表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/164

79

朝日が昇り始める少し前に南地区へ行き準備を始めた。

ロープで土地を区切り、その間を並んで進んで貰ってその奥に有るカウンターで対応をするつもりだ。


準備が出来た所でハンス商会から玄田と店員になる二十名が到着し、配置について貰うと守備兵もやって来たんだがその中に近衛の副隊長が居た。


「おはようさん。って言うか随分と偉い人が来たもんだ」


「いや、陛下がそれなりに名の通った者が行かないと意味が無いと仰られてね」


「そりゃあ助かるんだが・・・・・良いのかね、此処までして貰うと裏を感じずには居られないんだが」


「ははは・・・当たらずとも遠からずだ。今日来ている者達は皆、自分から志願した者なんだが・・・・・旨い飯に釣られて来たんだ。お願い出来ないか?」


「しゃぁねぇなぁ・・・・・昼は簡単な物になっちまうけど夕食はちゃんとした物をご馳走するよ」


「すまない、助かるよ。よし!お前達配置に付け!夕方までしっかり働けば旨い飯を食わせて貰えるぞ!」


「おおー!」と歓声を上げて配置に付いた兵士達を確認して玄田と共に集まった民衆の前に出て声を上げた。


「御集まりの皆様、おはよう御座います!これ程沢山の方達にお越し戴き感謝の念が絶えません!それでは店長に就任した玄田君、挨拶をお願いします」


「え?ちょっと!挨拶なんて聞いてませんよ!・・・・・あ~・・・皆さん始めまして店長に就任しました玄田武士と申します。え~・・・急に挨拶しろとか言われて何言って良いのか解りませんが、任された以上誠心誠意頑張りますので宜しくお願いします」


玄田の挨拶に拍手と笑い声が上がる。


「それでは皆様、販売を開始いたしますが先ず言っておく事が有ります。商品は売り切れることは有りませんので落ち着いて誘導に従って下さい。そして御買い上げはお一人様一点となり価格は大銅貨一枚。そして販売する商品は・・・・・塩2kgとなります!」


それまで騒がしかった民衆が静かになり一人の男が恐る恐ると言った感じで聞いてきた。


「お、おい、パンドラさんって言ったか?塩2kgを大銅貨一枚って言ったんだよな?・・・冗談・・・・・いや、1/10の値段とか聞き間違いだよな・・・・・ははははは・・・・・」


ゴクリと喉を鳴らす音が彼方此方で聞こえた。


「聞き間違いでも嘘でもありません!当店ではこの先も塩の価格が下がる事は有っても上がる事は決して有りません!さあ!どうぞお進み下さい!全ての国民が買えるだけの塩を用意してあります!今買えなくても問題ありませんのでご安心を!」


集まった人達は半信半疑と言った様子で数人が前に出て行ったのを見送っていたが、最初の一人が買った塩の入った紙袋(木の皮から作った)の中を見ると次々に並び始め、噂を聞き付けた人達も集まってあっと言う間に順路に並びきれず通りを埋め尽くして行った。


昼になっても客足は途絶えず、店員と兵士達は交代で食事に。昼食で用意したカツサンドと卵サンドは好評だった。

旨そうに食べながら警備をする兵士達を見て売ってくれと言う人も居たが明日からの営業をお楽しみにと言って断った。一人に売ったら際限が無くなるからだ。


此処まで特に問題も無かったが予想通り邪魔が入った。


「商業組合だ!ここで勝手に塩を安値で売っていると聞いてきた、責任者を出せ!」


「ああ、俺が責任者のパンドラだ。商業組合が何の用だ?」


「惚けるな!お前は組合に登録していないし出店許可も出してないだろうが!即刻販売を取り止めて売り上げを持って組合まで来てもらおう!」


「ああん?何言ってんだお前等。商売すんのに組合に登録しなきゃいけない法律なんて無いだろうが」


「お前こそ何を言ってるんだ、それは慣例で当然の事だろうが!」


「そうだ、慣例でしかないんだよ。上前撥ねるだけのお前達が居る分だけ経費が掛かって商品の値段が上がるんだ。俺の店にお前達は要らない。出店許可なら国王陛下から戴いているから嘘だと思うならそこに居る近衛の副隊長さんに聞いてみな」


「なっ!それが本当だとしても組合に登録しないで商売が出来ると思うなよ!組合に登録しなくては仕入れも出来ないだろう!」


「おいおい、今売ってる塩は俺個人が手に入れた物だぜ。明日から営業開始なんだ、あんた等なんざ御呼びじゃないのさ。とっとと失せな」


「クッ!商業組合を敵に回して何時までも商売が出来ると思うなよ!必ず後悔する事になるから覚えておけ!」


「なんだそりゃ、脅しのつもりか?こっちは国王陛下が付いてんだ、ベルトラン王国に喧嘩売る気があるなら何時でも来い。騎士団と守備隊が御相手してくれると思うぜ」


どうせ裏から手を回してハンス商会に嫌がらせする位しか出来ないだろうけど既に手遅れだ。ハンス商会と露店商のドランは商業組合を抜ける事が決まっているのだ。

「シッシッ」と手を振る俺を組合員達は忌々しく睨みつけながら去って行く。


この国で塩の販売を牛耳ると言う事はとても大きな力を持つ事を意味する。

今までは商業組合と一部の大商会とその関係者が販売して来たが、これからは俺とハンス商会が全て握るんだ。

今日を境に俺達以外から塩を買う者は減って行く。価格競争で勝てない以上、在庫を減らすためには他国にでも売りに行くしかない。何しろ王国内の町村には明日配給部隊が出発するし、通達は既に出ているから国内じゃ売れなくなる。

幾つかの商会から取引の打診もあったが、うちは小売以外やら無いから全てハンス商会に行く様に言った。商業組合を抜けてハンス商会の傘下に入る事が取引をする上での最低限の条件になるから早々商会数は増えないと思う。だがハンス商会の村の話は広まって来ているし、組合との立場が逆転するのは時間の問題だろう。


さあ、今有る常識を破壊し、新しい常識を植えつける為の下拵えを始めよう。


日が傾き始めた所で販売終了の声を掛けた。

勿論不満の声が多数出たが、明日からの営業でも同じ値段で売る事を再度念を押して納得してもらった。

店員達を店の前の通りに並ばせて皆で一礼。


「本日は御買い上げ戴き有難う御座いました!少々早い店仕舞いとなりましたが明日からの営業に向けての準備が御座いますのでご了承下さい!御買い上げ戴いた後もこうして残って頂いた方々には面白い物をお見せいたしましょう!」


靄を出しロープやカウンターを取り込み石畳に店舗の基礎を打ち込む穴を開けて行く。

全ての穴が揃った所で柱が穴に合う様に店舗を収納から取り出した。


「ズズン!」と言う音と共に地面が揺れて砂埃が舞う。

そこに居た者達は皆一様に眼を見開き、口を開けて驚愕の表情を浮かべたまま身動き一つ取れる者は居なかった。

目の前で起こった事が信じられず、目の前に有る物が理解出来なかったのだ。

俺は同じ様に固まる店員と兵士達に声を掛けて店の中に入れた後、集まっていた人達に挨拶をして自分も店の中へと入った。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