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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ロマンデ遠征』

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第233話 彼女は聖騎士の悪霊と対峙する

第233話 彼女は聖騎士の悪霊と対峙する


カナンへの『聖征』が聖王国の消滅で失敗に終わった時点で、聖王国を護り巡礼者を護る為の宗教騎士団は大きな岐路に立たされていた。


 帝国騎士を中心とする『聖帝騎士団』は一旦法国の貿易都市に本部を移転させたものの、さらに帝国東部の非御神子教徒の住む地域との境界にある城塞都市に居を移すことにした。帝国東部に植民都市を築き、騎士団の影響下において開拓を行い、抵抗する先住の異教徒を改宗し自国の民として編入することを目指す事になる。


 また、病にかかった巡礼者を癒す施療院を運営していた『聖母騎士団』は内海に浮かぶ島である『ドロス』を要塞化し、そこをサラセンへの防波堤であり、聖王国復興の為の足掛かりとすることを目指した。今では『ドロス騎士団』と呼ばれる存在であったが、五十年ほど前にサラセンの軍に攻められ島を放棄し今は法国南の島に拠点を移している。


 そして、最大の勢力を誇っていた『修道騎士団』は……王国内で異端の咎で騎士団総長含め多数の幹部・騎士・騎士団関係者が捕縛され……解体されることになる。王国内の数百の支部、多数の荘園や不動産、千を越える騎士とそれを支える万に近い騎士団関係者が何らかの形で王家のものとなった。


 王国内で最も王家の脅威であったのは他の貴族や周辺諸国の王ではなく、王に匹敵する領地を持ち、なおかつ王ではなく教皇に忠誠を誓う専従の騎士を多数擁する『修道騎士団』なのだ。





 王国内での権力を確立しようとしていた当時の国王は、王国内の教会や宗教騎士団にも『税』を掛けようとしていたが、教皇の配下であるとしてこれを教会と騎士団は拒否した。


 その結果、国王は実力行使に出る。


 国王と対立した教皇を当時の王の側近が法国で拉致し、教皇はその扱いに憤激し急死する。次の代の教皇は短期間で急死……毒殺も疑われた。国王に対抗する教皇が立てられることはなく、ボルデュ大司教であった王国人が教皇に立てられるのだが……法都に向かうことなく、教皇領である『ビジョン』に居を構え王国国王の庇護下に入ってしまう。


 側近である枢機卿も王国人が多数を占め、結果として教皇は国王の意に与することしか発言せず、過去の教皇の国王に対する否定的な見解もすべて無かったこととされてしまう。


 後ろ盾を失った『修道騎士団』が国王に殲滅されるのに、そうは時間が掛からなかったのは当然だろう。


『まあ、あの頃は王家の力を高めるために、色々あったんだよ。陰謀めいた事もな』


『魔剣』が呟いた内容は……こんな感じである。


 修道騎士団は聖王国の消滅後、巨大な金融資産と軍事力を有しながら、なんら具体的な活動をしていなかったと思われるのだが、実は、恣意的に『義勇兵』として参加する騎士たちが存在した。


 一つは、連合王国の北の王国との統一戦争に修道騎士団の連合王国内の『管区長』に当たる騎士たちが参加しており、そのうち二名が戦死している。大幹部が二人も戦死しているのだ。


 また、王国の統治下にあったランドル領が課税の問題で反乱を起こした時、多くの騎士が亡くなったコルトの戦に、反乱都市の市民兵に混ざって、三十人の修道騎士団の騎士が参加していたという。


 特に、コルトの件は王国において『修道騎士団』が誅滅される数年前の事象であり、当時の国王も暗躍に関しては掴んでいたと考えられる。


『教皇猊下も積極的に庇う事が出来なかったってのはあるな。冤罪と言うか、やり過ぎた反動を受けたというか……まあそんな感じだ』


 ワイトとなってもおかしくない存在であると『魔剣』は言いたいのだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 魔術を使う『魔物』と初めて対峙した彼女は少々興奮していた。


『斬撃を飛ばされるのは厄介だな』

「そうでもないわ。結界か、無理やり魔力で弾いて中に入れば倒せないことはないでしょう。どの道、首を落せば問題ないのだから」


 周りの三人が指示を待っているように思える。


「盾を持てるなら盾に持ち替えて斬撃に耐えてもらえるかしら」

「OK!!」

「バスタードソードで弾いてくれる」

「承知しました。姫、私の後ろに」


 カミラは鎚矛を収納すると、剣と盾に持ち替える。カトリナは渋々カミラの背後に回り、中央に彼女、右奥に伯姪、左の壁際にカトリナ主従が展開する。


「さあ、どんどん来てちょうだい。あなたの『斬撃』はそんなものなのかしら?」

『見セテヤロウ。王国ノ雌犬ガ!!』


 聖騎士は口が悪いらしい。もしくは、伝えられたように悪魔崇拝者で堕落した存在に成っていたのかもしれない。


「あなたに貸す尻は無いわ。安心しなさい」

『コノ雌犬ガ!! 喰ラエ!!!!』


 先ほどに倍する『斬撃』が彼女に集中するが……魔銀鍍金のカイトシールドの周辺まで逆V字型に結界を展開し、全て左右の壁にはじき返し、積もったほこりや削れた壁の破片で礼拝堂内が粉塵まみれになる。


