第232話 彼女はワイトと遭遇する
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第232話 彼女はワイトと遭遇する
翌日はある程度、日が昇ってから探索を開始することにしていた。それほど広い範囲でもなく、短い時間で集中して確認し討伐すべきであると判断したからである。
「……良く食えるなみんな」
「普通よ普通。あ、それと、魔力纏い出来ないとダメージはいらないの忘れちゃだめよ。あの手の古い片手剣は重心が手元にある分コントロールしやすいけれどかなり近づかないと届かないから、無理は禁物だから注意しなさい」
「お、おう。前二人は囮と言うか引き付ける役だな」
「そうだな。私かカミラが大きくダメージを入れる担当になるか。得物も応じているし、魔力も多い」
ヴァイの弱気な発言に伯姪とカトリナがフォローを入れる。古い片手剣は向き合って叩き合うもしくは突き合う剣に近い。種類でいえばグラディウスやその後、古帝国の兵士が愛用した『スパタ』に似ている。
「最初にスピアで距離を取ることも必要ね。大きなダメージを狙わずに、突き放して距離を確保することを優先に。しがみつかれないように距離をとって欲しいわね」
「……ワイトの動きはそれほど早くないんだろうな」
ジェラルドの質問に彼女は首を振る。
「正直判らないわね。グールはかなり早いけれど生前の能力が若干魔物化して強化される感じだけれど、ワイトは死体を悪霊が魔力で動かす魔物だから、魔力と死体の鮮度に左右されるのではないかしら」
死にたてほやほやの冒険者は死霊が大したことがないだろうから緩慢な動き、本命のワイトは魔力が高いであろうから、それなりに危険であろう。
「冒険者らしくないワイトを見かけたら要注意ね」
「ワイトって見てわかるのか?」
基本的な疑問に、彼女は答える。
「私の知る範囲では、悪霊の魔力で黄色味がかって光るそうよ。だから、なんとなく周りが魔力でぼやけて見えているなら『ワイト』と判断して攻撃してかまわないでしょう」
「いきなり止めをさせるレベルじゃないから、斬りあえばわかるだろうさ」
ヴァイ……冒険者らしい発想ありがとう!
「アンデッドも首を落すのが一つの解決方法だから、出来るなら首を落してちょうだい」
彼女が発言すると、カトリナが『デュラハンはどうする?』と聞いてきたのだが、丁寧に無視する事にした。その時は呼んでもらいたい。
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朝の最終確認も終わり、教官に声を掛け巨大な石の箱に向けて歩を進める。この場合、先行者は彼女と伯姪である。
「新しい足跡は増えてないようね」
「ええ。仕事はこれ以上増えそうになくて幸いだわ」
日が昇り朝露も乾き始め斜面もそれなりに歩きやすくなっているだろう。二人が先に崩れた胸壁の上まで移動し、周囲の安全を確認し主塔へと向かう。目の前に見える石の箱に入るには、一旦東側に回りスロープを登らねばならない。石の箱は北側を断崖にその他三方を数mの岩塊の上に築かれているからである。
「ここも百年戦争の係争地なのよね」
「何度か落城して主が変わっているようね。後詰が期待できない時点で時間稼ぎにはなっても、包囲をあきらめさせることができないもの」
海や川を有している場合、水路による補給が可能であろうが、この場所ではそれもままならない。元は政庁であったのだから程々の堅固さなのだろう。
スロープを登りきると正面の入口が目の前にある。中は光も届かず幾つかある開口部から光が差し込むが良く見えるわけではない。トーチの用意をする一階担当者に声を掛け、二人は背後に回ることにする。
「あまり見せたくないわよね」
『結界』を展開し、北側の二階窓から中に侵入するのだが……
「いるわね……四体、いえ、六体ね」
「先発組か。なら、問題なさそうね」
中に入ると、階段の上り口手前に三体ずつの黄色味がかった光を帯びた武装した男の姿が見て取れる。二階に上がってくる者を待ち伏せしていたのであろう。二人の『気配隠蔽』のおかげで、いまだ気付かれた様子はない。
「やっぱりか……『ワイト』どうする?」
「燃やしましょうか」
「OK☆」
伯姪は、油球を用意し魔力を込めて小火球を添えて投擲する。勿論、反対の三体に向け彼女も同時に投擲を行う。油が一体のワイトに当たりそれが飛び散ると小火球が火をつける。
