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119・千徳、忘れていたことを思い出すこと 《壱》

 僕が鶴寮の部屋に戻ると、まだ火車は文を届けに出発していなかったよ。外廊下でごろごろしながら


「まだ出発なんて当分出来なそうだよ。なんかあー……文は書き終えたとか言ってんだけど、夜とか朝に読み返したりしなきゃならないんだって」


 なんてことを言った。


「仕方ねえだろ! 文ってのはそういうもんだ」


 総次郎はよっぽど色々なことを考えて文を書いているんだなあと思ったよ。そんな総次郎を見ていたら、なんだか僕も書きたくなってきた。


「ようーし! 僕も文を出そうっと!」


「えええ~? これ以上おいらの仕事を増やさないでよお!」」


「いいよ、僕は普通に学寮の御殿から文を出してもらうもん。急いで届けてって鈴彦に頼めば、江戸屋敷くらいの距離なら上覧試合前に届くもんね」


 火車のけちんぼ! 

 僕は火車は放っておくことにして、文机に向かった。父上とに文を書いて……それと、市にも文を出そうと思ったよ。何を書こうか考えたらものすごくわくわくした。


 彼女と初めて逢ったのは三日前のことだけれど、もうずいぶん顔を見ていないような気がするよ。上覧試合には生徒の保護者が呼ばれるというから、きっと市も元茂の応援にくるはずだ。


 僕の脳裏に思い出されたのは、悲しげな彼女の顔ーーこの間、鬼にやられて気絶している間に見た霊夢。


(霊夢の彼女は……もう当家とは関わり合いになるなと言っていた。それってもうお市殿には会えなくなるってことだよね)


 僕はまだ彼女と知り合って三日しか経っていない。


 三日だよ!? たった三日! それではいさようなら二度と会いませんなんてのは辛すぎる。


うちの父上と直江山城守なんてもう五十年以上一緒にいるってのに、僕は彼女とたった三日でさようならなんてーーそんなことがあってたまるか!


「そうだよ! お別れなんて絶対しないもん。どんな未来が待っていたとしても、絶対に諦めない……」


 僕は文机の上に置いている竹の水筒を手に取って硯に入れた。墨をすりながら考える。

 そのためには一体どうすべきか……


(あれっ……そう言えば、あの霊夢の中でお市殿、他にもなにか色々言っていたような……)


 つい自分にとって衝撃的な会話ばかりに気を取られてしまっていたけれど、よくよく思い返してみれば彼女は他にも色々と僕に話していたと思う。


「た、確か……座敷牢にも……石が……置かれて……」


 僕は瞳を閉じて意識を集中させたよ。あの日見た先読みの夢をよりハッキリと思い出せるように。

 でも、文机に突っ伏してぶつぶつ何事か呟いているその僕の姿は、外廊下でのびていた忠郷にはずいぶん奇妙に見えたようだった。




《……実は、うちの屋敷の座敷牢にもその、鬼を生み出すという闇の龍脈の石が置かれていたのです。家の者に尋ねたら、どうやら兄が学寮から文と一緒に送った物らしい。座敷牢にいる母親のところへ置くように言われてそれでそのようにしていたと……》




「そうだ! 思い出した!」


 僕は急いで立ち上がると、外廊下を飛び出して庭へ降りた。休憩中の忠郷を庭から眺めていた元茂の腕を掴み、隣の寮の庭へと引っ張る。

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