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もう直昼になろうとしていた時、窓から表通りを見ていた近衛の副隊長が真っ青な顔をして俺の元に駆け込んで来た。
「パ、パンドラ殿!非常事態です!こ、こ、こ、国王陛下が御家族と参られました!護衛の者達を二十名程も連れております!如何致しましょう!」
「なっ!何考えてんだあの人は・・・・・来ちまったからには仕方ねぇ・・・俺が対応する。他の奴には無理だし俺に用が有るんだろうしな」
「申し訳ありません・・・・・隊長は一体何をしているんだ・・・・・」
「あいつはもう一度しごかにゃならんな・・・・・あれだけやられて解らんとは・・・もしかしてそう言う性癖か?」
「え・・・いや、そう言う話を聞いた事は有りませんが・・・・・」
「まぁ良いか・・・・・お客様!今お聞きになった通り国王陛下がご家族を連れて参りましたが心配はいりません!ですが、万が一の為にも少々離れて行動する様に願います!表の看板に書いて有る通り、差別も優遇もする必要は無いので跪く必要も有りません!店内では皆平等である事を証明致しましょう!」
俺の声を聞いて入り口付近からお客が離れて行くと、近衛の隊長達が入って来た。
「国王陛下とその御家族が参られた!皆、粗相の無い様に!」
隊長が店内に呼びかけると客達が跪こうとしたが俺が手を上げて制した後、陛下にエスコートされた女性とその後ろにもう一組の男女が付いて入店して来て、その後ろで近衛達が階段を塞いでいる。
陛下は俺を見つけると前に出て声を掛けてきた。
「おお!パンドラ殿、そこに居たか。今日が営業初日と聞いて遊びに参ったぞ。皆もパンドラ殿の作る料理に興味があっての、こうして連れて参ったのだ」
「いらっしゃいませ陛下、並びに殿下方。この様な場所に態々ご足労戴き有難う御座います」
満面の笑みで迎える俺を見て歓迎されていると勘違いした国王が調子に乗った。
「何、気にするで無い。今日は御忍びじゃ、その様に堅苦しい言葉遣いは止めても良いぞ。皆も我等を気にせず楽しむが良い。おお、そうじゃった我の家族を紹介せねばいかんな。こちらが我妻のミランダ、後ろにおるのが息子のライオネルと娘のエリーゼじゃ」
「・・・・・ふざっけんなあ!!なぁ~にが御忍びだ!ぜんっぜん忍んでねーだろうが!護衛を大勢連れて来やがって!他のお客が萎縮してんだろうが!昼時の一番忙しい時間帯なんだぞ!自分の身分考えろや!先触れ出す位の事も思い付かなかったのかよ!近衛!お前達も何で止めねぇんだよ!後ろの連中は階段塞ぐな!お客が出入り出来ねぇだろうが!」
俺が国王陛下御一行を怒鳴り散らした事で店内の空気が凍り付く。
お客達は俺が今直ぐにでも斬り捨てられる所を想像したのだろう、血の気の引いた顔をして俯き目を背けていた。
だが、そんな悲痛な雰囲気を物ともしない強者が居た。
「・・・プッ・・・フフフ・・・・・あはははは!やだ~もう我慢出来ない!・・・あははははは!・・・はぁ~お腹痛い・・・クスクスクス・・・あのお父様を怒鳴り散らす御方がいらっしゃるなんて思いもしませんでしたわ。ねぇお母様、お兄様」
俺に怒鳴られ青褪めて顎が外れんばかりに口を開いた陛下を見て笑い出す王女。
「えっ!?ええ・・・そう言えばそうね・・・・・宰相様でも怒鳴る事は無かったわ」
「プッ・・・確かにそうだ・・・ククククク・・・失礼、父上・・・父上がその様な顔をするなどと思ってもみなかった物ですから」
「・・・コホン・・・・・すまなかったパンドラ殿。差別も優遇も無いと言う事を勘違いしておった」
「・・・・・はぁ・・・あ~もう止め止め。今更取り繕うのも馬鹿馬鹿しく為っちまったよ。それじゃ皆さん此方へどうぞ。おっと、近衛達は入ってくんなよ。お前等は他のお客様の邪魔だから表で待機でもしてろ」
「い、いや、私達は陛下方の護衛任務中で傍を離れる訳には・・・・・」
「あ?!何言ってんだ!手前ぇらが束になったって俺に敵わねぇだろうが!俺の傍より安全な場所なんてこの世界に有る訳ねぇだろ!とっとと出て行け!それから隊長は次の休みにガーランド家に来い!これは命令だ良いな!」
「あ、いや・・・その・・・まさか・・・・・また、ですか・・・解りました・・・・・」
