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拠点に戻ると二人がテーブルに突っ伏して眠っていた。余程疲れていたのだろう、食事を食べ終えてそのまま眠ってしまったらしい。アレスは皿の上にカトラリーを置いているが、ライラに至ってはナイフとフォークを握ったままでしかもフォークを咥えている始末だ。
俺は「まったくしょうがない奴らだ」と微笑みながら呟いて、少し離れた場所に出来たばかりの物を置いて二人を運び、テーブルや調理器具を片付けた。
「さて、ライラに服でも作るか・・・・・ん~本体は出来たが装飾が難しいな・・・・・袖は長いと戦闘の邪魔になるか・・・・・靴は俺と同じで鉄板は内側にして・・・・・帽子は作っておいてここから出られたら渡そう・・・後はアクセに革でチョーカーを・・・・・よし出来た!なかなかの出来映えだ」
ライラの衣装が出来たので、アレスには玉鋼で鎧を作る事にした。
「アレスは派手なの嫌だろうし普通な感じでいいか・・・・・あれ?これじゃ剣を背負えないな・・・・・関節の稼動域が・・・・・・・・チッ・・・これじゃ着脱出来ねぇ・・・・・くそっ・・・意外と難しい作りになってんだな・・・・・ふぅ・・・後は兜か・・・・・角と牙があるし、視界範囲が狭くなっても拙いから正面は無でと・・・ん~そう言えば甲冑の中って何着るんだ?・・・・・そういや帷子とかだった気が・・・中にそんなもん着たら鎧のサイズが・・・・・布の服で良いやめんどい。替わりにマントでも付けてやりゃ騎士っぽくなって良いだろ」
* * * * * * * * * *
―――夢を見た
暖かくて優しい・・・嬉しくて楽しくてちょっぴり切ない夢だ
夢の中で私は父と母と焚き火を囲んで魚を齧っていた。
―――おとーさん おかーさん おさかなはおしおをふってやくと とってもおいしくなるんだよ
二人は優しい笑顔で私の話を聞いていた。
―――あのときひろってきたはこさんはすごいんだよ わたしにいろんなことおしえてくれて すごくつよくなったんだ
気が付くと焚き火は無くなっていて私達は立ち上がっていた。
―――だからしんぱいしないで おとーさん おかーさん わたしすごくしあわせなんだ
二人はそっと私を抱きしめ、私も二人を抱きしめた。
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目が覚めると私は木で出来た薄暗い部屋の中に居て、木の台の上で毛布に包まっていた。
体を起こして周囲を見回した。壁には大きな扉と小さな扉が幾つかあり、小さな扉の隙間から明かりが差し込んでいた。
部屋の中央には背もたれの付いた椅子と丸い小さなテーブルがあり、その傍には金属で出来た樽の様な物に筒が付いていて、筒は天井まで伸びている。樽の様な物の中には炭火が焚いてあり、上にはポットから湯気が出ていた。
寝ていた台から降りて気が付いた。何時も着ていた服は無く下着姿だった。服を着ないとダメだと主様に言われていたので周囲を見回すと、テーブルの上に畳まれた服が置いてあった。
私は畳まれた服を広げてみたが部屋が薄暗くてよく見えなかったので、明かりの漏れる小さな扉を開け光を招き入れた。
振り返り部屋の中を改めて見た。かなり広い部屋だ、一辺が8m程も有るだろうか。正面には出入り口であろう扉と、その横には木枠に填まった金属の板が光っていた。左の壁には小さな扉が二つ、右の壁には扉の付いた大きな箱が立ててあり、その横は私が寝ていた木の台がある。
テーブルに近づき広げた服をみる。闇の様な黒に染まった布地は敬愛する主の服と同じ物で、私は感極まって涙を流してしまった。
服を着て靴を履き剣を腰に下げて扉の横にある金属の板の前に立つ。
進化してから初めて見た自分の姿は綺麗な衣装に飾られていて、とても自分だとは思えなかった。
漆黒のドレスは襟と裾に白のレースが施され、羽織った七分袖のボレロの袖口にもレースが施されていて青銀の髪と尻尾に良く映えた。
この喜びと感謝を主様に伝えなければと、横の扉を押し開け部屋を出ると、右に廊下が、正面には手摺があり、その先には空間が開いていて更に先には同じ様に手摺と扉があった。手摺に近づき下を見ると左には扉が、右には階段があり、中程で左右に広がり廊下と繋がっていた。
