ジェダ・ハンネ・アウゼンハイド EP1 後編
「あのー、つかぬことをお聞きますが、ここって……」
「ああ、ワープミミックに飛ばされたんだったな」
「みたい、あんまりよくわかってないけど」
我もはじめて飛ばされた時は焦ったものだ、と呟いたのを聞いて、この人もそんなヘマして焦るとかあるんだなぁと少しだけ親近感。
「ここは“邪神眠る神殿”と呼ばれる場所だ」
「名前がもう物騒!!」
「運が良いな。普通はモンスターハウスに飛ばされるのだが」
「モンスターハウスって何!?名前が物騒通り越して理不尽!!」
600年前、350年前、更には150年前に邪神である竜帝達が封印され、その墓が安置されている場所だと言われても、いまいちピンとはこなかった。
そういえば凍慈が「前作から150年後くらい経っている」みたいな事は言ってた気もするが…。
「我はそこに用事がある」
「邪神封印されてるんだよね!?」
「ああ」
ジェダは意味深に短く答えただけだった。
って、ああって何!?絶対この後なんかあるじゃん!!
よくよく考えてみたらこれ絶対にシナリオ?みたいなやつ!!
「もう帰りたい!!」
「危なくなったら我の後ろに隠れると良い」
「流石にそんな情けない事はしたくない!!」
ふいと踵を返して再び歩きだすジェダだったが、その口元は少しだけゆるんでいたが、シゲが知るよしもない。
「(うわぁぁ、情けない奴って絶対に思われてるぅ…)」
ところで、この男は本当にはじめてワープミミックに引っ掛かった時、焦ったんだろうか??
「ここも違うか」
扉を開け、トラップらしきありがちな矢が正面から大量に飛んで来ても槍をクルクル回しただけで防ぐ。
落ちてきたトゲつきの天井は片手で受け止め、もう片方の手で槍をついて破壊。
「(え?そんなことある?)」
某探検映画にでも出てきそうなデカイ鉄球が転がって来ても槍でペシッと叩いて脇にそらし、デカイ丸太はバラバラに。
「(某探検映画にジェダ1人いたら話はすぐ終わっただろうな…)」
本当に(道が狭いので)後ろを歩いているだけだが、現在危険とは無縁状態だ。
ダメだ、無言状態に耐えられない…。
凍慈とだとずっと喋っていた事に今さらだけど気がついた。
そもそも、話しかけて良いのか…?
「ちょっと、聞いても?」
「答えられる事なら」
「俺に一人か聞いたけど、何で、そっちも一人?」
少しだけ動きが止まったが、それも微々たるもの。
「アリバイ作りだ」
「???」
その答えを知るのはもっと後になるのだが、今はシゲが知るよしもなかった。
「モンスターと戦闘にならないんだな…」
「モンスターと?そんな気概のあるモンスターが居れば良いが」
待って待って、襲って来るのって気概スタイルなの?
いや、言いたいことはわかるよ、俺もステータスみたから。
でもフルオープンで歩いてないよね?俺なんて勇者とか言われてるのにバンバン襲われてるんですけど、気概の問題だったの!?
「ここか」
「へ?えっ?」
ツッコミに勤しんでる間に最深部へと到達したらしく。
明らかに他とは差のある、仰々しい扉が。
「やはり我では開かんか」
ジェダが扉を押しているがびくともしない。
「……あ、もしかして」
「?」
ワープミミックを開けた時に手に入った“苔むした鍵”を取り出す。
「これ、だったり?」
「なぜ卿がその鍵を…?」
「宝箱、、モンスター?開けたら手に入ってた…」
シゲが鍵を嵌め込み回すと、カチャンと解錠する。
「お、やった」
「なるほど、、そうか…」
ゴゴゴと音を立てて扉が開く。
中は木の根や上から垂れるつるなど、年期の入ったような感じが見てとれる。
「これが、初代勇者か…」
人の銅像らしきものと、その銅像の足元にある棺。
どちらも苔が生えていたりと時代の古さがある。
「……二代目と…、三代目はここか」
三代目勇者を少しだけ見つめて、ジェダはすっと頭を下げる。
木漏れ日が差し込む中、この騎士は絵になる。
そしてその像の真ん中にある、謎の台に刺さったこちらも錆びと苔むした剣。
「……」
ジェダが柄を触って何かしてから、シゲへと視線を流す。
「抜いてみてくれないか?」
「えっ?」
先だけが刺さってはいるが、見るからに固そうな…。
ジェダも抜こうとしたんじゃないのか?
