(タイトル仮)
――人工知能アーティ
それは、戦後100年の復興と同時に培われてきた人類の英知の結晶といわれている。
対話機能を司るPI・イレーネに始まり、様々な人類の補助機能を持った平和の象徴。
【おはようございますかみさま】
「ん……」
ごろっと、横に向きいまだ目を開けられず、眠気に抗えずにいる。
【おはようございますかみさま】
再度、同じ呼びかけが耳を打つ。
――人工知能アーティ
それは、変更可能なインターフェイス、常に学習し続け成長する人格を持った人類の友。
すべての人々に出生時に割り当てられ、その後人生を始終共にする兄弟であり犯罪の抑止力。
「んー……もう少し寝かせてよ~」
【いけませんかみさま、すでに6時50分を回りました学校に遅刻します。引いては、あなたのあこがれの生徒会長に会うことができなくなってしまいますよ】
「…………はぅ」
頭の中ではわかっている。――実際頭の中で喋られているわけだし――起きて、ご飯を食べて、マンガにならえばパンでも頬張りつつ走っていけば曲がり角で先輩にぶつかってフォーリンラブ
【かみさま、妄想駄々漏れです、正直キモイです】
「あなたイレーネの癖になんでそんなスレてんのよ」
――人工知能アーティ
多種多様なアタッチメントも付属品として販売されているので今ではファッションの一部として扱われていたりする。
主人が変わることも、変えることもできないので、関係が悪化するなどのことがもしあれば主人の一存で初期化なども可能。
【私が擦れているとすれば、かみさま。あなたの考え方や経験から得た情報が元なので。その場合…………】
「うるさい、私がおかしいみたいに言うな」
【私はどちらでも構いませんが】
冷えた声、平坦なイメージで言葉を紡ぐ私のイレーネ。またお母さんにお願いしてボーカロイドとかの声でも買ってインストしてもらった方が良いんだろうか。
【かみさま、そうは言われますが今月の一生のお願い及び、お小遣いはすでに取得済みです。さらに付け加えさせてもらうならば、あまり気にしなくても生徒会長さんとは恋仲になれることはそう難しいことではないと思いますが】
「…………誰があんた達に心を読めるようにプログラムしたんだろうね。プライバシーっていつから死語になったの?」
【答えを求めますか? そうは思えない心理状態ですが】
解った上で馬鹿にしているイレーネの返答にげんなりしつつ、なんの益体もない会話を打ち切り仕方なしに身支度を始める。
確かに、くだらないやりとりのせいか時間はすでに7時を回っている。
――人工知能アーティ
人体の機能をかたどり創り出されたその生きた機械は、人間の脳内にコアユニットを装着し、全身へ注入されたナノマシンで宿主の体調を管理し、コアユニットへ収束される身体情報や脳の電気信号・思考をエミュレート、解析し宿主の心情を完璧に近い状態で仮想化する。
思考を本人と同一化する為に、ある方法で宿主の全ての情報を自身に蓄積されたエミュレータと同期する。
ナノマシンは自己増殖し、稼働時間を超えた物は、人間の排泄と同時に廃棄される。
「おはよー、ご飯は何食べるの? 一応パンを焼いたけど」
「ありがとうママ、それ貰っていくね」
慌ただしく鞄持ち、制服を羽織りながらママが焼いてくれていたパンをつかんで口に運び、勢いそのままに玄関へ向かう。毎朝こんな調子なので、呆れた様な顔で見送るママに、『気を付けていきなさい』と、こちらを見ながら声をかけてくるパパ。
【かみさま、毎日言うことですが朝ごはんこそちゃんと奥様が用意してくれたメニューを完食していただくことをお勧めします。最近神様の筋肉と脂肪のバランスが崩れ始めているのをお気づきではありませんか】
「うるさい!」
「朝からそんなイレーネとなに怒鳴りあっての? 姉ちゃん遅れるぞ」
先に玄関にいた弟の憎まれ口にデコピンで仕返ししつつ、靴を履いて外に飛び出す。
「行ってひまーふ!」
【はしたないです】
口に頬張ったパンのおかげで大きな声は出なかったが、家族にはそれで伝わったことだろう。
外に出れば今日も一日が始まる。
――人工知能アーティ
この究極の平和維持装置が普及したおかげで全世界的に犯罪や戦争等はほぼなくなった。
少なくともここ日本では報告される限り犯罪はなくなった。人によってはそれを支配と呼び、人によっては恩恵という。
集合的無意識に挙げられる人類平等、世界平和のイメージを体現するためのシステム。
そんな世界で起こるひとつひとつの物語。
すべてを集積し、解析し、予測する。
これは、そんな世界の話