呆然と周囲を眺めていると正面の扉が開き人が出てきた。
その人は全身に黒銀の鎧を纏って背中には巨大な剣を背負い、漆黒のマントを羽織って右脇に兜を抱えた騎士の様な出で立ちをしたアレスさんだった。
アレスさんは私に気が付くと目を見開いて一つ頷くと優しく微笑んだ。
私達は廊下を駆け出し階段を下り、主様の気配のする右側の扉を開けた。
部屋の中には大きな丸いテーブルが一つと背凭れの付いた椅子が三つ有り、その内の一つに主様が座ってお茶を飲んでいた。
「おう、おはよう。食事の準備は出来てるから座って待ってろ。今持ってきて・・・おわぁ!」
ライラに飛びつかれ椅子から転げ落ちた。ライラは泣きながら俺の胸に顔を埋め、アレスは扉の近くで横を向いて頬をぽりぽりと掻いていた。
「ったくしょうがねぇなあ・・・ライラ、その服良く似合ってるぜ」
ライラにそう言って頭を撫でてやると、顔を上げて俺を見た後、更に泣き出してしまったので諦めてされるが侭にした。
暫くしてライラが落ち着いたので二人を椅子に座らせて食事にした。
「アレスの頑張りのお陰でこの家が作れた訳だが、幾つか問題があってな・・・まぁそれは後で話すか・・・・・それじゃあ家の説明をするから付いて来てくれ」
俺は部屋を出て右に有る扉の前に立ち屋内の説明をした。
「二階はお前達の部屋と同じ物が二部屋あるが今はまだ空っぽだ、一階の右手前にある部屋もか・・・右奥の部屋は風呂場で、その反対側の左奥は調理場で、さっきまで居た部屋と繋がっている。階段の下がトイレなんだが・・・汚物処理の関係でまだ完成してない。屋内はこんなもんか・・・・・そんじゃ外行くぞ」
「あ、主様お部屋に有った金属の板と樽みたいな物は何です?火が焚いて有りましたけど」
「ああ、そりゃ鏡とストーブだ。なかなか便利だろ」
「主殿、我は風呂場と言う物が何なのか解らぬのですが」
「ん?風呂に入る習慣が無かったか。湯浴みって言えば解るか?要するにお湯で体を洗ったりお湯に浸かってのんびりして体の汚れと疲れを取る所だな」
「ほう、そのような習慣が有るとは・・・・・湯に浸かる・・・想像も出来ませんな」
「まぁそれは後で体験させてやるよ。それじゃ外行くぞ」
俺達は振り返り扉を開けて外に出て、少し歩いた所で振り返った。
「ど~よ、俺様の渾身の作品は!って、どうしたお前ら固まって」
二人はぽかーんと口を開けたまま巨大な建造物を見上げていた。
幅20m奥行き20m高さ7mの建物の上に一辺が5mもある金属の箱が三つ並んでいたのだから驚かない筈が無い。
「・・・・・改めて主殿の凄さを思い知らされました・・・・・最早何と言って良いやら・・・・・」
「はっはっは~。正直俺自身、遣り過ぎだと思ってるけどな~・・・・・ん?ライラ~、どうした~?何時まで固まってんだ~」
固まったままのライラの目の前で手を振ってみると、漸くライラは動き出した。
「・・・・・これって今まで私達が居た所なんですよね・・・・・まさかこんなに大きかったなんて・・・・・」
「まぁ中から見ただけじゃそんなに大きくは見えないか。先ずは・・・そうだな屋根の上にある金属の箱なんだが、あれは貯水槽・・・・あ~でっかい水瓶だな。あそこから壁の中の筒を通って風呂場と調理場に水を送っている。あそこには家の両側に有る階段でいけるぞ。右側の階段の下には薪小屋と風呂釜・・・これで風呂のお湯を沸かす。左の階段下には物置小屋が有るが今は空だ」
二人は説明を聞いてはいたが、解った様な解らない様な微妙な表情で此方を見ていたので話を続けた。
「さて、さっきも言ったが問題がある。先ずは大きさだ。こいつを設置出来る広さと、それなりに平らな場所が必要になるので何処でも使える訳じゃない。次に水だ。汲み上げる道具も作りたかったんだが・・・材料がもう無いんで上の貯水槽まで手で運ばにゃならん」
「あ、あそこまで水を運ぶんですか・・・・・」
「そうだ、それが今日の予定だ。って訳だから頑張ってこ~い・・・・・おいアレス、甲冑脱ぐな・・・剣もだ。ライラも・・・・・お前らぁ・・・これが訓練だって解ってねぇだろ!ほれ!さっさと行って来い!」
二人を送り出した俺は、魔法習得の為に思考錯誤を始めた。
ここまで読んでいただき有難う御座います。




