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154・文を預かった火車、出発を少し遅らせること

「それよりもさ! 勝丸は猫又って見たことある? 退治したことは? 勝丸って化け物とか鬼とか退治した経験があるって言ってたよね?」


「ああ、化け猫だろ? しっぽが二本とか三本とかあるやつだな。狸や狐みたく化けたりする奴もいるが、連中ほどにはぜんぜん上手くねえな。化けていても永くは持たねえし精度も低くて誰にでも見破れる。ただ、こちらが化け猫だと気付くとすぐに正体を現して襲ってくるがね。気が短えのさ」


 襲ってくる、という単語に忠郷が敏感に反応した。しかし勝丸は笑って言う。


「この秘密の話を知った以上、勝丸にも猫又退治に協力して欲しいんだよ。勝丸は化け物にも強そうだから余計にさ」


「まったく……お前らはなんだってそう厄介なことにばかり首を突っ込みたがるんだ。義ってやつかあ、千徳? 上杉ってのはほんとわけのわからんお家だな」


「うちがどうのこうってのは関係ないじゃん! だって忠郷も総次郎もいるじゃん!」


 すると勝丸はくたびれたように二人にも声を掛けた。


「お前らのことだ、別にこいつに嫌々従ってるというわけじゃあねえだろうが、なんだってこんなことに首を突っ込むんだね? 会津の藩主殿なんていよいよ大人しゅうされておった方がよろしいんじゃあねえのか? こんなことが知れたら、またお母上が殴り込みにくるかもわからんねえ」

 

 勝丸が忠郷を振り返って言う。


「母なんてどうでもいいわよ! あ、あたしは元茂には世話になっているから、それなら手を貸すくらいのことはした方がいいかなあと……つまりそういうことだわ」

「……俺は嫌々やってるぜ。仕方なくだ。こういうことは上に報告をあげなきゃならねえからな」

「ええ? 上、って?」

 僕がそう尋ねると勝丸が笑って言った。

「政宗殿のことだろ。まったく、お前さんは一見反抗的なくせして存外真面目なところがあるからな」


 ようし! これだけの面子がいればなんとかなる……かもしれないよ!


 僕は化け物の気配はわかるけども退治なんてしたことはないわけだし、一人で元茂を追いかけたところで何か出来ることなんて少ないだろう。

 でも勝丸ならそれも出来そうだし、龍脈の烙印持ちの総次郎の存在も頼りになりそう。

 忠郷は……まあ、家柄と顔だけはいいから頭数としている分には何かに役に立つかも。


 こういう気持ちは初めてだよ。

 だって僕は実家ではたった一人の若さまなのだし、一人で何でも出来なきゃいずれ藩主なんかやれっこない。だからなんでも一人でどうにかしないといけないんだもの。

 そんなことを考えると僕はいつも気が重くなっていた。兄弟がいればまた違うのかなあって考えたりもしたよ。


 だけど、今日は違う。みんながいるからなんとかなりそうな気がするよ!


「ようし! 元茂殿を追いかけるぞっ!」


 すると僕は頭上に気配を感じてそちらを見上げた。ゆらゆらと揺れる長いしっぽが目に入る。


「ねえ〜……おいらはもう出発するけど、いいのお?」


「ああ、火車! そうだったね、お手紙届けに行くんだもんね!」

 いってらっしゃいーーと僕が走りながらひらり手を上げると火車が

「そんなテキトーな見送りで士気が上がるもんか! やめだやめ!」

 と叫ぶもんだから、これには総次郎が驚いた。


「おい! 文はどうなるんだ!」


「なんと言われたって、お見送りもされないのに出掛ける気になんかなるもんか」


 火車が長い二本の尾を上に下にぶんぶん

 揺らしているのが首筋の感触でわかる。


「ちゃっちゃと片してよね。おいら仕事は早く終わらせる主義なんだから」

 

 ――と、言葉を続けた火車は僕の肩の上に下りてきてあくびをした。

 これには総次郎も少しホッとしたみたい。


 兄上に文を届けたいもんね!

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