分散の脆さ
分散型プラットフォーム。
名称は《Lattice》。
登録者数、まだ二十万。
七瀬とトウマが移動してから、一週間。
同接は安定して十五万前後。
主流時代の十分の一以下。
だが、濃い。
コメントの熱量が違う。
《ここは静か》 《ちゃんと話せる》
七瀬は笑う。
「小さい部屋みたい」
トウマが頷く。
「密度は高い」
零が後ろで言う。
「でも金にならねえ」
事実。
広告単価は低い。
スポンサーは撤退。
収益は激減。
国家の男が淡々と報告する。
「三ヶ月で資金枯渇の可能性」
七瀬は苦笑する。
「現実」
トウマも同様だ。
彼の講演依頼は減り、企業案件は停止。
「効率は落ちました」
「後悔してる?」
一拍。
「いいえ」
だが、声に疲労。
その夜。
Lattice側から通知。
「急激なユーザー流入によりサーバー負荷上昇」
零が笑う。
「お前らのせいだ」
七瀬は配信で軽く謝る。
「ごめん、重いね」
コメントが流れる。
《耐える》 《ここ守ろう》
温かい。
だが。
国家の男が別の画面を開く。
主流プラットフォーム内部資料。
「分散型サービス監視強化」
「決済経路の再審査」
彼が小さく呟く。
「兵糧攻めです」
翌週。
Latticeの決済サービスが一時停止。
寄付機能が止まる。
同時に、Latticeに不審なトラフィック急増。
サーバーダウン。
画面が真っ白になる。
七瀬の配信、強制終了。
零が机を叩く。
「DDoSか?」
国家の男が冷静に答える。
「断定はできません」
だが、タイミングが良すぎる。
SNSではすぐに噂が立つ。
《やっぱ小規模は無理》 《主流に戻れ》
七瀬はスマホを握る。
焦り。
守ると言った場所が、崩れかけている。
トウマから通話。
「分散は、脆い」
彼の声は冷静だが、重い。
「中央が攻撃すれば、一つずつ潰せる」
零が言う。
「じゃあどうする」
沈黙。
七瀬はふと呟く。
「一つじゃなきゃいい」
トウマが目を細める。
「複数分散?」
「うん」
国家の男が即座に計算する。
「同時多拠点配信は管理コストが跳ね上がります」
「でも、全部は止められない」
七瀬の目が光る。
「一つ落ちたら、別で続ける」
零が笑う。
「ゲリラ戦か」
トウマが頷く。
「効率は悪い」
一拍。
「しかし、持続性は上がる」
数日後。
七瀬とトウマは三つの分散型サービスで同時配信を開始。
ミラーリンクが即時共有。
どれかが落ちても、他が生きる。
最初の夜。
一つ目、二十分で停止。
二つ目、四十分で重くなる。
三つ目が最後まで持つ。
同接は合算で二十五万。
少ない。
だが、消えない。
コメントが流れる。
《ここにいる》 《どこでも行く》
七瀬は息を吐く。
「疲れるね」
トウマが苦笑する。
「非効率です」
「でも」
「はい」
「生きてる感じする」
国家の男は別室で画面を見つめる。
主流側の会議ログ。
「影響力分散により監視負荷増大」
「リスク再評価必要」
彼は目を閉じる。
「構造も疲弊する」
零が七瀬に言う。
「なあ」
「ん?」
「どこまでやる」
七瀬は少し考える。
揺れを守るために、生活を削る。
収益は不安定。
未来は曖昧。
「正直」
一拍。
「ちょっと限界近い」
トウマも頷く。
「私もです」
沈黙。
揺れは守れた。
だが、体力が削られている。
分散は自由だが、疲れる。
その時。
Latticeから連絡。
「新規参加開発者急増。
分散ノード拡張提案」
国家の男が目を見開く。
「自主的拡張…?」
七瀬が画面を見る。
小規模だったLatticeに、エンジニアたちが集まり始めている。
《守りたい》 《自由な場所を》
トウマが静かに言う。
「揺れは、人を動かす」
零が笑う。
「効率悪いくせに、増えるんだな」
七瀬は小さく頷く。
「だから管理は怖がる」
分散は脆い。
だが、再生する。
一つ潰されても、別が芽吹く。
中央集権は強い。
だが、硬直する。
画面の向こうで、新しいノードがオンラインになる。
同接は三十万へ。
まだ小さい。
だが、確実に増えている。
七瀬はカメラに向かって言う。
「ここがなくなっても、また作る」
一拍。
「揺れは引っ越すだけ」
トウマが続ける。
「管理は追いかけるでしょう」
「うん」
「しかし、全ては追えない」
国家の男が静かに呟く。
「……構造の限界が見え始めました」
分散は脆い。
だが、しぶとい。
揺れは、小さな火種のように散らばる。
踏み潰しても、どこかで灯る。
次章。
構造側の、より直接的な一手。
“法”が動く。
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