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127・鍋島家の秘密《壱》

 僕はユサユサと誰かに揺さぶられる感覚で意識を取り戻したよ。

 割と火車もこういうことをいつもやってくるんだけど、これは火車の力ではないと思った。火車より力が強いもん。


 ーーど、の、千徳殿ーー


 どこかで聞いた声だった。どこで聞いたんだろう? 誰?


 僕がそんなことをぼんやりと考えながらまどろみの中にいると、不意に身体をごろりと向きを変えられた。


 そうして、次の瞬間!


「――ぬしさま、寝とる場合やない!」


 僕は頬をひっぱたかれた痛みで飛び起きたよ。目が覚めるようないい音が辺りに響いた……と思う。


 ――ここがどこであるかはともかく。


「な、なんだよう……びっくりしたあ……」


 ひっぱたかれた頬を擦りながら自分が横たわっていた場所を確認する。


 薄々感じていたよ……だって床が堅いから、これは絶対いつもの布団に寝ていないとは思っていた。


 案の定だ。

 ここはそう……幽世だよ。うちの付喪神たちの居城。


「ぬしさま起きはった! んもう……なんや、今日はぐっすり寝てしもてここへ来るんも遅かったわあ」


「ふわあああ……そう? 今日は剣術の稽古をいっぱいしたからさ、それでだと思うよ。くたびれてたの」


 目の間にいたのは僕の脇差の付喪神、火車切り廣光だよ。

 隣には同じ廣光の脇差、九郎次郎の姿もある。同じ廣光の刀である二人は人の姿もよく似ているよ。まるで姉妹のようにね。

 二人は仲がいいから、お互いに示し合わせてわざわざそういう姿をしているに違いなかった。


「ぬしさま、大変よ。太刀や打刀の連中が大騒ぎしているの。今頃きっと大広間はえらい騒ぎだわ」


「大騒ぎ? 騒いでるのなんていつものことじゃん。お前達が大人しかったことなんてないと思うけど」


「そうやない。ぬしさまに鬼をけしかけはったあの生徒、ここへ呼ばれはったんや」


 火車切りの言葉をはっきりと理解するにはほんの数秒時間を要したよ。


「鬼をけしかけたあの生徒って……まさか、元茂殿のこと?」


 火車切りも九郎次郎も頷いたのは同時だった。


「えええ! なんでなんで? どうしてそんなことになるの!?」


「上秘蔵の連中、若さまの仇を取るんだとか言って息巻いてるのよ。それで水神切りが例の短冊を渡しにわざわざお城の中まで行ったらしいの」


 水神切り兼光はうちの刀の付喪神たちの中では唯一、日中も平気で表を歩ける。

 のみならず、身体はちゃんと僕らと同じで質感を伴っているくせ、水の在る処へはどこにでも現れることが出来るという不思議な特性を持っていた。川や池などの自然の中にある水はもちろん、果ては地面の水たまりのようなものさえ彼にとっては《通り道》なのである。


 これらは皆、彼が北信濃にあるという水の龍脈のぬしを切ったことから手に入れた水神の能力の片鱗だ。

 水は天と地とを循環し、あまねく世界の隅々に行き渡る特性があるからこんなことが出来るというけれど、水神切り本人はこの特性を、「水神に呪われた」なんて風に言っている。


「仇討ちって……あのさあ、僕はまだ死んでないんですけど」


 僕が口を尖らせて二人に言うと、「そういうことはあのバカどもに言って」と九郎次郎がむくれた。


「若さまは主上のたった一人の和子さまですもの、その若さまに鬼をけしかけるだなんて一体どういう了見なのだと……例の事件の一報を聞き付けて以来、みんなそりゃあもう怒り心頭だったのよ。憤死しそうな奴もいたわ」


「それにしたって、わざわざこんな幽世にまで呼ばなくても……」


「それと……もう一つ。今日はご城代が大事な話がある言うて、お二人のごきょうだいをここへ呼ばはったみたいやわ」


「ごきょうだい?」


 廣光の姉妹が左右に分かれると、彼女たちの背後にもうひとりお姫様のような人物が現れた……というか、これはお姫さまだよ! 正真正銘の! うちの刀の付喪神なんかじゃない!


「お、お市殿じゃないか! 君もまたここへ呼ばれたの!?」

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