黄色く光る動く死体がこちらに気が付き、燃えそこなった其々がこちらにゆっくりと接近してくる。
彼女は遠間からバルディッシュに魔力を通し、一刀で首をそれぞれ刎ねとばす。下でも喧騒が聞こえ始めた。燃えているもう一体の『ワイト』の首を刎ね活動が停止したことを確認する。
背後では、バックラーに魔力を通して殴りつけた後、首を刎ね飛ばす伯姪の姿が見える。彼女とさほど変わらない時間に倒し終えたので、彼女は伯姪のいる入口側に近い螺旋階段に近寄る。
「下でも始まっているけど、まだ終わっていないみたいね」
「ワイトメイジがいるのではないかしら」
「ああ、『薄赤』は魔術師がいたもんね。苦戦中か……」
階段をそろりそろりと降りると……ワイトメイジが火球を次々と打ち放ち、盾で防ぐことが出来ず飛び跳ねて回避する四人が目に入った。既に、二体の戦士系のワイトの首は刎ねられており、メイジとそれを護るプレートを身に纏う盾役っぽい戦士のワイトが残っている。
「手助けいる?」
伯姪が率直に聞くと……
「おお、たの『いらぬ!! この程度の魔術師相手に、手助け無用!!』……」
ジェラルドの声にカトリナが被せるように否定し、二人は気配を消して見守ることにした。
生前、『薄赤』までいたるレベルの魔術師であったことを考えると、魔力の内包量はそれなりに多かったようであり、小火球の十発ニ十発ではまるで尽きる様子がない。全然ない。
『まあ、致命傷はないだろうけれど、疲れそうだな』
「ええ、見ている分には楽しそうに見えるわね。なかなかのものよ」
まるで水を柄杓で掬って投げかけられるのを避けるように右に左にと四人が避けていく。たまに、盾で弾いたり、剣で……カトリナが切り伏せる事もある。剣は多分、彼女は勿論伯姪より上手に見える。
「バスタードソード器用に扱うわね。真似できそうにないわ」
騎士の剣と伯姪の剣士の剣ではかなり扱いが違うだろう。正面から切り伏せるような戦い方を剣士は求めない。
「カミラは『結界』使えるのなら、使って突っ込めばいいのにね」
「私たちと同じ理由かしらね」
「ああ、それはそうかも……、今日の友は明日の敵ってこともあるから」
王家の分家というのは王家にとってライバルでもある。王家の騎士である二人が必要以上にギュイエ公爵令嬢と慣れあうのは何かあった時に困る事になりかねない。
「本人は悪い人ではないでしょうけれど、家が絡めば別問題ですものね」
「まあね。私とアリーは親戚だから……微妙か……」
子爵家とニース辺境伯家が縁を切る状況とは、王国が崩壊しているくらい環境の変化が無ければ起こりえないだろう。故に、伯姪が言いよどむのも彼女には理解できた。
「幸い、それを回避することに力を惜しむつもりは無いから、大丈夫でしょう」
あははと伯姪はその言葉に笑いで返す。そうあればいいとばかりに。
目の前ではきりがないとばかりに、カミラが突撃する。その後ろにはカトリナが追従する。盾役と魔術師が直線上に位置取りをしたのは流石だと思われる。
魔術師は慌てたかのように位置を変えようとするが、既にカミラの鎚矛のスピアヘッドが盾役の剣を持つ右手の付け根に差し込まれていた。魔力を込めたのだろう、鎚矛から青白い光が迸る。
「はあぁぁぁ!!!!」
ズバンと斬り落とされた盾役を飛び越えるようにカミラの背後からカトリナが跳躍する。
小火球の連射を両手と胸の魔銀製防具で弾き飛ばし、振り上げた片手半剣をワイトメイジの首筋に叩きつける。バスッと音がし、ローブごと首が斬り落とされるが、メイジの口が詠唱を続けているように見える。
「頭を踏みつぶしなさい!!」
「なっ、し、死者を冒涜『いいから!!!』」
盾役を突き倒したカミラがカトリナの背後から飛び込んでメイジの口をブーツのつま先で蹴り抜くと、詠唱の途中で魔力を叩きこまれたのか、後頭部から脳を吹き飛ばしながらゴロゴロと床を頭が転がっていく。
「……すまん、カミラ……」
「いいえ、問題ありません。アリー 指示をありがとうございました」
表情なくカミラは彼女に口頭で礼を言う。背後の片手戦士はメンズが二人掛かりで引き倒し首を刎ねて止めを刺した。