「ちょ、それはないでしょう!!」

「アリー 煽りすぎだ!!」


 周囲から不平が出るが、知ったことではない。煽って口を滑らせさせる事が目的なのだ。


「『聖女』と呼ばれる私なら、大抵のアンデッドなら浄化して天の国へと導く事も出来るでしょうが、生前に罪を重ね、死後も悪霊となって人を虐げるあなたのような存在には難しいでしょう。地獄行きね、残念だわ」

『タワケ!! 王国ニシッポヲ振ル貴様ラコソ地獄行キダワイ!』

「馬鹿ね、死んだ後のことなんて死んだあと考えればいいよの。今この世界で地上の天国を作る事こそ私たちの使命。所詮、盗賊まがいの行為で異教徒を殺して土地や財産を奪う程度の知恵しか働かなかった悪魔の言いそうなことね。あなたは生前、異教徒殺しと金勘定以外何を為したのかしら?」

『ダマレ!! ダマレ!!!』


 喚き始めるワイトの騎士に向かい、伯姪が「おじさんって、自分が都合の悪い展開になると、大声出して誤魔化そうとするからキモい」と呟く。


「仕方あるまい。修道士だ聖騎士だと言っても、やっていることはダビデ人の金貸しと同じことだ。まあ、死人に鞭打つような真似はすまい」

『ダ、誰カ゚だびで人ダ!! アノヨウナ愚民ト一緒ニスルナ!!!』

「ええそうよ。彼らは都市に住んでより多くの税を納めている優良な商人達ですもの。人攫いや殺人や民を搾取している紛い物の騎士と同じにするのは失礼ではないかしら」


 ダビデ人は金貸しが多く、また、独自の宗教の戒律を大切にするため、御神子教徒とは異なる論理で生活している。とは言え、税を余計に納めさせ、商売をする権利を与え王国内でも活動しているのである。元々、御神子様もダビデ人の宗教家の一人であり、ダビデ教の行者であったのだ。


『貴様ラ! 許サン!!!』

「それはこっちのセリフ!!」


 伯姪が『斬撃』を弾きながら前に出る。速度も強度も読めてきたので、前に出ることも難しくない。斬撃を受けてダメージを負わされたあと、ワイトにされたのが十人の冒険者であったのだろう。


『ナ、我ノ斬撃ガ、何故ハジカレル!!』

「それは、同じことを繰り返せばそうなるだろう。馬鹿なのか?」


 バスタードソードを『斬撃』に合わせ弾くカトリナが「もう飽きた」とばかりに答える。


「何事も実戦に勝る練習は無いの。オーガ対策になるかと思って」

「おお、気を遣わせて済まない。いい練習になっていると思うぞ」

「なら、前に出てちょうだい」

「任せておけ!!!」


 ワイト・パラディンは『コンナハズデハ!!』とか『ナゼダ!!』と叫びながら三方の魔術師たちに『斬撃』を飛ばしているが……残念ながら魔力が底をついてきているのか、魔力の輝きが小さくなってきている。


「そろそろ魔力切れかしら。残念ね、練習も終わりみたいよ」

「まあ、大したことないわね。『タラスクス』と比べてどうかしら?」

「む、竜討伐か……経験してみたいものだな!!」

『ナ……たらすくす討伐……アノ魔物ヲ……』


 厳密にはリリアルでお膳立てし、王太子に止めを刺してもらったのだが……実際、彼女とリリアル生だけで川岸で討伐可能でした☆


「さあ、そろそろ御仕舞にしましょうか」


 盾を突き出し、シールドチャージの要領で接近し盾ごとぶつかったついでに、魔力で『魔剣』の化けたスクラマサクスの刃を拡大させ……メイルごと首を切り落とす


『GYaaaaaaa!!!!』


 『魔剣』が白く輝き、聖なる浄化の魔力を叩き付けられたワイト・パラディンが空気が抜けたように煙をたてながらシュワシュワと縮んでいく。


『なんだよ、これっきりかよ』

「……ワイトがかなり無理して死体を操り酷使したのではないかしら」

「なんだか、凄い魔力の発露であったなアリー」

「そうそう、最近ますます『聖女』っぽい感じしてきたよね」


 聖女は煽らないと思う。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 パラディンは骨も残らず、装備品だけを残して消えてしまった。装備は魔法袋にそのまま回収する。


