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死んでくれてありがとう  作者: ゆうらり薄暮


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わたくしの愛する我が国よ


 世界にはあまたの国が日々争いをくり返し、そのたびに目まぐるしく境界線と国名が変わる。

 ついに国々は大陸を越え、海を越えて争いを始めた。

 俗に言う「世界大戦」である。


 戦争には始まりも終わりも勝ち負けももちろんあるが、どのような戦いでもきまりきっていることは「勝者が正しい」ということだ。

 どれだけ卑劣なことをしていても、どれだけ罪のない民を虐殺していたとしても、後に正しいと語り継がれるのは戦勝国のみである。


 大陸と大陸のあいだに小さな島国があった。

 自然の豊かなその島国は世界一長く血を継ぐ皇家が治め、とても勤勉な民族が忠誠心と誇りを持って世界一と呼ばれる文化を受け継いでいた。


 その反対に島国は他のどの国よりも災害が多く、また物資が少なかった。

 豊かな森はあっても鉄がない。

 海に囲まれていても、燃やす油がない。

 祈りの言葉はあっても、腹を満たす粉がない。


 二度目の「世界大戦」が起こった。


 東の大陸にある最も大きな大国は、西の大陸に進軍する拠点が必要とした。

 大国の当時の国王が目を付けたのは、ちょうど大陸同士にはさまれた島国だった。


 大国の国王はさっそく島国に輸出していた物資を止めた。

 島国は大国に抗議した。


 島国は大国以外の国からも物資を手に入れようとしたが、「世界大戦」のせいでどこの国にも他国に渡す余裕はなかった。


 抗議が聞き入れられることはなく、島国は物資を手に入れるために大国と戦争しなければならないところまで追い詰められてしまった。


 大国と島国の戦争が始まった。


 大国には物資と人口、武器、ほとんど全てにおいて島国を上回っていた。


 島国は抗った。

 島国が大国に勝っていたのは国に忠誠を尽くす国民と、その国民がもたらす技術だけ。


 物資も人も武器になる鉄さえも、何もかも島国には足りなかった。


 それでも島国は抗った。


 港の造船所は燃やされても、

 山の工房で釘を打った。


 畑が踏み荒らされても、

 焼けた土に芋を埋めた。


 次第に国民は痩せ細り、大人の男は国土から消え去り、大国は非力な女子供、老人までも虐殺した。


 島国は最後の最後に白旗をあげた。


 白い布を掲げたのは、兵ではなく、痩せた少年だったという。

 銃を持つ腕さえ残っていなかったから。


 島国に残ったのは焼けた国土と、わずかな民のみだった。


 大国は小さな島国くらい簡単に踏み潰して、さっさと植民地にしてしまうつもりだった。


 だが島国の数年にも及ぶ抵抗は予想外でしかなく、

 その抵抗の間に「世界大戦」は終結をむかえてしまい、拠点にする意味がなくなってしまった。


 しかたがなく大国は植民地にするのではなく、島国に残ったわずかな民を自分たちの都合良く洗脳することにした。


 元はとても勤勉な民族である。

 実力差のある大国に何年も抵抗できたのは、島国の民がその差を技術力で補っていたところもあったからだった。


 数十年の時がたった。


 大国と島国は友好な関係を築いている。


 島国はあの戦争から武器を持つことをやめました。

 武器を作ることも、開発することもしません。


 圧倒的な実力差をもひっくり返す可能性のある武器を、島国が開発することを大国は恐れたのです。


 だから大国は「二度と戦争をしないために」「平和のために」というもっともらしい理由で、島国に武器を作ることをやめさせたのです。


 島国の民の教科書には、戦勝国たる大国の都合の良いことしか書かれていない。

 誰もそれに疑問を持とうとしなかった。


 島国の民は大国に憧れを抱き、皆、戦争の原因は島国の傲慢のせいだと思っていた。


 理由はこうである。


「小さな小さな島国が身の程もわきまえず領土が欲しいがために、人も物資も武器もなにもかも差がありすぎる大国に戦いを挑んだ結果、あっけなく戦争に負けてしまった」


 だから島国の民は言うのだ。


「戦争を起こした国が悪い」

「大国に戦争を仕掛けるなんて、負けることがわかりきっているのに当時の人たちは馬鹿だ」


 誰もこのことを否定することはありません。


 だって戦勝国たる大国の洗脳が成功しただけなのですから。


 島国は今でも大国の言いなりなのですから。


 大国に戦争を仕掛けてまで守ろうとした島国の民の誇りは、もう誰の胸にも残っていません。


 島国を守る国民はもう誰もいないのです。


 ――いなくなったはずでした。


 *****


 戦争をするくらいならば、愛すべきこの国を失っても良いのか。

 この国の国土を失っても良いのか。

 この国の文化を失っても良いのか。

 この国の言語を失っても良いのか。


 わたくしはただ自らの生まれた国で、この国だけの言語を話し、文化を慈しみ、国土を踏みしめて生きたかった。


 なのになぜ戦犯だと罵られなければならぬのか。


 愛国は罪か。


 他国では愛国者だと褒められる行為が、この国では戦争を起こそうとする行動であろうか。


 わたくしは憎かった。

 わたくしが愛す国をこの国に育まれながらも、この国を貶めようとする他国に擦りよろうとする輩が憎くてたまらなかった。


 なぜこの国だけが責められねばならぬのか。


 誰も知らない、知ろうとしない真実が歴史の波にのまれ、闇に葬られたのか。


 戦争を起こしたのはこの国ではない。

 戦犯と罵られるべきは元よりこの国ではないのに。


 なぜ、なぜ、なぜ。


 だからわたくしは許さない。


 全てはこの国のために。


 だからわたくしの正義のために、あなたを殺そう。


 死んでくれてありがとうわたくしの愛しい王よ。


 *****


 大国で内乱が起こりました。


 王妃が国王とその愛人を殺したというのです。

 王妃が王に贈った酒に毒が入っていたのです。


 大国はちょうど、有能だと他国にも評判だった宰相と将軍が王位の簒奪を計画したとして一族郎党処刑したところでした。


 王には子がおらず、国を継ぐべき者が定められているわけではなかったので、たくさんの人々が玉座を争いました。


 その争いがなくなるころには、大国の名前は地図の上から消えていました。


 大国に洗脳されていたある島国がありました。


 支配者であった大国が内乱によって亡国となり、島国の民は混乱していました。


 そんな時でした。


 大国によって殺されたはずの紫の瞳を持つ女が現れたのです。


 大国に逆らい再び戦争を起こそうとしたとして「戦犯の皇女」と呼ばれた女でした。


 彼女は国民に担ぎ上げられ、再び皇家が島国を治めることになりました。


「戦犯の皇女」は「豊穣の女皇」と呼ばれ、彼女は皇家の血を引く男を夫とし、子を産み、島国は繁栄を取り戻しました。


 *****


 滅びた大国の最後の国王が最も愛した女の遺体の行方は、ようとして知れません。


愛人は王を愛していたのかもしれません。

皇女は夫と幸せになる道を選びました。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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