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#04交錯スル意図

前回、斎の登場とともに、凪の周囲に小さな異変が起こり始めました。

そして今回――斎の真意と、凪との関係が少しずつ交差していきます。

静かにすれ違う言葉と、心に残る面影。


「冥裁ノ器」第4話、どうぞお楽しみください。

※4話からは毎日1話ずつ、12時に更新となります。

 授業を終えた斎は、教室を出て廊下を歩いていた。

 校内のざわめきにも目を向けず、無表情のまま淡々と足を運ぶ。


 その背に、少し鋭い声がかかった。


「ちょっと、いいかしら」


 斎が振り返ると、そこには養護教諭・十和田 綾女の姿があった。

 その視線は、教師というより監視者のものだった。


 斎は特に抵抗するでもなく、「はい」と頷き、保健室へと足を向ける。


 ***


「篠森先生、でしたか」


 保健室に入るや否や、綾女の声が張り詰める。

 静かな室内に、その言葉が鋭く響いた。


「はい。古典を担当しております」


「“冥府の者”……なのよね」


 斎は言葉を濁さずに答えた。


「凪様の守役として派遣されております」


「そう。あの子の覚醒が近い、ということね」


「はい」


 綾女はしばし斎を見つめ、ため息のように息を吐き、そして思い切り息を吸い込んだ。


「……くれぐれも!くれぐれも頼むわよ!あの子に何かあったら、許さないから!」


 捲し立てるように、斎に綾女が言葉を投げつける。

 綾女は須皇の分家で、凪の親戚にあたる。

 須皇 凪(すおう なぎ)蘇芳 綾女(すおう あやめ)

 同じ”すおう”でも、同じではない。

 そういう家柄なのだ。


 綾女は両親のいない凪を弟のように思い、あれこれと世話を焼いてきた。

 ”器”の宿命を背負った幼い凪を託された、あの日から、ずっと。


「いつか来るのはわかってたけど、いざ目の前に現れるとなんだか腹が立つわね」


 綾女はドカッと椅子に座り直し、スラリと伸びた足を組んだ。


「本当に、頼んだわよ。あの子は、とても……繊細だから」


 綾女の声には、寂しさと少しの憂慮が含まれていた。


「心得ました」


 斎は一礼すると、保健室を出た。


 ***


 校舎の屋上に、夕暮れの風が吹き抜けた。


 斎は手元の資料をパラパラと捲った。


 綾女の言葉と、凪の目を思い出す。


(……不器用な、目だ)


 誰にも頼らず、何も訴えず、それでもなお、誰かに助けを求めるような。

 拒むようでいて、すがるような光。


「……記録にあった“彼女”に、少し似ているかもしれない」


 それはかつて冥府に記された、“器”の記録。

 名を――須皇 明璃(すおう あかり)という。


 彼女の最期は、記録にたった数行でまとめられていた。


 優しすぎて、壊れた。

 精神崩壊。最終的に“器”としての役目を果たせず、処分。


 その無機質な記録を、斎は赴任前に何度も読み返した。

 何かがおかしい。何かが足りない。

 読み返すたびに、そう思わされた。

 自分が“器の守役”として任を受けたとき、最初に知った名前だった。

 今でも、守役について説明をしてくれた記録官・玄路(げんじ)の顔とともに、記憶にこびりついている。


 だが今、自分の目の前にいるのは――記録ではない、“生きた器”。


 須皇 凪。

 不器用で、脆くて、それでも誰よりも正しくあろうとしている少年。


「……私の手で彼を守れるのだろうか」


 その呟きは、風に溶けていった。


 夕暮れの空は、少しずつ夜の色へと変わっていく。

 斎はその空を、しばらく見つめ続けていた。

最初は警戒と距離感ばかりだった凪と斎ですが、

少しずつ「かつてとは違う関係」が芽生えつつある気配を描いてみました。


斎の語る“明璃”とは何者なのか、そして凪と重ねられたその記憶とは――。


次回もまた、二人の過去と現在が少しずつ重なっていきます。

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