「さて、他の場所も一通り確認しましょうか」

「……私たちは大広間の警戒を替わろう」

「疲れたのね」

「いやいやそうではない。経験は分かち合うべきだろう」


 伯姪に突っ込まれ、「そうじゃないよー」アピールをするカトリナだが、剣で弾くのは思いのほか大変であったのだろうことは見て取れる。


 討伐した元冒険者からの追剥行為も完了した二人を連れ、彼女と伯姪はまず、副居館を確認する。トーチをかざしたヴァイとジェラルドが前後を歩き、中央に二人が並ぶ。


「アリー トーチでワイトって燃えるのか?」


 二階に突入した際に、油球に着火して燃え上がったワイトだが、ワイト自体にダメージは入っていなかった。


『死んで間もない新鮮なワイトだから、生前の感覚で戸惑ったってところだな』

「新鮮なワイト……嫌なワイトね。」


 彼女は内心『魔剣』にダメ出しをしつつ答える。


「装備自体は魔力の影響を受けないから、燃える素材なら燃えるわね。但し、本体は魔力を帯びた死体なので……不燃性」

「燃えないゴミか……難渋しそうだな」

「魔力を持っている存在がいれば、事前に察知できるから大丈夫よ。ここにはいないわ」

「それは助かる。どんどん確認しようか」


 副居館一階を確認し、二階に移動すると……そこは居室として使われていた形跡が残っていた。但し、何かしら調査資料となるようなものは残されておらず、人の生活していた痕跡らしいものだけであった。


「……ワイトを召還した魔術師がここで生活していたとかか?」

「あり得るかもだけれど、どうかしらね。そもそも、長居するような場所でもないじゃない。近くに街があるわけでもないし、寝具はあるけれど……とても寝たいような状態じゃないし」


 その昔は豪華な寝台であっただろうその木製のそれは、変色しところどころ腐朽し始めている。キノコさんいらっしゃい状態だ。


 



 副居室から大円塔の連絡通路を移動し最上階から確認する。魔力を有する物は存在しないので、特に気にする必要はないだろう。と彼女は考えていた。


 円塔の最上階の床には、数多くの象眼を施した高位の聖職者が納められていたと思われる棺が残されていた。中には何も残っていない。


「何かしらこれ」

「もしかして、これが聖騎士の遺骸を納めていた棺かしら」

「……何だか豪華だな」


 豪華な棺だが、聖騎士が『修道騎士団』の騎士であった場合、王国内の幹部たちは皆処刑されているだろうし、遺骸もまともな状態ではなかったはずだが……


『ありゃ、ワイトと遺骸が別ものなんだろう』

「つまり、それ以前に亡くなった聖騎士様の遺骸を利用したということね」

『ならつじつまがあうだろ?』


 『魔剣』の説明に納得する。


『最後の頃の修道騎士団長なんてのは、帝国の皇帝と同格だったからな。上は教皇しかいないし、王国の法では裁くことができない治外法権な存在だったんだよ。だから、絶大な権力を持つと同時に恨みも買っていた』


 最後の頃には、王家の財布も握り、王の判断すら覆す存在となっていたという。詳しい事は調べてみなければわからないが、『魔剣』曰く、当時の王家の法律顧問である王立大学の学者たちと議論を重ね、王国内の事は王が裁くと強引に処分したという。


 因みに、当初批判していた連合王国も、数年後に同じ行為を行い修道騎士団の溜め込んだ莫大な資金と借金の担保等で保管していた財宝を奪っている。ロマン人はどこまで行ってもロマン人だと彼女は思う。


「色々調べたいことが出てきたわね。でも、ここで出来る事はほとんどないわ」

「さっさとこの陰気な場所を出ましょうか。報告上げて、王都に帰還しましょう」

「お、おう。そうだな」

「あの冒険者の装備ってどうなるんだろうな」


 『薄赤』パーティーの装備は悪くは無かったと思われる。盾役のプレートは中々のものであった。冒険者であれば、討伐した冒険者の所持品になるのだが、騎士団でそれは難しいだろう。


「騎士団の備品か取引のある商人に払い下げじゃないか」

「……だよなぁ……まあ仕方ねぇか。俺らじゃあっちの仲間入りするしかない魔物が相手だったもんな。命があるだけめっけもの、経験が積めただけましだと思うしかないか」


 二階の冒険者の装備を麻袋に入れそれぞれ分かるようにまとめると、彼女の魔法袋に入れる。


 一階に降り、大広間に入ると既に麻袋に仕分けされていた冒険者たちの装備を取りまとめを終えたカトリナ達が待ち構えていた。


「どうであった?」

「副居館の二階に人がしばらくいた跡、大円塔の最上階には、あの聖騎士の遺骸が収まっていたと思われる豪華な象眼が施された棺が置いてあったわ」

「……なるほど。死体泥棒か……悪質だな」


 客観的に考えればそうなのだが、恐らく、大切にどこかに安置されていた聖騎士の聖櫃を持ち出し、この場所でワイトを憑依させたという時点で、高度な術を有する死霊術師が見えない壁の向こう側にいるのだと思うと、彼女の気持ちは一段と沈むのである。






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