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101・千徳、従兄弟たちに状況を報告すること《伍》

 僕は長員にはそのまま蓮の客間に待機してもらいつつ、隣の鬼灯の客間に行くことにしたよ。鬼灯の客間には畠山義真が僕を持っていた。


「おお! すっかり良うなってよかったやないか、坊っちゃん。ここで鬼に食われたとか聞いた時は俺も腰抜かしたで。死んだように寝とったもんなあ」


「ええ? 義真もお見舞いに来てくれてたの? 僕が寝てる間?」


「そうやで。お前んところの護衛役殿が知らせてくれたんや」


 そうかのか、勝丸がーー護衛役と副寮監督官を兼ねるというのも本当に大変だなあと思ったよ。おまけに勝丸は僕の実家にも謝りに行ったって言うんだからね。


「別に上杉の家なんぞどうなってもええけど、お前にもしものことがあったらお義父はん一人ぼっちになってしまうやないか。子供が親より先に死ぬなんて親不孝はしたらあかん」


「だいじょうぶ! もうぜんっぜん元気になったもん」


 そんなことよりもーーと、僕は義真に出されていた菓子を手に取って尋ねた。


「フランシスコの兄上って、いよいよここへ面会に来るんでしょう? 蟹の寮のみんなに会いに」


「せやで、坊っちゃん。とうとう蟹の寮の生徒らが折れたんや。理由を聞いたらな……」


 そこまで言うと、義真は隣の部屋に声を掛けた。


 控えの間の戸が開いて僕は声を上げたよ。

 そこには僕の見知った、でもまさかいるとは思わなかった人物がいたんだから。


「みんな! どうしてここに?」


 僕の言葉に顔を見合わせたのは、南の御殿・蟹寮の生徒たちだった。


 寺沢忠次郎、毛利勘八郎、鍋島孫平太の三人だ。


「有馬直純の面会を断った理由を知りたかったんや。お前の名ぁを出したら、何や顔見知りや言うもんやさかい、ほんならここへ一緒におってもろた方が話も弾むやろ」


 会う度に思うことだけれど、義真はおそらく長員よりも要領がよくて知恵が回る。長員はどこか父上に似ていて、頑固で融通が効かないところがあるよ。


 僕は三人に声を掛けた。なんだかひどく不安そうな顔をしていたからさ。


「大丈夫だよ、三人とも。苗字は違うけど、これは僕の従兄弟なんだ。大御所さまのご家来でね、フランシスコ殿の兄上のことを調べてるんだって」


 三人は顔を見合わせたよ。そうして静かに僕らの客間へやってきた。


「フランシスコ殿は南の御殿の生徒たちにひどくいじめられていたけど……忠次郎殿や勘八郎殿はフランシスコ殿に恩を感じていたんだよ。孫平太殿だってフランシスコ殿を悪く思ってはいない。みんなはフランシスコがいじめられていたことに心を痛めてた。フランシスコのためにならないことは絶対にしないよ。三人が義真の味方になるかどうかは、義真がフランシスコ殿をどう思っているかに依ると思うよ」

 

 蟹寮の三人は心からフランシスコの冥福を祈りたいんだ。彼らとのこれまでのやり取り、そして彼らから感じる気配で僕は確信している。


「あいつには何か裏があると思うとんねや、俺は。なんの考えもなく、ただキリシタンやからって理由だけで実の弟を二人も突然殺すかいな。自分も昔はキリシタンやったくせに鬼の首取ったみたいにしくさって……図々しいにも程があるで。しかも弟の一人は頭の一部を焼いたりしとる……一体何のために? 本人はあの時は狼狽しとって覚えとらんなんて抜かしよるが……わけわからんでほんま」


 刹那、嗚咽が漏れて僕は目をやった。孫平太だよ。


 そうか、彼ら蟹寮の生徒たちがこうしてフランシスコの死の詳細を耳にするのは、噂以外ではおそらく初めてのはずだった。


「それじゃあ……フランシスコの兄上は、何か……理由があってフランシスコを殺したってこと?」


 忠次郎と勘八郎が顔を見合わせた。


「やっぱり……あの文に何か関係があるのか?」


「文?」


 僕は忠次郎と勘八を見つめたよ。二人が頷いたので、僕は胸元に隠していたフランシスコの文を取り出した。


「ーーねえ、三人とも。実はさあ、僕の従兄弟がもうひとりいるんだけど……そいつにもこれ、見せてもいい?」


「えっ」


「そいつは将軍様のご家来でね、学寮で事件があった時にやってきて色々と調べるのが仕事なんだよ。これがあれば、フランシスコ殿のことも調べて貰える。ね、どう?」


 蟹寮の三人はみんな頷いた。

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