電蔵と王様の愛
「だが、世界を救うには、オレを殺すしかないんだろ。頑張って殺してくれ。オレではオレを殺せないから、お前さんに頼むしかないんだ。頼むよ、王様ァ。ちょっとくらいオレの我儘も聞いてくれ。後生だからァ」
『うぬぅ、可愛い……! くうう……猫なで声で言っても無駄じゃ! わしはお主を殺したくない! お主を殺すくらいなら……わしも死ぬ! この世界なんて、どうなってもいい! お主のいない世界は、地獄じゃ!』
王様が金切り声で泣き叫んだ。
電蔵は傷ついたような顔をして、目線を床に落とした。
「……いつまでも我儘聞いてられないんだぞ……生まれたからには、役目を果たさなくちゃならない。だが、それがブラックスフィアを滅ぼすことなら……オレは役目を果たさずに死を選ぶ。その方が、世界を救えるんだ。破滅を呼ぶオスにならずにすむ……。なァ、王様。わかってくれよ。オレの最期の我儘になるんだ。休みをくれ」
『お主こそ、わしの気持ちをわかれ! わからずや!』
「オレが世界を滅ぼす悪者になるのが、望みか?」
『……っ』
愛しい電蔵に深刻な声音で問われ、王様は黙った。
どちらの思いも尊重すべきものだ。電蔵を失うまいとしている王様の想い。世界を滅ぼすまいとしている電蔵の思い。互いに自身の気持ちを譲ろうとしない。
「オレが好きなら、オレの考えも受け入れてくれ」
黙って聞いていた友青が口出しをした。
「なあ。オマエらさ……何熱く愛し合ってんの? 気持ち悪いぜ、まじで。こっちが火傷するっての。バカらしい……そんなに好き同士ならよ、世界のことなんて知ったこっちゃないだろ。好きなようにすればいいんじゃね。それで世界が滅んだって、しゃーなしだろ? その程度の世界だってことで、諦めりゃいい」
小さいこどもが言う言葉とは到底思えない。
「オマエらはそういう仲なんだろ?」
「……少年、お前さん……何を言ってるんだ……」
電撃が走るような言葉に、電蔵が面食らっている。
「オレは王様を母親としか見てないぞ……? 愛し合ってるってなんだ……? お前さんが愛を語れる器か? 青春もしたことがないお前さんが?」
電蔵も青春を送ったとは言えない。
「うるせえ! オレにはそういう風に見えんだよ! 気持ち悪いぐらい、好き好きオーラ出てんだよ、バカ野郎! きめぇよ、バカ!」
友青はカンカンに怒って電蔵を罵倒した。親子愛というものだろうが、度が過ぎていると言いたいらしい。埒の明かなさに、友青は苛立っている。
夫婦が喧嘩しているところをこどもが見ているようなものだ。物申したい年頃なのだ。




