第993話 彼女は羅馬と兎を愛でる
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第993話 彼女は羅馬と兎を愛でる
「素晴らしい毛並みね」
「寒い場所では重宝されそうだと思うわ」
王都が寒いのは勿論だが、ロマンデにノーブル、サボア領も寒い。毛織物も良いのだが見栄えのする毛皮は暖かく、「お金持ち」感が栄えるのだ。
兎の毛皮なら、外に出すような用い方はやり難いが、外套の内張りや帽子などに使われる。とはいえ、毛が抜けやすく耐久性が低いので安価な毛皮となる。反面、染色しやすいメリットもあるので、流行を追う人には1シーズンだけ持てばよい飾り用としての需要もある。
「同じような毛色の毛皮を集めて纏めるといいのよね」
「何匹分くらいなんでしょうか」
「さあね」
上着一着分だとすると、数十匹は必要なようだ。とはいえ、兎は容易に増えるので、餌の確保さえできれば、割と良い家禽なのだ。
「半年くらいでいい大きさになるんですよぉ」
「へぇ」
赤目のルミリ、リリアルでは「兎博士」と呼ばれている。どうやら、ルミリの親の経営していた商会は小物の毛皮を扱っていたようで、兎の毛皮を買い取る仕事もあったのだとか。
畑に穴をあける兎は農民にとっては「害獣」であり、それを捉えて駆除し、肉を喰い、毛皮を売ることで一石三鳥のそれであるのだが、簡単に捕まえることは出来ないようで、数を揃えるのは大変なのだとか。
「五六十匹狩るのは罠を仕掛けても大変なんだそうですぅ」
「すぐに増えるみたいじゃない?」
一度の出産で三から六の子を産み、妊娠は三十日程度、生後半年で大人になるので……兎算式に数が増えていくのだとか。
「それでこんなに増えているのね」
「遠征中に、増えすぎたので、開拓村とデルタ難民村にもかなり譲ったんですぅ」
一年近く留守にしていたので、兎は三倍の三倍で約十倍に増えてしまっていたらしい。なので、最初に増え始めた時に、増えた分だけそれぞれ半分ずつ開拓村とデルタ難民村へと持って行ったのだという。
そもそも、一人でそんな大量の餌やりなんて不可能なのだから当然だ。馬車は癖毛に頼んで、工房のものを貸してもらって運んだのだとか。ルミリと癖毛は気安い仲になっているようだ。
あ、毛深い男はちょっとということです。歩人、お前の足の裏もじゃもじゃなのもダメなんだってさ!!
兎塔でモフモフを堪能した彼女と伯姪は、学院と王都の用事も一段落したこともあり、開拓村と難民村へ顔を出すことにした。
それと、ワスティンの修練場もなるべく早く再開したいのだが、叙爵と『名誉騎士』の叙任までは落ち着かなさそうなので、もう少し様子見をするつもりなのだ。
「最初に開拓村に向かうわ」
彼女と留守居であったルミリ。灰目藍髪と、碧目金髪。そして今日は癖毛が土魔術担当である。セバスおじさんは、遠征から戻ってもまだ回復していない模様。年を取ると、疲れが抜けないのだよ諸君。
「兎の飼育場を作っているのですが、穴を掘って逃げ出すのですわぁ」
穴兎の系統が飼育には向いているのだが、当然、地面に穴を掘り巣作りする能力があるので、飼育場に穴を掘って……逃げる個体もいる。
「餌がもらえるって分かっているから、大体逃げないですよぉ」
自分でわざわざ危険を冒して餌を探さずとも、その場所にいれば敵に襲われる心配もなく毎日餌がもらえる。要は、餌付けされているのだ。だから、大半は問題なく育っている。
「小屋にすれば問題ないのでしょうけれど……」
「それ以前に、開拓者の家が十分ではないもね」
「ですわぁ」
新しくできた村なので、人間の住居が優先なのである。木材を切り出して、乾燥させてから家屋を建てる。廃材でもあれば小屋を作るのも容易なのだがそれを開拓村に求めることは出来ない。
「久しぶりに頑張るか」
「期待しているわ」
歩人よりも魔力量、魔術の精度共に上回る癖毛。今日は、土魔術で『避難塔』を兼用する兎の飼育塔を作ることにしたのである。
