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100・千徳、従兄弟たちに状況を報告すること《四》

「どうやらその有馬直純、南の御殿の人間に会いにここへ来るらしいな。学寮の人間から聞いたぞ」


「ええ、本当? いよいよ来るんだ。蟹寮のみんな、ついに会う決心をしたのか……」


「俺はそのベントーという人間について調べよう。それと、鬼の一件の張本人……鍋島元茂からも事情を聞かねばならん」


 元茂の名前が出て僕の身体は固まった。


 それはそうだろうーー長員は学寮の中で事件が起きたらそれを解決し、報告をするのが勤めなのだ。そうしたことをしないはずがないとは思っていた。


「元茂殿は……どうなるの?」


「それは上様が判断なされることだ。俺はそのために事件の詳細を知る義務がある。もっとも、学寮の上役共は上覧試合までは事を穏便に済ませたいらしい。鬼の一件が公になれば鍋島家のみならず、学寮に出仕している生徒の保護者どもがやいのやいのと騒ぎ立てるだろうからな」


「元茂殿、今は僕の寮にいるんだよ。忠郷に剣術を教えてくれてるんだ」


「そうだろうな。お前の寮へ預かるとお前の寮の主務が申し出たので、俺もその方がいいと上役連中へ話をしておいた」


「どうしてその方がいいのさ?」


 火車が尋ねると長員はにべもなくこう言った。


「どうしても何も、こいつが傍におれば安心だろうに」


 長員は僕を指してそう言ったけれど、火車は首を捻っている。


「へええ……そうなの?」


「そうなの!」


 僕は胸を張って火車に言ってやったよ。


 誰かの信頼には応えたいーー例えそれが、うちを出奔した従兄弟であったとしてもだ。

 もちろん、蟹の寮のみんなや元茂、それに死んだフランシスコのためにも。


「元茂殿はよくわからないままあの闇の龍脈の石を貰ってしまっただけなんだよ。本人がそう言ってた。元茂殿の母上は……その……具合が悪くて、それで強い力のある石だと言われて貰ってしまっただけなんだ。鬼は元茂殿がそうと命じて出てきたわけじゃない。勝手に湧いて出てきちゃったんだよ」


「そうそ。鬼なんてそういうものだよ。だから厄介なんじゃないか」


 長員は火車に頷いたよ。そうして僕のことも見て頷いて言った。


「鍋島元茂のことは俺に任せておけ、喜平次。なに、悪いようにはせん。学寮の生徒は守られて然るべき存在だからな」


「本当? 頼むね、長員」


「俺はお前や叔父上とは違う……が、それでも上杉の姓を名乗る以上、多少はらしくせねばならんからな。仁義に悖ることは出来ぬし、弱き者は守らねば」


「そうだよね。父上に怒られちゃうもんね」


「そうそう。景勝のやつ、こいつらにめちゃ厳しいからな」


 長員は怖い顔をして僕と火車を睨み付けるだけで何も言わなかった。僕らは長員のことを知っているから、火車と二人で思わずちょっと笑ってしまったよ。


 長員ってばいつもそうだ。

 まさに図星という時には何も言えなくなるんだもんねえ。


「……お前ら、叔父上に何か良からぬことなど言ってないだろうな」


「ええ? 何が? どうだろうね?」


 僕は火車と二人で意味ありげに肩を竦めてやった。


 そうやって常に緊張感を持っていればいいのさ。

 だってうちの家臣達はいつもそうだもん。

 

 上杉兵ってのは軍神の手足ということで、それなりの品格というものが求められる。長員だって上杉の家にはいないけど軍神の血筋の人間ではあるんだから、そういうものはあって然るべきだと思うのさ。


 もちろん、僕だってそういうものは常にある。

 だって、僕は上杉の若さまなんだからね!


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