「会食」 劇場版脚本より
――――――――――――――――――――――――――――――
シーン:玉座の間(夜)
月光が高窓から差し込む。静寂の中、重い食器の音だけが響く。カリスタは黒曜の長卓の先に座り、従魔たちへ“食事”を分け与えている。
――――――――――――――――――――――――――――――
カリスタ(モノローグ)
(──ひとまず、ゲームの通りに進んでいるな)
カリスタ(静かに)
「……食すがよい。この度のささやかな礼だ」
従魔たちが一斉に食事を始める。場に熱が戻り始める。ア・イチもその場にいるが、彼の目はカリスタを鋭く見つめている。
カリスタ(モノローグ)
(「魔獣の肉料理」、ゲームでは忠誠度を上げるアイテムだ。従魔たちの飢えを満たし、命令を忠実に行う。ただのルーチンだったが、こういうのも悪くはない)
ア・イチはまだ目を細めて、カリスタを見つめている。
ア・イチ(モノローグ)
(……違う。この魔王様は、違う。)
――――――――――――――――――――――――――――――
シーン:回想フラッシュ(暗転演出・静かに差し込む淡い光)
ア・イチがかつて戦場で初めてカリスタに跪くシーン。誇りと陶酔に満ちた瞳。魔王の力を賛美するモノローグがかぶさる。
ア・イチ(回想の声)
「この力……まさしく、我が主たる資格。この体、魂、すべてを捧げよう」
――――――――――――――――――――――――――――――
シーン:現在・玉座の間
ア・イチがそっと食器を置く。その視線は冷たく、警戒すら含んでいる。
ア・イチ
「主よ。お言葉ですが……先の戦闘で、“慈悲”を優先せよとの、指示……いかがなされましたか?」
カリスタがゆっくりと視線を上げる。その目は迷いに満ちている。
カリスタ
「弱者を虐げて、何が統治か。力は、守るためにあるべきが良いと思う」
従魔たちにざわめきが走る。ア・イチは眉(※あくまで比喩)をひそめ、立ち上がる。
ア・イチ
「……それは、“魔王”の言葉ではない。偽者……そう思わざるを得ません」
――――――――――――――――――――――――――――――
シーン:カリスタの内面(暗転→モノローグ)
背景は白くぼやけ、カリスタが一人立っている。
カリスタ(モノローグ)
(私は……誰も知らなかった。忠誠とは恐怖の上に成り立つ幻影だったのか。
いや、そもそも──私は“誰か”と、きちんと向き合ったことがあっただろうか?)
(孤高と称された私の在り方。それは、ただの“距離”だった。力に従う者ばかり。口を開くのは、いつも肯定。そこに、何があった?)
(平和など、イエスマンの中で築けるはずもないのに)
――――――――――――――――――――――――――――――
シーン:玉座の間 沈黙の後
カリスタは静かに立ち上がる。
カリスタ
「偽りかどうか──私自身もわからない。だが、……選びたい。見下ろす支配者ではなく、対話する者でありたいと……今は、そう思っている」
カリスタ(モノローグ)
(“魔王”である前に──やはり、転生者。この世界にとって“異質”なののか)




