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120・千徳、忘れていたことを思い出すこと 《弐》

「い、一体どうされたのです!」


「ちょっと来てちょっと来て! 早く早く!」


 休学中の生徒しかいない無人の笹寮の庭まで来て、僕は元茂の腕を離した。元茂は身体が大きいので、僕が彼の顔をじっと見つめると少し見上げる格好になるよ。


「……元茂殿、もしかして江戸の実家にもあの闇の龍脈の結晶を送ったよね?」


 元茂は僕をまっすぐ見つめたまま頷いて言った。


「……はい。化け物憑きの母に効くと思い……文と一緒に届けました。自分もそれが気になって……騒ぎがあった昨日の夕刻、あなたが意識を取り戻される前に屋敷にいる妹に宛ててそのことを文に書いて送ったのですが……さすがに返事はまだ……」


 そりゃあそうだろう。昨日の今日だ。彼の書いた文はようやく御殿から城を出た頃に違いない。


「実家は大丈夫なの?」


「まだ何の話もありません。何もないということは……つまり、そういうことだろうと思います。何かあれば家の者も、妹も、すぐにここへ飛んでくると思いますから」


 僕は先読みの夢の記憶を思い出していたよ。


 確か、市は「兄に面会の申請を出したが断られた」と夢の中で言っていた。どうして元茂は断ったんだ?


「ねえ、元茂殿? もしもだよ、もしも……お市殿が君に面会の申請を出して、ここへ面会に来たら僕にも声を掛けてほしいんだ。僕も彼女に会いたいから」


 元茂は目を丸くしていたよ。だけどそんな反応に臆する僕ではない。


「ね、お願い! 君が面会をした後でいいから……この通り!」


 僕は元茂に頼み込んだ。手を合わせて思い切り頭を下げてね。


 彼女に会いたいという気持ちはもちろんあるけれど、僕はあの夢で見た彼女の悲しげな表情が待つ未来を回避したいのだ。


 先読みの夢によれば、上覧試合が行われる前に彼女が面会の申請を入れることは間違いない。


 だから、彼らきょうだいが面会することで彼女の憂いが回避されるかもしれないよ。おまけに彼女の実家の事情だって聞くことが出来る。

 そうすれば、僕だって彼女にさよならを切り出されないかもしれないじゃないか!


 先読みの夢で見たことは必ず現実になるーー例えそれがわかっていても、黙ってそれを待っているなんてことは僕には出来ないよ。


 僕はもっともっと彼女と仲良くなりたいし、そのためには今お別れするなんてのはあまりに早すぎる。

 

 三日なんていう月日では全然足りないもん!



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