116・千徳、西の御殿の生徒らと備えること
「弱きを助け、強きを挫く。頼られたら助力をするというのが当家の家風です。再び印が現れたらぜひ某をお呼びください。ああ、それと……」
僕はぬし様に言った。
「僕は人でないものの気配も感じるので、鬼がいれば気配でわかります。何をか感じることがあったら、西の御殿へもお声を掛けますね」
義利は無言で頷いた。
「念の為、このことはうちの御殿のぬしにも話をしておきます。僕とあなたとのこのやり取りを自分に全く知らされないとなれば、きっと腹を立てるだろうから」
僕は南の御殿のぬしさまの一件で懲りたのだ。
こういうやり取りは御殿のぬしの耳にも入れるべきだろう。
彼らは気位が恐ろしく高いから、自分を飛び越えたり、除け者にしてやり取りをされることを嫌うのだ。腹を立ててあんな面倒なことになるくらいなら、最初から話しておいた方がいい。
「そうだな……あいつは面倒臭い」
義利も強く頷いたよ。大助もそれに続いた。
御殿に鬼が現れたことはこの上もない災難だった。
元茂は言うに及ばず、僕も気絶して目を回していたんだもの。
だけど、その災難が起こったおかげでこうして北と西の御殿との繋がりが出来たのだ。僕もとりあえず西の御殿のぬしさまのお怒りが和らいだみたいでホッとしたよ。
雨降って地固まるーーってのは、まさにこういうことなんだろう。人は困難には結束して立ち向かうように出来ている。
「僕、この間鬼と退治した時にひとつわかったことがあるんだよ」
大助と義利が顔を見合わせて再び僕を見つめる。
「あの時……僕は持っていた石を鬼にぶつけたんだ。そうしたら鬼の身体が破裂したの。爆発したんだよ」
「爆発!?」
僕は着物の袂からそれを取り出した。
薄手の手ぬぐいに包まれたそれは、僕が鬼にめがけてぶつけた鉱石そのもの。事件の後で勝丸が見つけて回収しておいてくれたんだ。大助も義利も石を見つめた。
「きっと鬼をやっつける効果があるんだよ。この石はうちがまだ越後を治めていた頃に、父上が佐渡の島で見つけたものなんだ」
「金の鉱石が鬼に効くのか?」
「たぶんね。金だけじゃなくね、金の属性の鉱石が効くんだと思うよ。あるいは……これは僕が実家にいた頃に教えてもらったことだけど、陽の龍脈の中でも五つの要素は強い力なんだ。そのうちのひとつが、金。だから、金以外の力も闇の龍脈の塊である鬼に効果があるんじゃないかなあ」
そこまで僕が言うと、義利は「なるほど、そういうことか」と一人で納得してしまった。さすがは天下人の息子、龍脈の知識に明るいらしい。
「どういうことです?」
「闇にとって金は相剋であるのかもしれん。相手を討ち滅ぼす力の関係。あるいは五行の属性の力全てに弱いということか。木・火・土・金・水――それで、金の鉱石をぶつけて効果があった」
「そう! そうじゃないかなあって考えていたんだよ」
僕はわくわくしていたよ。自分と同じ考えに至る人間がいるって、なんて素晴らしいことなのか!
「だからね、金の鉱石でなくても、そのへんに落ちてる石ころとか庭の土でも鬼には効果があるんじゃないかって思うんだ。石や土も五行の属性の力だから! まだ試してないけど! あとはそう……金以外にも力のある鉱石はあると思うんだよ。水晶の鉱石なんかはものすごく浄化の力があるんだって聞いたけど……」
「鉱石ですか! なるほど、それはなんとかなるかもしれません」
「え。そうなの?」
「早速あたってみます。準備をしておくに越したことはありません」
そうだよ。今は戦がないからと、油断してはいけない! いつ何時も備えをしておかなくっちゃね。
常在戦場ーー僕はそういう家の若さまなんだしさ。