第二章 新たな技術
母船の一角にある作業場は、今や異様な光景と化していた。
最新の物理演算装置が並ぶ人類の作業台の隣で、セレンが指先をかざすと、空間そのものが波打ち、金属が自在に形を変えていく。
「ミサキ、この技術はどんな理論でこの結果になるの?」
ミサキの問いに、セレンは空中に浮かぶ輝く粒子を弄びながら答えた。
「理論? ……そうだな、君たちの言語で言うなら『因果の先行入力』といったところか」
「先行入力……?」 ミサキは首を傾げ、ホログラムの計算式を叩き直す。
「君たちの科学は、物質に外からエネルギーを加えて変形させるだろう? だが我々の技術は、物質が『どのような状態であるべきか』という未来の情報を、現在の空間に上書きするんだ」
セレンがそっと手を振ると、無造作に置かれていたスクラップの山が、一瞬にして精密なドローンの部品へと組み上がった。
一切の熱も、衝撃も、音すらない。ただそこに、完成品が現れただけだった。
「……信じられない。熱力学の法則を無視しているわ。エコー、解析は?」
作業台の上の端末から、エコーが少し困ったような声を上げた。
『解析不能です、ミサキ。彼らの共鳴波は、エネルギーの移動を観測する前に、結果だけを定着させている。……強いて言うなら、この宇宙の「ソースコード」を直接書き換えるような……そんな感覚ですね』
「ソースコード……ね」 ミサキは感嘆の溜息を漏らし、組み上がったドローンを手に取った。
「私たちのやり方は、ボルトを締めて、配線をつないで、不具合が出たらまた直す……。
そんな『泥臭いプロセス』の積み重ねよ。
でも、あなたの技術はその苦労を全部飛ばしてしまう」
セレンは、少しだけ寂しげに微笑んだ。
「だから、我々は滅びかけたのかもしれない。苦労を飛ばした分だけ、我々は『何か』を忘れてしまったんだ。……ミサキ、君たちのその『ボルトを締める』というプロセスを、少しだけ教えてくれないか?」
「え?」
「我々の技術に、君たちの『不便』を組み込みたいんだ。
完璧な結果が出る前の、不安定な過程……そこにこそ、君たちがいう『愛着』が生まれるのだろう?」
ミサキは工具箱を握りしめ、ニカっと笑った。
「いいわよ、セレン。まずは一番基本の『レンチの使い方』から叩き込んであげる!」
「レンチ……? それは、空間共鳴を補助する道具か?」
「いいえ。ただの鉄の塊よ。でも、これを使うとね……驚くほど、達成感が味わえるのよ」
魔法のような力を持つ守護者と、泥臭い技術を愛する技術者。
二人の間に流れるのは、かつての敵対心ではなく、未知の技術を分かち合う、純粋な好奇心の火花だった。




