草鞋と焚き火
今日も俺は縄を作る、誰に命令やお願いをされたでもなくひたすら縄を綯う
藁を綯う、束を2つ作りクロスさせてその中心点を足で抑え、両手で擦り合わせる。
よく捻り、その捻りが戻る力で藁の束が絡み合い縄ができる、少しできると縄をほどき新たに2つの藁を同じ太さで揃え、同じ工程で組み合わせ長い縄が出来上がる
「にーちゃん!見てみて出来た!!」
声がする方向を見ると見様見真似で作ったのだろう、不格好でケバケバしてさほど長くもないがちゃんと縄ができていた
「どうーすごいでしょー!」
誇らしげな表情で、いやドヤ顔だな褒めてほしそうに縄を俺にアピールする
「あぁ、上出来な」
と俺は適当にほめて、藁をできた縄に擦り付けて磨くこれで藁縄の完成だ
ここ1週間で出来た縄の長さは300メートルをゆうに超えて自分の努力の結果が垣間見える。
俺はおもむろに縄を両手を横に広げて長さを決める、1ヒロある事を確認して作った縄一往復させてをナイフでカットする
せっかく作ったのに勿体ないーと思ってそうな妹の視線が突き刺さる
「見てろ」
とだけ言い、再び同じ長さに伸ばし3往復させ再びカットする
そのカットした長い方の縄をUの字にして、それを両足の親指に引っ掛けてUの字の中にXを作る、
右下に短い方の縄を巻き付け、次は右に持っていきそれを繰り返しつつ時折隙間を詰める。
半分ぐらい編み上がったところで左右に輪っかを作り数回巻いて固定し、再びその縄を往復させてその輪っかを作る
足の指先ほどになったら足の指にかけてる縄を外し、その輪を残すように巻いて結び切る、こうしてできたのが草鞋だ。
「にーちゃん!すごーい!ねぇねぇ私にも作って!作って!」
興奮して揺さぶってくるのを辞めてほしいと思いつつ、我ながらの出来に感激してた、初めて作った割には上出来だろう。
「にーちゃん!にーちゃんんん!!!」
「わかった、だから辞めてくれ揺さぶるのを」
俺はその余韻にふやけるほど浸れず、そそくさともう一足を編み上げる、急かす妹を恐れながら。
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「アルテス本当に森に行くの??危険な獣が居るのよ?そんなところに行かなくても良いじゃない…」
母が心配しそうな顔で、俺が支度を初めてから5度目の同じセリフをきく
「何回も言わなくてもいい、ただ行ってみたいんだ、森に。それに根性の別れという訳でもない、危ないと思ったらすぐに返ってくるよ、母さん……」
と、返しつつ荷物の確認をする
「………そう、じゃあ母さん止めないわ!でも気を付けるのよ!いくら『祈り』があるからと言っても化獣や狼や猪豚に襲われたら死んじゃうんだからね!気をつけるのよ!本当に本当に気をつけるのよ!」
母は戸惑いながらも、父と同じぐらいに騒がしく注意する母を適当な言葉でなだめながら家を後にした。
服装は古びたチュニックと所々に穴が空いたズボンに草鞋
荷物は自作のみずぼらしい背負籠、布性のベルトに通された小さな籠にナイフ、藁縄、火打ち石、石ころサイズの岩塩と少しばかしの芋、硬いウリ科らしい物で作られた水筒だけだった
森に行く道中で剣術の真似事をしてるこの村のガキ大将に話しかけられる
「おい!だんまり!どこにいくんだよ!そんな変なのを持ってよぉ!柵の外に行くのかよ?びびって泣いて返ってくるのがオチだぞぉーヒャッハッハ」
『うわ、だんまりだ』『森とかあいつにはムリムリ』『なんとか言えよ』『無視するなよ黙り』
取り巻きが小言を言ったり舌打ちが相手にせず、ガン無視で柵の向こうへ向かった。
この世界の人間は森の中は基本だれも入りたがらない、なぜなら学のない農民には未知と闇と獣のざわめきが恐怖だからだ
だから危険な狩りも果実や奥地の河川に魚取りも滅多に行かない、せいぜい行くとすれば村の近くの炭焼きと家畜用の林までだろう。
それ以上の奥地には普通の獣だけでなく俺の常識外の生態系や骨格をした『化獣』が居るからだ、
角を携える兎、猪の牙を持ったキョン、ヤマアラシのような棘を生やすデカいビーバー、アリクイのような象、色鮮でキリンのような戦い方をするヒクイがいる。
それでも林の奥の森に行く理由は、ただ一つシンプルな答え
(必ず獣を狩り、肉を取る)
食欲だ、
この時代、中世同様に肉は貴重品だった、畑を耕す牛や馬、害獣から守る犬や猫、ミルクや羽毛の羊やヤギ、卵のガチョウやニワトリ
何かしらの目的や副産物が有り飼育されている、食用としてはせいぜい家畜の豚やガチョウや鶏やヤギぐらいだろう、それも基本は食わない。
作物が育たない冬や非常時を越すための食料だ
俺の体は成長期だ、たしかに栄養失調にはならないほどぐらいにはこの村で飯は食える、水や塩分にもまだ困っていない
だが、肉が足りない食いたい、ただそれだけだ。それで充分なのだ理由は…
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行く道中、獣に凝視されたり、動物の糞を見つけたり、薪木を拾ったりしつつ歩いて4時間か?
過度に曲がらず直線的に移動し、たどり着く途中に道を示すように木に縄やナイフで目印をつけて、特に激しい起伏や岩場もなく理想的なの近くまで来れた。
(河川の周りの近場に木が生えて、草もある、ここは比較的増水が無いようだな。)
河川の周りを注視すると、大きな岩が無く細かい砂利も少ないところをみて中流に近い場所であり、名も知らない花や草、魚を狙う鳥、川の流れが穏やかな水流なのが理解出来る
理想的な地にたどり着いた俺が、まずやるべきことは火起こしと土器作りだ。
薪を集めて組み、火を起こし安全性と熱の確保に土器を作り飲み水の確保、シェルターや食料は二の次で良い、
(持ってきた芋もある、仮に帰らなかったとして少なくとも一週間は生きられるだろう)
そう思いつつ、草が剥げて地肌露出してる焚き火適した場所を見つけ、石を円形に並べて土台を作り、背負い籠から行く道で集めた枯れ枝を組み上げて、焚き火の準備をするのであった。