04
コボルトの集落に来てから数日が過ぎた。
集落には五つの小屋に十二匹のコボルト達が暮らしていた。こいつらは基本泉で魚を、傍の林で草や木の実や小動物を取って生活をしていた。
俺をここに連れて来たコボルトは泉や林に行く時に俺を必ず抱えて行くのでそれなりに退屈せずにいられた。
LVは上がらないし意思の疎通も出来ないが、何時来るとも知れないゴブリンを待ち続け、狩るだけの殺伐とした日常から離れて精神的にも余裕が出て来た。
何時もの様に小屋から連れ出され泉に向かう。途中で他のコボルトに何か言われ返事をする。泉に着くと俺を抱えたまま中に入って行き、俺を浮き輪代わりに少し深い所まで行くと魚を捕りに水に潜る。俺は水に浮かんだまま帰りを待ち、コボルトは捕った魚を俺の中に入れて行く。そして5~6匹捕ると俺を腹の上に抱えラッコの様に仰向けに浮かんでプカプカと漂う。
(まぁ慌てる事もねぇか。こいつが大人になったら俺を連れて狩りに行くようになるだろうしな)
水から上がり体をプルプルと振って水を払い、俺を抱えて集落へと帰ると何やら慌しかった。
一匹のコボルトがこちらに気が付き、駆け寄って来て何やら話し掛けると俺達を抱えて小屋の奥に下ろして藁と毛皮を掛けて出て行った。
(何だ?何やらきな臭い感じだが敵襲か?だったら俺を使えば・・・って、意思の疎通が出来ねぇ!!)
焦りつつも聞き耳を立てていると、外から木を打ち付ける様な音や叫び声が聞こえて来た。間違い無く敵襲だ。
コボルトは俺を抱えたままブルブルと震えて動こうとしない。
何とか思念を飛ばせないかと、がんばっていると轟音と共に小屋が吹き飛んだ。
小屋を吹き飛ばしたそれは、鉈の様な物を持った身長2m程もある豚の化け物だった。
(で、でけぇ・・・オークって奴か・・・こいつ・・・・・)
オークは俺達に気が付くとノシノシと近づいて来た。
(おお!チャンスだ!おい!ワン公!俺の蓋を開けろ!急げ!!)
俺の叫びも虚しくコボルトは恐怖で震え動けなくなっていた。オークはコボルトの首を掴むと抱えられた俺ごと左腕一本で持ち上げてニヤリと笑い、掴んでいる左手に力を籠めた。
(おい!何やってんだ!早く俺を放すんだ!早くしないと殺されちまうぞ!!)
『ガハッ・・・』と息を吐くような声を出すと、コボルトは俺を放して掴まれているオークの手を叩いた。
(ワン公!死ぬんじゃねぇぞ!今助けてやる!死ねぇ豚野郎!!)
落ちて転がった拍子に蓋の開いた俺が全力で靄を放つと、オークは驚いてコボルトを放して後ずさった。
(遅せぇんだよ!俺様の足を奪おうとした罪!その身で購って貰うぜ!!)
全力で放った靄がオークを包み込み、俺の中へと取り込むと俺は起き上がり後ろに倒れているコボルトを見た。
(おい!大丈夫か!?死ぬんじゃねぇぞ!お前にゃ俺を運ぶって仕事があんだからな!!)
「コフッ・・・ヒュー・・・ヒュー・・・・・」
取り敢えず息はしているので大丈夫かと安心していると、頭の中に声が聞こえて来た。
《LV上限に達し条件を満たした為、進化を開始します》
なにっ!?と思った瞬間、身体が光に覆われ視界が白く染まり、身体が作り変えられている様な何とも言えない感覚に襲われた。
(うぁ・・・なんだ・・・進化とか言ってたが俺はどうなったんだ・・・・・)
光が収まり混乱しつつも状況を確認しようとしていると、ドスドスと足音が聞こえて来た。
(チッ!豚野郎が来やがったか、進化で光ったせいだろうが・・・拙いなワン公は起きられそうもねぇし)
こちらに来たオークは辺りを見回した後、俺達に気が付き近寄って来たが、倒れているコボルトを一瞥し鼻を鳴らしただけで俺に手を掛け中を見ようと蓋を開けた。
(馬鹿が!貴様も俺様の経験値になるがいい!!)
靄を放ちオークを倒した後、周辺にまだ居ないかと見回すと集落は酷い有様だった。
点在する小屋は全て壊され、あちこちにコボルト達が転がっていた。
(チッ・・・酷でぇ事しやがる・・・他にはもう居ない様だが・・・こいつ以外はやられちまったのか・・・・・まぁこいつが居りゃあ何とか為るか・・・・・)
取り敢えず安全は確保出来ている様なので、進化したステータスを確認する事にした。
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木箱(中)《LV2 HP 610/610 属性:闇
耐久力:82
スキル:闇属性耐性 闇属性攻撃 物理攻撃耐性
ステータス偽装 魔法攻撃耐性 天地無用
所持限界量増加 自動修復(小)
アイテム:棍棒×27 魚×12 肉切包丁×2》
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木で出来た箱、中に何が入っているかはお楽しみ
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(・・・・・進化って大きくなっただけじゃねぇか!!スキルは有り難いが全部パッシブだし・・・・・おおい!説明文!『小』取っただけじゃねぇか!手ぇ抜き過ぎだろ!ふざけんな!!)
最早定番となった突っ込みを入れた後、視線を移動して自分のサイズを測ると高さ40cm横幅60cm奥行き40cmと一回り大きくなっていた。
溜息を付き背後のコボルトに視線を送った。息はしているが直ぐに起きる気配は無い。こいつが目を覚ましてこの惨状を見た時に何を思い、どう行動するのか、敵対する事になったら、等と考えを廻らせながら目を覚ますのを待つのだった。
ここまで読んで頂き有り難う御座いました。