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97・千徳、従兄弟たちに状況を報告すること《壱》

 翌朝、僕らはとんでもなく寝不足の状態で目を覚ましたよ。

 覚ましたーーというよりも、勝丸に無理やり叩き起こされたんだけれども。


「……うわー……めちゃくちゃ眠い……信じられないくらい、眠い……」


「総次郎や忠郷の野郎はともかく、お前さんがこんな刻限まで寝ているなんて珍しいな、千徳。いつも朝はえーじゃねえか」


 勝丸は半分立ったまま寝ている忠郷に羽織を着せながら言った。

 僕はたぶん、これまでの人生で一番眠い朝を迎えていたに違いない。


 理由は昨夜夜遅くまで忠郷や元茂と剣術の稽古をしていたからだ。総次郎は総次郎で火車と一緒に兄上の行方を探していたらしくて、僕ら以上に眠そうだった。総次郎は元々朝が弱くて鶴寮では一番ねぼすけなのでいつもより余計に眠そうだよ。


「昨夜はね……ちょっとね……めちゃくちゃ頑張ってたんだ」


「なんだか夜遅くまでガヤガヤしてたからなあ、お前ら。言っとくが、ああいうのは指導の対象になるんだぜ。気をつけな」

「うわ! 勝丸ってば……聞こえてたの?」


 勝丸は忠郷の背中を叩いて言った。忠郷が悲鳴をあげる。


「あたりめーだろ。俺はお前らの寮の副監督官だぜ? ああ、そうだ」


 勝丸が再び僕を見る。


「お目付役殿がお前さんに面会だとさ。ついでに駿府の大御所様のご家来殿も」


「待ってましたあ!」


 僕が思わず飛び上がると、部屋に朝餉のお膳を運ぶ鈴彦が入ってきたよ。なんて仕事が出来る小坊主だろうか、鈴彦は!


 僕は急いで朝餉を食べ終えると、早速二人が別々に待っているという客間へ向かうことにした。火車も一緒にくっついてくる。


「なんかあいつ、今までも兄貴に文を書いてたんだけど届かなかったんだって。だから届かなかった今までの分と、おまけでもう一通文を書くって言うから、そいつが出来上がったらちょっくら行ってくるから」


「居場所がわかってよかったよ。総次郎の兄上が返事を書いてくれるといいなあ……」


 忠郷と元茂は朝餉を食べ終えると今日も庭で剣術の稽古を始めたよ。

 僕も長員と義真に報告をし終えたら合流すると言っておいた。総次郎も文を書き終えたら稽古をするらしい。



 長員と義真は実の兄弟なのにひどく仲が悪いのだと僕は父上から聞いていたよ。

 実の父親に付いて一緒に上杉の家を出奔した長員と父上の養子になった義真だから考え方も違うだろうし、互いに色々と思うことがあるんだろう。


 だけど顔の造作とか背格好はとにかく似ている。おまけに自分の損得勘定を最優先させるところもそっくりなのだから、やはり彼らは兄弟に間違いない。


 僕がまず訪ねたのは長員がいるという蓮の客間だった。

 そもそも僕は彼の仕事に協力しているんだから、こちらを先に訪ねるのが筋だろうと思ったんだ。


 僕を見るなり長員は、僕がお菓子をねだるよりも早く口を開いたよ。


「はあ……とにかく、お前が無事で何よりやったわ。典薬寮を訪ねた時には死んどるんかと思うた」


「なんだ、長員もお見舞いに来てくれたの? ぜんぜん気付かなかった。もうぜーんぜん無事だよ。ご心配をお掛けしました」


 すると早速、


「身体は大事にせんかい、このど阿呆が!」


 という叫びにも似た罵声が返ってきた。


「ええか? 叔父上にはお前以外子供がおらんねん。それくらいお前にもわかっとるやろ。お前は叔父上が奇跡的な悪運の強さで手に入れた、大事な大事なたった一人の上杉の跡取りや。何かあったらどないすんねやこのクソ馬鹿阿呆!」


「せっかく元気になったのに、そこまで罵倒されると一気に元気も失せるんですけど」


「上杉の家はお前が後を継ぐのが一番ええねん! せやったら儂も色々と恩恵を受けられる!」


 そうそうーーこういう人間が長員である。しかし、僕はおおよそこうなる展開は予想していたので別に驚きはしなかったんだけどさ。

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