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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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83/90

安全を軽視する男


第一幕 貼られた言葉


 朝七時。

 スマホの通知音で目が覚めた。


 七瀬は布団の中で画面を見る。


《#安全軽視の七瀬》


 トレンド一位。


 目が完全に覚める。


 動画の切り抜きが拡散されていた。

 例の配信の一部。


『国際連携は拙速だ』


 その一文だけが強調され、前後の文脈は削られている。


 テロ被害者遺族のコメントが並ぶ。


《安全より自由か?》

《あなたは責任を取れるのか》


 七瀬はゆっくり起き上がる。


 想定はしていた。

 だが実際に来ると、胃が重い。


 事務所へ向かう途中、駅の大型ビジョンにニュースが流れていた。


《監視連携に慎重論 人気配信者の影響か》


 キャスターが言う。


「安全保障を巡り、世論が揺れています」


 七瀬は立ち止まらない。

 視線だけが前を向く。


 事務所。


 零が腕を組んでいる。


「来たな」


 トウマはすでに解析画面を開いている。


「拡散アカウントの三割が同時刻作成。ボット臭い」


「誰かが流してる」


 零が言う。


「国内強硬派か、海外か」


「どっちもあり得る」


 七瀬は椅子に座る。


「切り抜き元は?」


「昨日の配信。意図的編集」


 トウマが画面を回す。


 前後の文脈を含めれば、真逆の印象になる。

 だがネットは、文脈を読まない。


「どうする?」


 零が問う。


 七瀬は数秒考える。


「反論動画は出さない」


「燃えるぞ」


「わかってる」


 七瀬は静かに言う。


「俺が怒れば、相手の思う壺だ」


 机に手を置く。


「安全を軽視しているつもりはない」


「でも安全を絶対視するのも違う」


 零が息を吐く。


「一番嫌われる立ち位置だな」


「だからやる」


 七瀬は立ち上がる。


「今日は、正面から受ける」


---


第二幕 公開討論


 その日の夕方。

 ニュース番組から出演依頼が来る。


 テーマは《監視と安全》。

 対談相手は、元公安幹部。

 強硬派の象徴的人物。


 スタジオの照明は眩しい。


 七瀬はスーツ姿で席につく。


 元幹部は穏やかな笑みを浮かべている。


「あなたの発言で、連携が遅れる可能性がある」


 開口一番、そう言われる。


「テロが起きたら、どう責任を取るのですか?」


 カメラが寄る。


 七瀬は一瞬、視線を落とす。


「責任は取れません」


 スタジオがざわつく。


「私は国家ではない」


「ですが」


 顔を上げる。


「誤検知で人生が止まった人の責任も、私は取れません」


 元幹部が言う。


「安全は最優先事項です」


「自由は命があってこそ」


 七瀬は頷く。


「同意します」


 予想外の返答に、相手が一瞬止まる。


「だからこそ設計が必要です」


「連携するなら、救済も連携する」


「誤検知を国際的に訂正できる仕組みを、最初から組み込むべきです」


 元幹部が反論する。


「現場は一秒を争う」


「完璧を求めれば、何も進まない」


 七瀬は静かに言う。


「完璧は求めていません」


「最低限を求めています」


「国境を越えた誤りを、戻せる仕組み」


 スタジオの空気が変わる。


 司会者が割って入る。


「安全と自由のバランス、ですね」


 七瀬は頷く。


「どちらかを切る話ではない」


「両方を守る設計を議論すべきです」


 元幹部はしばらく黙り、やがて言った。


「理想論に聞こえます」


「かもしれません」


 七瀬は微笑む。


「でも理想を設計図に落とすのが、政治の仕事です」


 生放送が終わる。


 スタジオの拍手はまばらだ。

 だが敵意は薄れていた。


---


第三幕 波の向き


 夜。


 SNSの空気が変わり始める。


《冷静だった》

《極端じゃない》

《議論できる人》


 トレンドはまだ荒れている。

 だが色が変わった。


 零がソファで笑う。


「ギリギリ耐えたな」


「耐えただけだ」


 七瀬はスマホを伏せる。


 そこへメッセージ。

 あの男からだ。


《強硬派が焦っている》

《だが救済案、検討本格化》


 七瀬は短く返す。


《安全軽視ではない》

《設計軽視が問題だ》


 数秒後、返信。


《理解している》


 窓の外。

 夜の街は変わらず光っている。


 テロも、監視も、世論も。

 すべてが同時に動いている。


 七瀬は静かに息を吐く。


 レッテルは消えない。

 だが定義は書き換えられる。


 安全を軽視する男ではない。

 安全を、設計し直す男だ。


 その自覚が、ゆっくりと胸に落ちる。


---


第八十四話。

内部告発。

ARESに、想定外の欠陥が見つかる。


【第八十三話 終】


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