プロローグ 和解と、最初の種蒔き
バーナード星系へのワープゲートを無事に通過した艦隊は、静かな軌道上に停泊した。
そこには、かつての戦火を思わせる殺伐とした空気はどこにもない。
あるのは、銀河の果てまで共に旅をした「仲間」としての、奇妙な連帯感だけだった。
スター・ガーディアンのブリッジで、レンと敵指揮官であった『守護者』が並んでモニターを見つめている。モニターには、これから人類と亡命者たちが共に住まうことになる、広大で未踏の惑星の全景が映し出されていた。
「……青い空と、緑の海。それが我々が失ったものだ」 守護者が呟く。
「この星にはそれがある。だが、まだ『土』が痩せている。君たちの先祖が何世代もかけて耕したような、柔らかな大地ではない」
レンは頷き、ブリッジのクルーたち――アルト、ミサキ、カレン、そしてホログラムのエコーに視線を向けた。
「ミサキ、開拓ドローンの展開状況は?」 「全て順調よ。亡命者側の技術と私たちのシステムを統合したから、地質調査の効率は3倍に跳ね上がったわ」
「アルト、植生の研究は?」 「ここにある原生植物の一部は、土壌改良に最適だ。彼らの『星の記憶』のデータと照らし合わせれば、短期間で森を再生できるよ」
レンはモニターの惑星へ一歩歩み寄った。 「戦う必要はない。だが、この星を住める環境にするには、我々の知識と、彼らの経験の全てが必要だ。……これが、我々の最初の共同作業だ」
エコーが楽しそうにホログラムの帽子をくるりと回す。 「司令官、皆さん! 最初の作業はやっぱりアレですよね? あの、地球から持ってきた『最初の種』を植える……あれです」
カレンが操縦席から立ち上がり、誇らしげに胸を張る。 「ええ、もちろん! この星の歴史を、私たちの手で始めるのよ」
守護者がレンに微笑みかける。
「君たちの文明の象徴を植えるのか。……では、我々も協力しよう。我々が数百万年かけて守り抜いてきた『星の記憶』のデータから、この星に最も適した環境因子を調合して提供する」
レンは指揮官の座から立ち上がり、クルーたちに向かって宣言した。
「よし、スター・ガーディアン、惑星軌道上へ移動。これより、我々は侵略者ではなく、開拓者としてこの地に降り立つ」
彼らの物語は、星を支配する覇者の旅から、大地に根を下ろす守り人の旅へと変わった。 銀河の反対側から帰還した者たちが、手を取り合って新しい惑星に初めての「種」を蒔く。 穏やかで、しかし確かな希望に満ちた、新しい日々の始まりだった。




