#06無言ノ共鳴
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静かな夜の霊災対応。互いに無言のまま、でも確かに何かが響きはじめています。
第六話「無言ノ共鳴」、お楽しみください。
夜の住宅街。
人通りの途絶えた裏路地に、淡く光る結界が張られていた。
目に見えるのは、ほんのわずかな揺らぎだけ。
だが、その空間の中に漂う空気は、静かに肌を刺す冷たさを孕んでいた。
人払いと霊障防御の結界。
それは、須皇家の分家によって施された簡易術式だった。
そこに、一台の黒塗りの車が静かに止まった。
後部座席の扉が開き、制服姿の少年が無言で降り立つ。
須皇 凪。
本家からの要請により、単独での霊災調査に駆り出された“器”。
周囲に人気はない。
ただ、夜気の中に、異様な気配だけがじわりと満ちていた。
凪は視線を前方へ向ける。
そこには、既に一人の男が立っていた。
斎――。
スーツ姿のまま、気配を読むようにその場に佇んでいる。
「……先回り、か」
凪がぼそりと呟くと、斎はわずかに目を細め、頷いた。
その仕草に迷いはなかった。
「あなたを守るのが役目ですから」
「……お前、そればっかりだな」
「“器”を守るのが私の役目です」
相変わらずの調子だった。
それでも、凪は少しだけ表情を曇らせる。
「……器を守る、か。……そうだな。それなら、しっかり守ってもらおうか」
その声音には、どこか寂しげな響きが混じっていた。
そのときだった。
風が、一瞬だけ止まる。
次の瞬間、地を這うような冷気がぶわりと足元を撫でた。
濁った瘴気。
地面のひび割れから染み出すように、黒い影が現れる。
異様な形にねじれた怨霊。
声なき呻きが空間を震わせ、凪の体表をざらりと撫でた。
「っ……」
凪が結印に手をかけようとした瞬間、 斎がすっと前へ出た。
言葉はなかった。
だがその手がゆるやかに翳されると、空間が一気に締まる。
斎の霊力が、結界を強化したのだ。
動きを止められた怨霊が、釘で打ちつけられたかのようにその場で固まる。
「……今の、何をした?」
凪が目を見開く。息を呑むほどの静かな術式だった。
斎は、こちらを見ずに応えた。
「私は“器”を守る者として遣わされています」
「……冥府の力ってことか」
問いかけには、それ以上の返答はなかった。
だがそれでも、凪には伝わってくるものがあった。
霊災の残滓が再び、形を変えて動き出す。
凪は結印を結び、低く呟いた。
「──結」
術式が展開されるのと同時に、斎もまた、霊気を調律するように立ち位置をずらす。
言葉はなかった。
それでも、互いの動きが噛み合っていく。
凪が制御し、斎が補強する。
無言の連携。
そこには、命令も指示もない。
ただ、呼吸と感覚だけが重なっていた。
(……なんだよ、これ)
わけがわからない。だが確かに、今この瞬間だけは、ひとりではなかった。
やがて、霊災は凪の霊符に完全に封じられた。
結界の外では、分家の陰陽師たちが控えており、事後処理の術式を整え始めていた。
その中を、凪と斎はゆっくりと歩き出す。
「……今のも、“器”のため?」
自分のためではない。
そう思えば、納得できるはずだった。
……それなのに、どこかが引っかかる。
無言で共鳴したあの一瞬、ほんの少しだけ「独りじゃない」と思ってしまったのだ。
夜の街。
街灯の下に、二つの影が静かに並んで伸びていた。
その距離は、確かに少しだけ、縮まっていた。
ご覧いただきありがとうございました。
凪と斎、それぞれの「言葉にしない想い」が少しずつ重なっていく回でした。
共鳴は信頼か、それとも――
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