事情の聴取(4)
その後、暫くしてヘリオトロープの匂いもほぼ霧散したことを確かめてから、私は部屋の中に倒れるセニスをその場で拘束した。
ちなみに拘束具はいつも持ち歩いている。
それがクリスタ王国における淑女のたしなみ……というわけではなく、探偵にとって必要なものだからだ。
そして、そのまま彼の能力を明文化する。
一方的な能力の盗み見はポリシーに反するが、相手が相手だ。
罪人に人権が無いと言うわけではないが、この程度のことには目を瞑っても罰は当たらないだろう。
その結果、彼の身には身体能力を底上げする類の魔法と、自身でも認めていたとおり、狼男の特異体質が宿っていることが分かった。
……これで、容疑者全員から、理外の力の明文化が済んだ。
私は拘束した彼を担いで、呪術師の部屋へと戻った。
「な、なにがあったんです……!?」
ぼろぼろになった私が拘束されたセニスを運んで入ってきたのを見て、アイラさんが心配そうに駆け寄ってくる。
「セニスさんは、半年前に王都で起きた『王族殺し』の犯人だったことが分かったので、眠ってもらいました」
「ええっ!?」
アイラさんが叫び、その場の誰もが同様に、驚きに言葉を失っている。
「すまない。あのまま残って、加勢すべきだったね」
辺境伯が私をそう気遣い、
「……いえ、なんとかなりましたから」
「ボロボロだが……」
『大丈夫ですか?』
ウッドボードをこちらに向けて、フィリアさんも気遣ってくれる。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ。……それで、最後に一つだけ確かめたいことがあるんですが……、それは、この宿の外に行かなければわからないことでして……。そんなにはかからないと思うのですが」
そう。私は最後に一つ、ライルに纏わることで、外に出で確認して来なければならないことがある。
私の相談に、辺境伯が頷いて答える。
「ああ、ここは大丈夫だ。私に任せて、行ってきてくれていい」
「――すみません。すぐに戻ります。皆さんは食堂でお待ちください」
私はすぐに、屋敷を出た。
* * *
「旦那――じゃなかった、イマジカ様!? どうしてそんなにボロボロなんです!?」
私は、数件の酒場を巡って、目的の人物を見つけ出した。
「気にしないで下さい、ちょっと犬にじゃれつかれただけです」
「いや、そういう次元じゃないような……?」
「そんなことよりも、あなたに一つ、頼みたいことがあるんです」
私のその言葉に、彼の目が真剣みを帯びる。
「……わかりました。困ったことがあれば頼ってくれと言いましたからね。あっしにできることなら」
「すみません、恩に着ます」
「それで、頼みというのはなんなんです?」
私は彼の目を見て、鞄からある物を取り出す。
それをみて、おっさんの目が大きく見開かれる。
「これは――! しかし、どうしてこれが外れて――?」
私が取り出したのは、ライルの腕に嵌められていた、束縛の腕輪だった。
「私を、あなたが王都で呪術師の話をきいたという奴隷商の元へ連れて行って欲しいんです」
奴隷商の屋敷は、呪術師の宿のすぐ近くにあった。
その応接間に、肥えた商人の野太い叫びが響き渡る。
「ひいいぃ――! か、勘弁してくれ! 今朝この屋敷についてみたら奴隷たちの腕輪が全部外れてて、もう奴隷商からは足を洗うって決めたところだったんだ!」
「いや、今まさに売ろうとしてましたからね。ダメです」
私はおっさんの友人だということにして奴隷商の屋敷に上がり、奴隷商が自分の奴隷たちを安値で買わないかと相談を持ちかけてきたところで、自身の身分を明かした。
すると、一転してこの態度である。クズもここまで極まると、ため息しか出てこない。
「ひとまず、今この屋敷にいる奴隷は、全て解放してください。そのうえで、私の質問に答えてくれれば、多少は罪が軽くなるように、便宜をはかります」
「……ほ、本当ですか……? その保証は……?」
保障、ね。商人が好きそうな言葉だ。
「まあ、別に私はどっちでもいいんですがね……でも、逆に答えて頂けない場合は、罪が思ったより重くなるということも……」
「わかりましたっ! なんでもきいてくださいっ!」
くい気味に答える奴隷商。
……こういう強かさが、商人の世界ではものを言うのかもしれない。
「では、あなたに聞きたいのは一つだけです。あなたはここに、今朝到着した。間違いないですか?」
奴隷商は困惑気に答えた。
「……ええ、はい。そのとおりです。何人かで商隊を組んできたので、彼らに聞いてもらえれば裏も取れるかと……」
「そうですか……。わかりました」
――これで、全ての情報が出揃った。
「ではあなたは、このまま奴隷を解放してください。ちなみに、もし逃げても分かるように、あなたには魔法をかけておきました。逃げれば、より罪が重くなるだけだということは忘れないように」
「はい……」
私はそう言い残して、その場を去った。
もちろん、そんな魔法をかけてなどいない。
だが、彼には私の言ったことが嘘だと判断する材料も、手段もない。
この国における魔法や呪いとは、そういうものだ。
唯一、探偵という存在を除けば。
* * *
「ただいま戻りました。お待たせしてすみません」
私が呪術師の宿、その食堂へと入ると、全員の視線がこちらへ向いた。
アイラさんは奥の調理室の扉の前に立っていて、それ以外の人は昨晩と同じ配置で椅子に座っている。
「いや、思ったよりも早かったよ」
と辺境伯。その隣には、もう目が覚めているようで、セニスが私に鋭い視線を向けていた。
それは華麗にスルーして、「アイラさんは、こちらの席に」とアイラさんに昨晩私が座っていた席を勧める。
「承知しました」
アイラさんが座ったのを見て、私は呪術師が座っていた、一番奥の席へ。
そして、その椅子に座ることなく、静かにこう宣言した。
「呪術師を殺害した犯人が、分かりました」