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開拓村までの道中、一年前に敷設した領内街道の維持状態を確認しつつ無事到着。先触れは出していたが、集まってもらう必要はないと事前に知らせてある。
開拓村のまとめ役、元の王領のそれぞれ村から一人ずつ代表者を選び、合議で運営しているのメンバーだけに集まってもらっていた。
「無事の御帰還、皆、安心していますご領主様」
「長く不在にして申し訳なかったわね。それで、何か不自由なことがあれば、学院に連絡をくれれば、対応するので遠慮なく申し出なさい」
「「「ありがとうございます」」」
彼女が代官の娘として幼いころから顔を見知っている者もおり、開拓村の風通しはそれほど悪くはない。とはいえ、一年近く領主不在であったこともあり、直接確認したいことも少なくない。
小麦用の畑の開墾状態。これは、最低限、歩人と癖毛に土魔術で樹木の根を取り除いてもらい、今年から作付けしている。未だ土が新しく栄養にも恵まれていることもあり、ランドル式の輪作農法は試していないが、開墾が住み、農耕用の家畜と農具が揃えば行えるだろうとのことだった。
「これが小麦畑ね」
「まだ、村で食べる分すら賄えませんが」
「いえ、問題ないわ。必要な分は手配するので、言ってちょうだい」
川賊村に渡した食糧の他にも、小麦などは彼女の魔法袋にまだかなり残っている。
粉挽用の水車小屋も特に問題ないようであり、水路も定期的に落ち葉など取り除き問題なく村を巡っている。
「この辺りの斜面を林檎園にしようと考えております」
村の裏の丘とでもいえばいいのだろうか。ガルギエ湖のある丘に続く斜面の一帯を伐採し、今は幾本か元から生えている木を残しつつ、林檎の苗木を植える準備をしていると説明される。
「苗木の手配は」
「済んでおりますわぁ」
祖母の伝手を頼み、林檎の苗木は商人に依頼して排しているとのこと。今は、斜面を整地しつつ苗木を植える場所を選定している段階だという。
「育って枝を伸ばした後を想定して間隔を取らねばなりませんので」
小さな苗木も枝を広げさせ、実を成らせるようにしなければならない。林檎が身をつけるようになるには五年ないし十年の時間がかかるとか。苗木からでも三年から五年ほどとみられている。
「一度育てば、管理次第ですが、二三十年は実をつけます」
木を育てるのは、子や孫の為。今収穫できなくても子の代、孫の代に文字通り実を結ぶ。
「来春に植えて、それから徐々にでしょうか」
その後も、蕾が付けばそのまま咲かせず、数を減らし、小さい芽は取り除く必要もあるとか。
「ただ植えただけでは良い実はなりません。受け売りですが」
何事も最初は受け売りでしかない。実際、試してみて確認して試行錯誤が財産になる。
「先を楽しみにしておきます。苗木を植えた時期に、また見に来ます」
「はい、楽しみにしておいてください」
小麦だけでなく、林檎を育て王都へ売り込む。因みに、小麦は税がかかるが、林檎は基本的にかからない。しかしながら、酒に加工すると……掛かることなる。それでも、酒にした方が儲かる。自家消費する分はその範囲ではないので、村の男衆はそれが楽しみで開墾に汗をかいているとまとめ役の男たちは彼女に話したのである。
兎の飼育場の解決方法。それは、土魔術でつくる『塔』で育てることで解決すると彼女は説明する。
「「「塔」」」
リリアル学院で作られている物見塔兼兎飼育塔は、元は王都城塞の試作品として建設したものである。作りは土魔術だけでなく人造岩石を用いている。コストも手間もかなりかかっている。
開拓村にそこまでの強度は不要だが、今は見られなくなったが魔物の群れや野盗、あるいは大雨が降って洪水が起こった場合の避難場所を兼ねる簡易な城塞を村はずれに作り、そこで兎も飼おうということである。
「兎が他の動物に襲われて殺される心配も減るでしょうし、掃除も容易になると思うわ」
藁を敷いてそのまま、入り口となる開口部から下の馬車の荷台に落とし、そのまま堆肥作りの場所まで運べばよい。
「藁を持ち上げるのは大変そうではありますな」
誰かが余計なことを言う!!