その男が抜けなかったのに?え?違う?
「物は試しだ、そうだろう?」
それは、俺への言葉だったのか。
言われるままそっと剣の柄を握ってみる。
力を…いや、握っただけだったかも知れない。
スルッと剣が台座から抜けて、体が勝手に剣をくるくると回して顔の前に。
「???」
少しだけ見開かれた瞳。
「やはり、卿が勇者だったか」
そして、少しだけ雰囲気が和らぐ。
いや、どちらかというと憂い?
「ど、どういう…?」
少しだけ静寂が。
そこまで長くもなく。
「それは聖剣。勇者にしか抜けない」
その言葉を聞いて、先に来た感想は喜びではなかった。
ああ、逃げ道はもうないんだ。それだけだ。
手に馴染むようにおさまった苔と錆だらけの塊を見つめる。
「聖剣に選ばれたんだぞ?」
「……うーん。まだ、あんまりピンと来てない、かな」
「自覚がうまれるのは今からだろう。しかし、卿はそれ以前に嬉しくなさそうだ」
「こういうのって……、誰かが“お前は勇者に選ばれたからやれ”っていうもんじゃないと思うから、かな」
生まれながらに国を背負う事を義務づけられたジェダの頭には「?」が浮かぶ。
「やりたい人がやる、じゃ、ダメだったのかなぁって」
そう言ったシゲの視線の先にはジェダがいて。
ジェダは少しだけ驚いた顔をして、でも小さくなるほどと呟く。
「……ま、やりたい事が職業、なーんてのは一握りなんだけどな」
現代でもこっちでも、やっぱり人生は理不尽の連続らしい。
にっと笑ったシゲを、しかしジェダは真剣に見つめていた。
「やりたい事が、職業…か。そんな世界があれば良いな」
少しだけ漏れたであろう本心。
それでも18歳らしからぬ言葉に「この世界はそうではないのか」という気持ちと。
「あ、、この宝箱は?」
そんな場面でも違和感の塊に抗えなくなってしまった自分と。
「宝箱?」
パカッと宝箱を無意識にあけてしまうシゲ。
「ま、待て」
慌てたジェダと目が合う。
「それは」
既に再び光に包まれて消えたシゲを見送って、ジェダも少し調べてから神殿をあとにした。
【苔むした聖剣を入手しました】
「ジェダ様、お疲れ様です」
夜。暗がり。
頭からかぶった白いマントを脱ぎ、大隊へと合流するジェダ。
「首尾はどうだ?」
焚き火の周りに集まるジェダ隊は主の帰還に少しだけ熱が上がる。
「ご安心下さい。ジェダ様の計画通り、星見は騙せました」
副官からすっと渡された暖かい飲み物に口を付けると、一人の男が大きな足音を立てて走りよる。
「私はもう二度とやりたくないですからね!」
遠目からみれば後ろ姿はジェダっぽく見える大男が、半泣きで項垂れた。
「はは、無茶を言ってすまなかった」
笑い声が漏れたジェダを隊の全員が目を見開いて見つめるが、彼は気付いていない。
「我もワープミミックにひっかかった事にしたら良かったな」
「は?ワープミミックですか?」
「いや、なんでもない」
第1章、勇者と聖女の旅立ち~チュートリアル編~
ー完ー




