115・千徳、西の御殿の生徒らと協力すること《弐》
「あなたは鬼や邪が見える……今再びこの縄張りの絵図面が御殿の危機を知らせた時には、ぜひ力を貸していただきたいのです」
「縄張り?」
大助がそれを少し上に上げたよ。何が書かれているのかは……見せてくれなかったけどさ。
「これはこの江戸のお城の図面です。私が父から預かり、持っています」
「この絵図面には不思議なまじないが掛けられていて、鬼が現れると図面上に印が現れるのだ。この間の騒ぎの時も血のような染みが浮き上がった。今はもうきれいさっぱりなくなってしまったが」
「ええー! そうなの!? すごいね、それ! 今は何も印はない? 印が現れるのは鬼がいる時だけ?」
「父の話では、化け物が現れると印が付いてわかるようになっているとのことでした。人に仇なし、害を与えるものーー鬼に限らず、そういう化け物の出現を捉える絵図面です。今は何も印はありません。ですが、夜になると時折薄墨のような染みが絵図面に現れることがあります」
ーーなるほど!
僕は冷静を装っていたけれど、内心ではものすごく安心していたよ。
だって、そんな便利な絵図面があったらうちの火車がいる場所にも印がついちゃうじゃん!
火車だってさすがにそれは「げげっ!」って悲鳴を上げるに違いない。
でも今は印はついていないというから、火車の居場所は絵図面に載らないということなのか。火車は確かに地獄の鬼だという話だけれど、少なくとも今は僕の命令には逆らえないし、人に仇成すこともなければ害を与えたりもしないからかな?
「化け物も色んな連中がいるからね……でも、この間ここへ現れた鬼はめちゃくちゃ厄介なんだよ。危ないんだ。僕はたまたま運が良かっただけだよ、きっと」
「そうでしょう、そうでしょう。私も父よりそう言われてこれを託されています。もしもの時はこれを使い、無事に方々をお逃しするようにと」
方々ーーというのが誰を指すのかはなんとなくわかったよ。
そりゃあそうだ。
例え次の将軍様には別の人間が据えられるとしても、西や東の御殿のぬしさまは天下人の実の息子なんだ。なにかあっちゃあならないよね。
「私は絵図面を持ってはいますが、そういうものには明るくない。もしもこの絵図面にまた再び鬼の反応があったなら、その時はぜひそういうものに慣れたあなたになんとかしていただきたいのです」
「ふうん……鬼を僕一人でなんとかするってのは中々難しいけど……でも、こういう物があれば危機を未然に防ぐことが出来るかもしれないよね」
僕は「分かりました」と力強く答えて頷いた。