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一先ず、1mほど地面から持ち上げた10m四方ほどの広さの『台』を作る。そのままでは兎を放せないので、回廊上に外側を2mほど張り出させ、更に高さ1.5mほどの壁を回廊外周に巡らせる。
「屋根はどうするよ」
「そこは、後で必要であれば柱を立てて屋根をふいてもらうようにしようかしら」
「いや、柱だけ魔術で作っておこう。後は屋根を張るかどうかは村の人に任せればいいだろ?」
兎が雨でずぶ濡れになるのもかわいそうだ。鶏小屋のような棚のある小屋があればよいかもしれない。
「兎小屋なら、ここに我々が簡単なものを置きます」
下から避難塔? 避難台の方が適切だろうか、塔というほど高くはないが、胸壁から弓を射かけるくらいは問題ないだろう。ゴブリン程度なら届く高さではない。山猫あたりは、周囲の木の枝を伝い中に飛び込むかもしれないので、周囲の木々も切り払う必要はありそうだ。
「周りの木も」
「抜けばいいんだろ?」
癖毛はそういうと、土魔術で避難台周辺の木々を根こそぎ抜いたのである。
デルタの民の避難村でも同じようなことを行い、力持ちのデルタ人の開拓ミニ村は自力でかなりの開墾を進めていた。避難村は将来的にリリアル領第二の街に発展させる予定なので、デルタの民の居住地はその周辺にある、ヌーベ領に近い森の中のいくつかの場所になる。
『最近、ゴブリンは魔物は見かけるかしら』
『アア、スコシズツダ』
ワスティンの森の王都寄りのエリアは冒険者が入り、またリリアルでも探索しているのでゴブリンや狼が出ることはほぼなくなっているが、ヌーベ領側は今まで放置されていることもあり、ヌーベ征伐軍が入った際に、で合わせた魔物は討伐されているものの、王都側ほど安全ではない。
『イマノトコロ上位種ハミカケンガ』
『数が増えればわからないわね』
デルタの戦士たちが頷く。武器装備の類は、遠征の際に渡した者をそのまま貸し与えている。将来的には『リリアル領兵』の主力となってもらう予定なので構わないのだが、だからといって放置するわけにもいかない。
「折を見て、リリアル生でワスティンの森で魔物狩りをしましょう」
彼女の行動計画の中で、久しぶりの魔物討伐の予定が定められた。領内に街道を整備する上でも、魔物討伐は並行して行わなければならない。歩人と癖毛がメインで行うにしても、魔物の群れと出会えば無事であるか保証は出来ない。特に歩人おじさん。
「狩りの時間ですね」
「勢子は任せていただきたいのですわぁ」
『任せるのだわぁ』
蛙が勢子をするなんて、聞いたことがない。
最後に、羅馬牧場により老夫妻に挨拶をする。
「よくぞ御無事で、閣下」
「お二人ともお元気そうで何よりです」
牧場では若駒ならぬ若羅馬が生まれていた。まだ小さく、小鹿のようにぴょこぴょことしている。
「牧場回りで、子を狙う獣が見かけられるようになっています」
デルタの民から聞いた話を再びここでも聞く。狼、山猫、そして……
「ゴブリンの足あとを牧場の外周の見回りで見かけたことがあります。その時は三匹程度なので、問題なく追い払えると思いましたが、増えるとなると心配ではあります」
鹿程度はどの獣、魔物も餌にする。馬も、場合によっては狙われることもあるし、それより小型の羅馬、ましてその子は良い餌だと思われかねない。
「近々、ワスティンの森で魔物狩りをリリアルで行う予定ではありますが、危ないようであれば、開拓村に避難するか、リリアル学院へ身を寄せて頂いて構いません」
そう伝えると、シルゲン夫妻は首を横に振る。
「我が子を守らず、自分たちだけ逃げるわけにはまいりません閣下」
「私も夫も、ここであの子たちを守ります」
夫妻は異口同音に逃げずに戦うと彼女に宣言したのである。
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