114・火車、お手紙を届けること《参》
「うーん……なるほどね。つまり、早い話がお前はどうしたいんだい? 兄上とどうなりたいの? これはどういう文?」
「どういうって……」
「だからさあ、恋仲になりたい相手に送るのが恋文じゃないか? 謝りたいってんなら謝罪の文だろ? お前のこれは何の文? 季節の挨拶ってわけでもないんだろ?」
総次郎は火車を睨みつけていた。お話にならないーーその表情の意味するところは人の心に疎い火車にもなんとなくわかった。
「総次郎、その毛の長い化け物には人間の心の動きなんてわかんないのよ。千徳だっていつだったかそんなことを言っていたわ。もっとわかりやすく言わなくっちゃ伝わらないんじゃない?」
「わ、わかりやすくって……今ので十分わかりやすかっただろ!」
忠郷が火車を呼んで言った。
「そいつは兄上と仲良くなりたいのよ。だから元気でいるか、今どこにいて何をしているのか知りたいの。怒っていることがあるならわけを聞いて謝りたいと思っているし、兄上からも文の返事を貰いたいわけ。わかる?」
「ふうーん……なるほどね。よしよし、わかってきたぞ。だいたい恋文届けるときと同じってことだな。かんたんかんたん!」
「ぜんっぜん違うじゃねえかよ! お前、本当に大丈夫なんだろうな」
「失礼だなあ。おいらが仕事を失敗したのなんて一回こっきりだぞ。おいら仕事はめちゃくちゃ真面目だからね。まかしといてよ!」
心配――火車を見つめる総次郎の声なき心情が元茂にはよく伝わってきた。ただ、化け物にはやはりわからないらしい。
「おいら、お前らもこないだ会った玉丸の親父の恋文をずいぶん沢山届けてやったもんね。だから、こういうのは慣れてるよ。つまり、あいつの両親の仲が上手くいったのはおいらのおかげってことだ。どうだい、いい仕事をしてるだろ?」
「だから! これは恋文じゃあねえんだって言ってんだろ!」