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137・そして再び大乱闘が始まりそうな付喪神

「……お前は何もわかってない。お前が無事ならいいという問題ではない。お前が上杉の家を継げばいいということではない。この先のあたしたちの持ち主が誰になるかなんてことは関係ない。お前に掛かる不幸があれば、どんなことをしてだって身代わりを買って出るのが親というもの。例え自分が身代わりになってでも、お前のことは助けたいと思うものなのよ。だのにお前は鬼に襲われたの。こんな悲しいことがある? そんな悲しみを背負った親に、お前は鬼をけしかけてお前を襲わせた輩の気持ちをわかれというの?」


 ーー酷な話ね、と山鳥毛。


「山鳥毛……」


 そうよ、と言葉を継いだのは、隣の席に座る姫鶴一文字だった。


「お前はなんともなかったのだから、すぐに怒りを鎮めろ、溜飲を下げろだなんてのはあたしたちにとっても無理な話だわ。あたしたちはお前の母親からお前を託されたのよ? あたしたち皆々、一文字も長船も、刀も槍もなまくらも名刀も、みんなみんなーー自分の分までお前を可愛がるようにと、あの方に言いつけられたわ。そうしてそれを我が身の使命と信じて、いつもお前をここへ呼んだの。だからこうして今日ここへそいつを呼んだの。お前の身に一体何が起きたのか、どのようなことがあったのか……直接そこのそれに尋ねて確かめなければならないじゃない」


 ーー親ならそんなの当然だわ、と姫鶴一文字。


「頭に血が上りやすい長船の馬鹿はともかくとして、あたしたち一文字は話を聞ければそれで良かったのよ」


「なんだと、姫鶴!! 最初はてめえ、自分がやりたいとか地団駄分で悔しがっていたくせによおおお!」

「一文字ってのはいつもそうだ。澄ました顔して俺たちのことを何かとこき下ろすくせ、自分たちだって似たようなもんじゃねえか!」


 日光一文字が手にしていた大きな盃を姫鶴と山鳥毛の方へぶん投げる。中には並々酒が入っていたと見えて、大広間の畳が派手に撒き散らされる。


「大体、お前らじゃああいつに剣術で勝てるかどうか怪しいものだな」


「なんですって!?」


 高瀬長光の一言に斬れたらしい一文字の二人が、目の前に置かれていた魚の焼き物やら揚げ物やらのお膳をひっくり返し、こちらも手当り次第にぶん投げ始めた。


「ほんっとうに愚かだわ、長船の刀というのは!! どいつもこいつも切れ味自慢の脳筋ばかり!」


「お前らみたいな陰険な連中にだけは切れ味云々のことを言われたかねえわい!」


「我等一文字の素晴らしさは後鳥羽院も証明したわ」


「お前ら一文字はバカの一つ覚えみたく後鳥羽院、後鳥羽院てそればっかり! 御番鍛冶の一体なにがそんなにえれえのかってんだ」


 いつものように喧嘩を始めた長船と一文字のことはもう放っておくことにして、僕は背後を振り返った。

 元茂はようやく身体を起こしたものの、顔は俯きがちで表情は見えない。痛みがまだ続いているんだろう。


「元茂殿……大丈夫?」


 そうだ! 僕はひらめいて火車切りに声を掛けた。


「ねえ、火車切り? 元茂殿にお水を飲ませてあげてよ。あの霊水」


「そうやな。ほな、持ってこさせるわ」


「おい……あれ」


 総次郎はあまり僕のことも忠郷のことも名前では呼ばないので、誰を呼んでいるのかよくわからない。だから僕は、そうなった時は大体自分のことかもしれないと思って彼を見る。


 今日はまさに僕を呼んでいたようだった。

 彼が指したのは今まさに僕らがやってきた部屋。そこから一人、手桶を下げて付喪神が歩いてくる。


「ああ……こりゃあずいぶんやられましたねえ。具合はいかがですか?」


 それは水神切り兼光だったよ。彼が元茂の元まで近づいてくると、元茂に寄り添っていた市の気配が変化するのがわかって僕は彼女を見た。


 瞳が金色に輝いているよ。忠郷も総次郎もそれを見つめている。明らかな警戒と不信の気配がした。

 刹那、彼女が頭に被っていた手ぬぐいを勢いよく取ると、折れ畳まれていた耳がぴょんと飛び出した。


「あなたは……兄がこのようになることを知ってて、私をここへ呼んだのか」


 すると刹那、辺りの喧騒が嘘のように静まり返った。

 

 上座から声がする。

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