファルトなどの不快な臭いもしない。
澄んだ空気に、爽やかなそよ風。
土と草花の心地よい香りだけがした。
上空には、見た事も無い鳥か獣か、よく分からない生き物が空を飛んでいる。
こんな景色は、生まれてこの方見た事がない!
ここは日本ではない?!
外国でもなく、そもそも地球じゃない!
すぐに理解した。
日本とも、地球とも違う。
遠くに見える緑の山々の向こうには、アルプス山脈のような雪に覆われた高く白い山が見える。
昼間なのに、デカイ月らしきリングのある衛星が見える。
ここは異世界! 素晴らしい! 間違いなく異世界だ!!
俺の他には、誰も居ない!
と、思っていたが・・・・
「どこだここは?!」
「へっ?!」
俺の他に、誰かの声がする。
その声のする方へ視線を向けると、さっきコンビニの出入口ですれ違ったはずの、4人の高校生らしき男女だった。
学生らしき制服を着ているので、高校生には違いないだろう。
「おいおいマジかよ?!」
「さっき、魔法陣が見えたよな?!」
「じゃあここは、異世界?!」
「ちょったヤダあ! ウソでしょお?!」
「すんげぇ! これって勇者召喚じゃね?」
「やめてよ! どうやって帰るの?!」
「・・・・・・」
ガチャガチャと煩い奴らだな。
俺は、今自分が置かれている状況を、すぐに理解した。
これは、召喚魔法。 異世界召喚だ!
アニメやラノベなんかでよくある、まさにテンプレな状況なだけに、そうとしか思えない。
ただ、お城の王の謁見の間ではないのが、少し変に思うが、召喚時に何か手違いでもあったのだろうか。
もしそうなら、今ここで彼らと行動を共にするのは好ましくないはず。
絶対に俺は、勇者などではない。
絶対に元の世界には帰れないだろうし、下手をすれば、殺されるかも?
殺されなくても、魔物の巣窟にでも転移されらたら堪ったのもではない!
まだ育ち盛りの学生達なら、これから勇者として修行して、魔王だか悪魔王だか知らないが、倒せるほどに成長できるだろう。
でも俺は、とうに成長など期待できないオッサンな歳だ。
だとしたら?
このまま彼らと一緒に居たとしても、俺だけ好ましくない状況に貶められるのは明白。
恐らく、この学生達4人が、異世界から召喚された者達なのだろう。
たぶん、勇者としての召喚のはずだ。
そうくれば、俺は間違いなく異世界召喚に巻き込まれた一般人だろう。
歳が離れすぎている。
これは、彼らと一緒に居ると、きっと面倒な事になるぞ。
「異世界召喚じゃないのか?」
「はあ? なんだオッサン!」
「あははっ! ここがもし本当に異世界で、俺達が勇者召喚されたのなら、絶対にオッサンはちげーんじゃね?」
「だよねぇ~あははははは!」
「やっだぁー! オッサンが勇者だなんて、ダッサァー! きゃははははは!」
「・・・・・・」
そんな事は解ってる。
誰も、俺が勇者召喚されたなんて言ってないだろうに。
俺は、彼らと一緒には居られないと思い、別行動をする事にした。
「君達は、ここで待つがいいさ」
「あ、おい! 何処へ行くんだよ?」
「俺はたぶん、君達を勇者召喚する魔法陣に巻き込まれたんだろうと思う なら俺は無関係な訳だから、別行動をさせてもらうよ」
「待てよ! 何勝手な事を言ってんだ?」
「そおよお! 私達はまだ学生なのよ?! 誰か大人の保護者が居なきゃ・・・」
誰が保護者だ。
お前達こそ、勝手に決めるなよ。
お前達の世話役だなんて冗談じゃない!
「見も知らない奴らの保護者だんて、まっぴら御免だな お前達こそ、勝手に決めないでくれ 俺こそが、お前達の召喚に巻き込まれた被害者なんだからな 面倒事は御免だぜ」
「おい!」
「いいよ放っておけよ!」
「でもさあ・・・・・・」
「別にいいんじゃない? あんな、みすぼらしいオジサンに命令されるなんて私は嫌よ!」
「おお・・・・そうだな」
「・・・・・・」
誰が命令だって?
そんな面倒な事、なぜやらなきゃならない?
俺は、お前達と関わりたくないから、ここから離れるんだ。
それに俺は、勇者召喚に巻き込まれたのは事実だろう。
それなら、俺達を召喚した王様だか領主様だか知らないが、俺達は勇者として祭り上げられる事になるはず。
自由を奪われるのはもっと面倒だ。
だったら、今のうちに身を隠した方が吉のはず。
俺は、彼らの言葉に耳を貸さず、何処か休める場所を探すために、1人歩き出した。
どうやら、4人の学生達の異世界勇者召喚の魔法陣に巻き込まれたようだ。
こんなテンプレ状況だと、必ずオッサンの自分は無関係として、すぐに死んでしまうような場所に送り込まれる可能性があると思ったので、どうせ元の世界へ帰れないのなら、異世界を1人で自由に堪能したいものだ。
さて、オッサン1人で、何ができるのか?




