まるで恋する乙女
「お主と話していたのは雷貴。電蔵の前世じゃ」
王様が術の準備の最中に、日本語を話す言語変換の術も行使した。
「紫水の前世……?」
「そうらしい」
そう言った電蔵の身体を、巨大な黒い雷が全身を覆い始めていた。床に亀裂が走る。
「……オマエらの世界が変わってるから、仕方なく信じてやるよ」
電蔵がにこやかに笑うのと対照的に、王様は悲しげに笑った。
「雷貴はいってしまったのだな……本当に消えてしまった……」
「なんでオマエらは覚えてて、俺は忘れるんだよ」
「元々この世界にいなかったから……じゃろう。存在しているわしらのことはわかる。電蔵が消滅すればわからなくなるが、電蔵はこれから死ぬ。わしが生み落とした我が子を手にかけるんじゃ。恐らくお主も覚えているだろう」
「……やっぱりこいつを殺すのか」
「なんじゃ、怖いのか……」
「さっきまで駄々捏ねてたくせに、いきなり母親ヅラしたから」
「本当に腸煮えくり返るようなやつじゃなあ。腸ないが」
「王様はたまにそういうところあるからな……」
「無駄話はとっととやめにして、さっさと終わらせろよ」
「なんだよ。まだなんかあんのかよ」
友青がイラッとしていると、王様がチラと友青に目をやり、電蔵を見つめた。
髪をほどいて、母親ではなく乙女の表情になる。まるで恋する乙女だった。
「電蔵。ムューユと呼んでおくれ」
「めんどくさいぞ王様」
「電蔵。キスしておくれ」
「気持ち悪いぞムューユ」
電蔵がしゃがんで、王様の頬に軽くキスをした。
王様は感極まり、しゃがみ込んだ。前傾姿勢で電蔵に呼びかける。
「好きじゃ電蔵。愛している」
電蔵は傅いて王様に優しく言った。恥ずかしげもなく、穏やかな表情で。
「ああ……オレもだ。王様」
「また会おうな、電蔵」
「いいや。さよならだ」
電蔵は首を振り、静かに答えた。みんなとの約束を破る。電蔵は嘘をついた。
「もうオレは生まれるべきじゃない」




