漁具と樹液
太陽が再び天に上り、徐々に森から闇を焼き尽くす。
「アーブル·プリマ·イドロ·ソナー」
と、唱えるとゾワゾワとした感覚がして、周囲の風や川の音、草木のざわめきが聞こえなくなる。
唯一聞こえるのは自分の心臓音と鳥の羽ばたきと小動物らしき足音、その音は気持ちが悪いほどに、正確に緻密にその生物がいる場所を教える
(不愉快な感覚だ、耳鳴りに近いが確かに聞こえる)
呪文らしき言葉を唱えて数十秒たった頃、その異様差が収まり元の自然音が耳に届いた
これが『祈り』力だ。
(周囲に脅威になる獣は居ない、寝る前に同じ祈りを使ったが慣れそうにない感覚だったな。)
これが唯一、自分が誇りを持って言える才能の一つ、水の冷たさの『祈り』である
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焚き火の地面に穴を掘り、さつまいもの様な芋を一つ埋めて、灰と炭が重なった焚き火に新しく火をつける。
(後、4つ。この世界に芋があってよかった、戦争の時にどっか伝来して持ってこられてた奴を育てられたらしいが····)
本来の中世ヨーロッパ含め、本来ジャガイモやさつまいもは中央アメリカや南アメリカ原産でヨーロッパに伝来して普及したのは『15世紀〜17世紀』で中世と言う時代の終わりであり、近世の始まりの時期であった。
(この芋を植えた畑の後に玉ねぎを植える、連作障害対策もバッチリだな。茎も葉っぱも食べるらしいからサツマイモ属なのか?)
サツマイモ属と言ってもその中には危険な毒を持つアサガオもある、この芋に毒性が無く、可食部位が多く、痩せた土壌でもよく取れるこの芋は餓死させない農民の味方であるのだろう。
芋が蒸され食べられるようになるまでの間、無駄にする時間は無いので『筌』という漁具を作ることにした。
作り方は簡単、
魚が逃げない程度の隙間になるように長く細い枝やツルを50本ぐらい用意して後端を結ぶ、柔らかい枝等を使い輪を作って籠状になるように内側に通しバラバラにならないように籠と輪を編むように紐を通して固定して拡がりを作る。
内径30センチ位になったら、また輪を作り外側の中間と先端通して固定する。
今度は魚が逃げないように漏斗のように返しを作る
地面に花を開くように同じ長さの枝を数本用意してそれをさし、その枝を軸に下からツルを交互に通して編む、そして編み終わったツルの先端を網目に通し、返しの完成だ。
『筌』は古代から近代まで様々な国で使われていた基本的で作るのも用意で有り、海や池や河川で使え機能美に満ちた魚やエビや蟹を取るトラップであり、体力を消耗せず獲物を取れる非常に効率が良い漁具だ。
作りはじめから終わりまで50分は経過しただろう、そろそろ芋が蒸し上がった頃、火が収まった焚き火の地面を掘り返し芋を取り出す。
芋についた土を払い、口を開け頬張る
「あ”っつっ!!」
火傷には気をつけなければならない、ほんのり甘みがある芋をふーふーしながら食べる早朝であった。
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食後、筌を川に仕掛け、薪と道具を作る為の木材やツルの収集に出かけた。
日は登れど、それでも多少は薄暗い森を進む
拠点から少し歩いた後、コナラやブナやシラカバらしき樹木を通り、『とある木』を探していた
(あったあった、昨日は採取する時間が無かったから急いで加工したけど、出ている)
その木は樹皮に人為的に剥がれ、えぐられた少し赤みかがった木から『透明な液体』を流していた、
その液体は触るとネバネバして嗅ぐと独特な刺激がする。
(予想通り、これは松だ)
その木の姿は『ヨーロッパアカマツ』に酷似していた。
マツは『松脂』はもちろん建築資材にも、パルプになったり、実は食べれたり、油分をよく含んでるので松ぼっくりも木もよく燃える。
『松脂』は、炭と混ぜ接着剤にしたり、精油してオイルにしたり、木炭にするときに出来るタールは薬になったり、動物の毛を毟る事に使われたり、松明の燃焼剤に使われたり、用途は様々だ。
俺は再び、松の樹皮を剥ぎ、垂れてくる樹皮を貯めるように昨日作ったした土器を紐で固定した。
(松に固着している松脂を手当たり次第取って、幹が細い松は伐採して薪になるように倒しとくか)
石斧を手に取り、上手く倒れるように受け口と追い口を作りながら斧を精一杯振るった…………