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さて、一階に四人、二階に六人と冒険者のワイトはすべて討伐が出来た。少なくとも、階段と広間にはワイトは存在しない。大円塔、副居室塔、そして礼拝堂に本命の『ワイト』が存在する可能性がある。もしくは、それ以上の存在がいる可能性もある。
「魔力、感じる?」
「礼拝堂には……強力なのがいるわね。他にはいなさそうよ」
「アリーは魔力感知できるのか?」
「ある程度の距離ならばね。礼拝堂の主は……強力そうだわ」
十人の冒険者をワイト化することができるほどの悪霊が付いているのであるから、それなりに魔力の波動を感じるのだ。あまりいい気持ちはしない。
「一旦表に出て仕切り直しするか?」
「いえ、少数で制圧しましょう。この広間の確保をお二人に任せます。そして、私たち四人で礼拝堂に突入してワイトマスター(仮)を討伐しましょう。魔力の残りが怪しいでしょう?」
ヴァイとジェラルドは小火球の回避や盾役討伐で余力が少ないと思われた。
「悪いな、任せちまって」
「良いわよ、その代わり武器の回収をお願い。あとはギルドタグね」
「了解だ。その位任せてくれ」
「警戒が優先ですから、一人は見張に専念してください」
ワイトが一体かもしれないが、ほかに魔力を感知できない存在や急に現れる可能性も否定できない。何かあれば大声で知らせるように伝えると、彼女と伯姪、カトリナとカミラは礼拝堂に向かう事にした。
策はあるのかとカトリナに聞かれるので「特にないわ」と答えると、意外そうな顔をされる。
「二階からの同時突入やワイトのメイジの頭ごと踏みつぶす指示とか……綿密なのかと思ったのだが」
「いつもゴリ押しよね私たち」
「……そもそも、準備も手札も不足しているのだから、ゴリ押しも必要なのよ。さっさと済ませて王都に帰りましょう。仕事も溜まっていると思うと……憂鬱だわ……」
リリアルの仕事が二週間分溜まっているかと思うと……段々腹が立ってきた。
突入順は、彼女・伯姪・カトリナ・カミラの順。彼女はバルディッシュを魔法袋に収納し、魔銀のカイトシールドとスクラマサクスを取り出す。
「さて、推して参るとしましょう。私たちで抑え込むので、カトリナ達でダメージを入れてもらえるかしら」
「おお、任せておけ。大いにその役割を果たすとしよう!!」
礼拝堂に入ると奥に祭壇の跡らしきものが見て取れる。そこには、僧衣を纏った司祭らしきシルエットが見える。当然のように、そして今までのそれよりはっきりとした黄色味を帯びた魔力の光を発している。
「出るわ!!」
「待って。観察しましょう」
距離は10mほどだろうか。前を向いているか後ろを向いているかまで分からない。彼女は油球に小火球を添えて目標の手前に向け投擲する。床に油が広がり燃え上がる事で、ワイトの姿が浮かび上がる。
「……なっ、騎士ではないか……」
そのワイトは司祭の纏うコープと呼ばれる丸みを帯びたマントを身に着けておらず、緋色に白い十字を染め抜いたサーコートに身を包んだ、全身鎧を装備した騎士であった。
「あのサーコートは……どこの騎士のもの?」
伯姪の疑問に彼女が恐らくと付け加え答える。
「『修道騎士団』の高位の聖騎士のものだと思うわ」
「なっ、聖騎士の死体をワイトの依り代としたというのか……なんたる冒涜!!」
現在の王家の騎士団の元となった『聖征』の際に設立された三つの騎士団。そのうち、帝国の騎士が主力となった『聖帝騎士団』と、王国南部・法国の騎士が中心となった『聖母騎士団』は『聖征』が行われなくなった現在も存在する。
しかしながら、目の前の騎士が身に纏う『緋に白十字』の紋章を持つ『修道騎士団』は約二百年前に『異端』として王国内で討滅されているのだ。
観察していると、ワイトが何か唱え始める気配がする。死霊が魔術を使うとしても、この四人なら魔力の量からして普通に耐えることが出来るだろう。
「出方を見て、時間を掛けて討伐してもいいかしら」
「珍しいわね。いいわ、付き合いましょう」
「異存はないが……前に出てもいいか」
「……それは私がお諫めします。見学で」
カミラは容赦なくカトリナにダメ出しをする。
ワイト・パラディンは剣をその場で構えると何度も振り下ろす。
「なっ」
魔力の『斬撃』が四人を見舞う。斬撃の部分を魔銀の篭手と胴鎧で受け止め、盾に魔力を通して弾き大きなダメージを回避したものの、今までにない攻撃に彼女はどうすべきか迷い始めていた。




