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107・蜃の龍脈のぬしさま

 蜃の術は蜃気楼を見せる術だよ。


 それは実際にそこに存在するものを少し変えて相手に見せる場合と、実際には全く存在していない幻のようなものを見せる場合とがあるらしい。それらは全て術者である義真の意のままだ。


「ねえ義真? 蜃の術って……確かこういう部屋の中とか狭い場所だと出来ないんじゃなかったの? 父上が言ってたよ。蜃気楼を見せるには色々と条件があって、中々むつかしいって」


 蟹寮の三人が自室に返った客間は少し部屋が広く感じられたよ。まるで蜃気楼の術で別の部屋にいるかのように見せられているみたいにさ。


 義真は白湯を飲み終えると、笑って言った。


「せやから庭でやったやないか。外でも天候が悪いと具合が悪いんや。ああ……でも色々と方法はあんねん。わしは烙印持ちやから色々と出来る。すごいやろ? まあ、引き換えに貝の類は食われへんようになったけどな。ハマグリだのアサリだのしじみだの……ああいう二枚貝は特にあかん。ぬしさまにごっつう怒られるんや」


 なんてしょうもない対価だろうか――別に貝くらい食べなくたって死にやしない。もっとも? 僕は好物だから食べられないなんて嫌だけどさ。


「それじゃあ、義真もフランシスコの面会の時には控えの間にいるんだね」


「当然やないか。客間係と一緒に聞き耳立てとるわ」


「長員はこれからどうするの?」


「とりあえず、俺はこのフランシスコの文を確認してベントーとやらを探すつもりだ。どう考えてもそいつは危険人物だからな。このまま野放しにしておくことは出来ぬ」


 僕は頷いたよ。でも忘れたわけではない。


「わかってる? 二人でだからね。その文は二人で見てよ? これは絶対だから! 約束を破ったら父上に言うからね。兄弟で仲良く事件を解決すること! いい? ちゃんと見張りをここへ置いておくから!」


 僕は強い声で二人の従兄弟に念を押した。従兄弟達は渋い顔をして互いの顔を見つめ合う。


「ねええ……ちょっと? まさかその《見張り》って……おいらのことじゃないだろうねえ? おいら文を届けにも行かないといけないってのに……」


「総次郎からはお礼が待ってるんだから頑張ろうよ。総次郎ならたぶんもうちょっと時間がかかると思うからさ」


 火車が尚も非難めいた声を上げていたけれど、僕はこれには自信があったよ。


 だってずっとこっそり文を書いていた兄上に、今度こそちゃんと届けられるかもしれない文を書いているんだもの。


 総次郎、きっと時間を掛けるに決まってる。本当に伝えたいことを書きたいもんね。


「ああ……わかっとるわい。ここの客間で見るわ」


 長員も頷いている。


 彼らは二人並ぶと歳の違いが全くわからない。

 どちらが兄か弟か、両親や叔父である父上にもハッキリと断言は出来ないのだというから、それも仕方ないことかもしれないよ。


 彼ら兄弟が生まれたのは謙信公が死んだ直後だった。

 上杉の家中がめちゃくちゃてんやわんやしていた時だったから、周囲の人間はみんな彼らにかまけている時間がなかったんだってさ!



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