「・・・プッ・・・クスクスクス・・・・・パンドラ様って面白い方ですね、お兄様」
「ん?面白いと言うか・・・私は優しい方だと思うな。言葉は悪いが父上を思い遣っての事であろうし」
「そいつはまた随分と過大評価されたもんだ。陛下や大臣達からどう聞いているのかは知らんが、マークスとの約束が無かったらこの国も教国もとっくに無くなってんだ。それだけは忘れんな」
一行を食堂へと連れて行く途中、食堂との仕切りに使っているショウウィンドウの前で王妃が立ち止まった。
「パンドラ様、あちらの商品を拝見したいのですが宜しいかしら?」
「ん?ああ、構いませんよ、聞きたい事が有れば何でも聞いてください」
少し高めのアクセサリーやガラス製品が入っているケースを王妃が覗き込む。
「まぁ・・・素敵・・・・・随分と透明度が高いですけどこれは水晶の箱?並んでいる器も同じ物で出来ているみたいですけど・・・・・え?!パ、パンドラ様!これ程の物がこんな値段で売られているなんて!値段を付け間違えていませんか?!」
「間違いでは有りませんよ、殿下。そちらの素材はガラスと言って水晶や宝石と違って加工がしやすいんです。勿論この世界の技術では無理ですが」
「こ、これがガラスだと・・・・・パンドラ殿、ガラスとは此処まで透明度が高くなる物なのか!我が家に有る物とは比べ物にならぬぞ!」
「わ~綺麗~・・・・・お、お母様此方を見て下さい!どの装飾品も素晴らしい出来ですわ!」
「まぁ!あの指輪などとても細かい装飾が・・・・・あの土台は銀かしら?それにしては安すぎるわ・・・・・あれにも秘密が在るのでしょう?」
「あれはステンレスと言って鉄の合金です。銀と違って安価で基本的に錆びませんから手入れが殆んど要らず庶民向きなんですよ」
「さ、錆びない・・・・・ハッ!まさか他の商品にも使われておるのか!?」
「勿論です。主に調理器具で使ってますよ。洗った後も軽く拭き取るだけで済みますから」
店内を見渡した王太子がギョッとした表情で聞いてきた。
「パ、パンドラ殿。あの奇妙な物体はなんです?車輪が付いているから乗り物なのだろうとは思うのですが」
「ああ、あれは『三輪自転車』と言って足で漕いで進む乗り物です」
「おお、あれがジェラルドが言っておった物か。馬程手入れが要らず、乗り手の力量で速度が変わるのであろう?」
「ええ、あまり速度を出しすぎると曲らなくなりますけど、馬より乗り手を選びません」
「う、小金貨か・・・流石に良い値段がするな・・・・・パンドラ殿、私にも乗れるでしょうか?出来れば試してみたいのですが」
「試乗か・・・・・まぁ良いでしょう。但し、少しだけですよ」
王太子に乗り方の説明をした後、他のお客達を少し離して場所を空けた。
「こ、これを交互に踏んで行くのだな・・・良し行くぞ・・・ガラガラガラ・・・おお!進んだ!進んだぞ!・・・キィ・・・ふぅ・・・止まれた・・・・・確かに馬よりも扱い易そうだ、それに乗り心地も良い。パンドラ殿!私はこれを買うぞ!後で城に届けてくれ!」
「申し訳ありませんが配送はやってないんですよ。乗って帰るか馬車の手配をして頂けますか」
「なんと!・・・くっ・・・仕方ない・・・後日馬車の手配を・・・・・いや・・・父上!私はこれに乗って帰ろうと思います。これの方が馬車や馬よりも楽しそうですから」
「畏まりました。店員に表の近衛達の所に運ばせましょう。御買い上げ有難う御座いました」
まさか初日から売れるとは思ってなかったが、王太子が買った事で貴族達が買ってくれると期待したい。
「あー!お兄様ずるい!私も買うわ!このネックレスとイヤリングを頂戴!良いでしょお父様!」
「あら、それなら私は此方のグラスが欲しいわ。これにワインを注いだら素敵だと思わない?ねぇ陛下」
「あ、ああ、解った・・・買う・・・買えば良いのであろう。パンドラ殿、其方も近衛に渡して貰えるか。支払いは食事と纏めてするでな」
「畏まりました。いやぁ流石は国王陛下だ、家族思いですなぁ。では、此方が食堂になります」
態とらしく国王を誉めてから店員に指示を出し、一行を食堂へと案内した。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




