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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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非公開ルート


第一幕 招待状


 午後三時。

 事務所に届いたのは、差出人不明の封筒だった。


 白無地。切手もない。


 中には一枚のカード。


《大使館関係者との意見交換会》

《非公式》


 日時、場所。

 ホテル名だけが記されている。


 七瀬はカードを机に置く。


 零が覗き込む。


「完全に外交案件だな」


「だな」


 トウマがすでにPCを叩いている。


「最近、欧州メディアがかなり取り上げてる。《ARES Global》、向こうでも議論になってる」


 七瀬は椅子に座り直す。


「招待、ってことは」


「黙れってことか、取り込まれるかの二択だ」


 零が言う。


「どっちも違うな」


 七瀬は静かに言う。


「様子見だ」


「俺がどこまで踏み込むか」


 カードの裏には一文だけ。


《建設的対話を希望します》


 その曖昧さが、逆に重い。


 夜。

 指定されたホテルは、都心の高層。


 ラウンジは落ち着いた照明で、窓の外に東京の夜景が広がる。


 案内された個室。


 そこにいたのは、四十代半ばの男。

 柔らかな笑み。流暢な日本語。


「お会いできて光栄です」


 名刺には、欧州某国大使館の肩書き。

 国名は伏せられている。


「本日は非公式です」


 男は穏やかに言う。


「記録も取りません」


「それは助かる」


 七瀬は席につく。


 ワインが注がれるが、七瀬は口をつけない。


 男が本題に入る。


「あなたの配信は、我々の本国でも視聴されています」


「光栄だ」


「同時に、影響力があります」


 一拍。


「国際監視連携は、テロ対策上、不可欠です」


 想定通りの入りだ。


「あなたの指摘は理解できます」


「ですが」


 男は指を組む。


「懸念が強調されすぎれば、世論が硬直する」


「連携が遅れれば、犠牲が出る可能性もある」


 七瀬は黙って聞く。

 相手は敵ではない。

 理屈は通っている。


「あなたは責任を負えますか?」


 男が穏やかに問う。


「連携が遅れた結果、事件が起きた場合」


 静かな圧力。


 七瀬は目を逸らさない。


「逆に聞きたい」


「誤検知で人生が止まった人の責任は?」


 男は一瞬、言葉を止める。


「それは各国の司法で救済されます」


「国境を越えても?」


 沈黙。


 七瀬は続ける。


「救済の設計がないまま、データだけ越える」


「それが問題だ」


 男は小さく息を吐く。


「理想論です」


「かもしれない」


 七瀬は頷く。


「だが制度は、最初に設計した形で固定される」


「後から直すのは難しい」


 ラウンジのピアノが遠くで鳴る。


 男は微笑む。


「あなたは止めたいのではなく、条件を付けたいのですね」


「そうだ」


「連携するなら、救済も連携しろ」


「誤検知の訂正を国際的に保証しろ」


 男はグラスを置く。


「本国に伝えます」


 それは約束ではない。

 だが拒絶でもない。


「あなたを敵に回すのは得策ではない」


 男は最後に言った。


「ですが、利用するつもりもありません」


 七瀬は立ち上がる。


「利用される気もない」


 握手。


 その手は温かい。

 敵意はない。

 だからこそ、難しい。


---


第二幕 揺れる国内


 翌日。


 国内メディアが一斉に報じる。


《海外も関心 ARES国際連携》

《安全保障の要》

《プライバシー懸念》


 世論は割れている。


 事務所で、零が言う。


「外交まで絡むと、簡単に炎上できないな」


「炎上は目的じゃない」


 七瀬は淡々と返す。


 トウマが画面を指す。


「与党内でも意見割れてる。経済界は推進派、安全保障強硬派も前向き」


「人権派は慎重」


 七瀬は椅子に座り、目を閉じる。


「俺は政治家じゃない」


「でも、火はつけた」


 零が言う。


「責任感じてるか?」


「感じる」


 即答だった。


「だからこそ雑に扱えない」


 七瀬は立ち上がる。


「次の配信は、感情を煽らない」


「設計の話をする」


 零が笑う。


「一番視聴率取れないやつだな」


「いい」


 七瀬は静かに言う。


「数字より、残るものを選ぶ」


---


第三幕 設計図


 配信開始。


「今日は結論を出しません」


 冒頭で宣言する。


 チャットがざわつく。


「国際監視連携は、必要かもしれない」


「でも」


 画面に図を出す。


 一本の矢印。


《データ共有》


 その横に空白。


「ここが空いています」


「救済共有」


 七瀬は説明する。


「誤検知の国際削除申請」

「各国共同審査機関」

「一定期間で自動削除」


 具体案を並べる。


 チャットの流れが変わる。


《それなら…》

《現実的かも》

《議論できる》


 七瀬は続ける。


「制度は止めるか進めるかだけではない」


「どう設計するかだ」


「国家は装置です」


「装置は設計次第で、人を守る」


 言葉を切る。


「あなたが3%だった時」


「世界が味方である設計にできるか」


 静寂。


 配信が終わる。


 数時間後。


 政府が発表。


《国際監視連携に関する救済枠組み検討へ》


 小さな一文。

だが確実な変化。


 七瀬は窓の外を見る。


 空港へ向かう飛行機が、白い軌跡を描く。


 データは越える。

 だが問いも越えた。


 国家という装置は、いま設計図を書き換え始めている。


---


第八十三話。

国内強硬派の逆襲。

「安全を軽視する男」というレッテルが七瀬に貼られる。


【第八十二話 終】


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