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106・蜃気楼の秘密

 こんな太陽の日差し溢れる屋外の日中に、幽霊なんてのはまず出ない。


 これは全てお芝居なのである――僕の従兄弟、畠山義真が使う龍脈の力による術。


 《蜃》の術だ。


「わしはフランシスコの兄上には裏があると思うとる。三人とも、十分用心するこっちゃ。なにせ弟二人もぶっ殺しとる相手やからな。もちろん、三人が面会する時はわしも控えの間に待機しようと思うとるさかい、安心せえ」


 蟹寮の三人は義真を見つめて頷いたよ。その目にはみんな涙をためていた。


「僕……もう帰ろう」


 僕は一刻も早くこの場を去りたいと思ったよ。


 だって、中庭にいたフランシスコはフランシスコの幽霊でもなんでもないんだもの。

 

 あれは義真が見せた蜃気楼ーーつまり幻。


 義真は烙印持ちなのだ。


 生まれながらに龍脈の源泉から力を引き出すことを認められた、龍脈の力を司る印を授かった人間。


 彼は顔に烙印の痣があるよ。右目の横、顔の隅の方にね。隠すことが難しいので一度も隠したりはしていない。


 義真に授けられたという印は、能登にあるという《蜃》の龍脈の力のそれらしい。


 義真の実の父親は元は能登を治める畠山という名家の人間で、うちの父と同じく謙信公の養子の一人だった。彼もまた生来の烙印持ちで、だからこそ謙信公の元に匿って貰ったのだという話だよ。


 長員と義真の父上ーーつまり僕の伯父さんは最初は父上に従って上杉の家臣をしていたけど、ある日長員を連れて出奔してしまった。伯父上は自分が烙印持ちだったということもあってか、実家の再興にこだわっていたんだ。


 蜃気楼というのは本来海の向こうに見えるものらしい。

 

 蜃の龍脈のぬしさまはめちゃくちゃ大きなハマグリの姿をしているらしくって、普段は湾のどこかの海の底の土の中に眠っているという話だよ。

 ぬしさまが時折海底から姿を現すと、海の向こうには蜃気楼が起きるんだって。現実にはありもしない、それはそれは豪奢な楼閣がいくつもいくつも見えるのさ。


「結局さ……義真が上杉の跡取りにならなかったのって、あの畠山家の龍脈の烙印持ちだったからなんじゃないの?」


「まあ……十中八九、そういうことだな。努力して後天的に龍脈のぬしに認められるより、生まれ持っての烙印使う方が楽だ。力も強いし……それに何より痣の場所が悪い。あんな場所じゃ隠すことも出来ん。畠山家の烙印持ちの人間なんぞに上杉の連中が素直に従うとは思えんからな」


「でも伯父上は烙印持ちの義真を父上の養子にして、自分は長員を連れて出奔したんでしょ? 普通なら烙印持ちの息子を連れていくような気がするよね……だって畠山の跡取りにするつもりならさ?」


「やかましいわい。あいつは謙信公の信奉者だ。自分に大人しく従うとは思えんからやろ」


 龍脈のぬしに認められるということは本当に大変なことなのだ。


 父上も苦労して越後にあったという二つの龍脈の印を手に入れたと聞いている。今は日の本の龍脈の主だった源泉は徳川の将軍家に集められていて上杉の家はどこの龍脈の源泉も持っていないから、僕はそういう苦労をせずには済むと思うんだけどさ。


 だから、いっそ義真の生き様は清々しい。


 なるべく苦労や努力はしたくない。

 だから、高望みはしない。

 重い荷物は背負わない。


 身軽な自分が、今の自分に持てるもののみで、労せず最大限の利を得る。


 ーーそれが、畠山義真という人間なのだ。

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