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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測されるダンジョン

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34/81

揺れの臨界


 休憩三分。

 画面はCM。

 だが同接は落ちない。

 千三百二十万。


 コメントは荒れている。


《トウマ揺れた》 《七瀬強い》 《いや管理必要》


 揃わない。

 均されない。


 国家の男がモニターを睨む。


「偏差補正、間に合っていません」


 零が笑う。


「人間ナメんなって話だな」


 スタジオ裏。

 七瀬は深呼吸する。

 手が震えている。


「……怖」


 小さく呟く。


 そこへトウマが歩いてくる。

 スタッフは距離を取る。


 二人きり。

 数メートル。


「さきほどは」


 トウマが言う。


「想定外でした」


 七瀬は苦笑する。


「こっちも」


 沈黙。


 トウマの視線がわずかに揺れる。


「あなたは、なぜそこまで揺れを肯定するのですか」


 七瀬は壁にもたれる。


「肯定してるわけじゃない」


 一拍。


「仕方ないだけ」


 トウマが眉を寄せる。


「仕方ない?」


「感情って勝手に来る」


 七瀬は胸を押さえる。


「止められない」


 トウマは静かに言う。


「私は止めてきました」


「うん」


「効率的でした」


「うん」


 一拍。


「でも」


 七瀬が真っ直ぐ見る。


「苦しくなかった?」


 その問い。

 トウマの呼吸が一瞬止まる。


「……」


 七瀬は追わない。


「後半、行こ」


 スタッフが呼ぶ。


 本番再開。

 画面が戻る。


 同接、千三百五十万。


 司会が言う。


「後半は“未来”について」


 スクリーンに表示。


 “十年後、理想の社会は?”


 トウマが先に答える。


「分断が減り、炎上が減り、

 データに基づいた意思決定が行われる社会」


 安定。

 だが、声に微細な揺れ。


「感情は尊重されるが、制御される」


 コメントが揃い始める。


《理想》 《平和》


 七瀬はマイクを持つ。


「私は」


 一拍。


「泣いてる人が、泣ける社会」


 ざわめき。


「怒ってる人が、怒れる社会」


 トウマが口を開く。


「それは混乱を――」


「うん、混乱する」


 七瀬が遮る。


「でも、混乱ゼロって、死んでない?」


 沈黙。


 トウマの瞳が揺れる。

 主体化成功率トウマ 76 → 72。


 国家の男が呟く。


「補正不能域」


 七瀬は続ける。


「私はね、前に言われた」


 一拍。


「“あなたの言葉で救われたけど、同時に疲れた”って」


 静か。


「ショックだった」


 トウマが見る。


「だから、あなたの言うこともわかる」


 コメントが揃わない。

 肯定と否定が交差。


「でも」


 七瀬は言う。


「疲れるからって、黙るのは違う」


 トウマが低く問う。


「では、どうするのですか」


「一緒に疲れる」


 会場が静まる。


「一緒に揺れる」


 トウマの呼吸が浅くなる。


「それは、非効率です」


「うん」


 七瀬は笑う。


「でも、人間って効率悪いよ」


 沈黙。

 数秒。

 世界が待つ。


 トウマは目を閉じる。


 胸の奥。

 抑え込んできたもの。


 幼少期。

 感情的な家族。

 混乱。

 不安定。


 だから彼は選んだ。

 管理。

 制御。

 最適解。


「私は」


 声がわずかに震える。


「混乱が嫌いです」


 コメントが止まる。

 司会も動かない。


「子供の頃、家が不安定でした」


 国家の男が目を見開く。

 想定外。


「感情の爆発は、破壊を生む」


 トウマの拳が震える。


「だから私は、止める側に回った」


 主体化成功率 72 → 65。

 急落。

 補正、追いつかない。


 七瀬は静かに聞く。


「正しさで、守れると思った」


 トウマの声が低く揺れる。


「守れた部分もあります」


 一拍。


「でも」


 喉が詰まる。


「守れなかったものも」


 コメント欄が爆発。


《泣いてる?》 《トウマ…》


 七瀬は小さく言う。


「揺れてるね」


 トウマは、否定しない。

 涙は落ちない。

 だが、声は震えている。


「私は、揺れたくなかった」


 七瀬は頷く。


「うん」


「怖かった」


 その瞬間。

 同接、千四百万。


 世界が、その一言を聞く。


 怖かった。


 揺れない象徴が、恐怖を口にした。


 国家の男が低く呟く。


「中央値、崩壊」


 投票バーが動く。


 管理 50 → 42。

 揺れ容認 50 → 58。


 だが、七瀬は笑わない。


「私は、揺れるよ」


 一拍。


「でも、あなたも隣にいていい」


 トウマが顔を上げる。

 その瞳は、もう完璧ではない。

 だが、生々しい。


「……管理は、必要です」


「うん」


「でも」


 トウマは言う。


「管理だけでは、足りないかもしれない」


 コメントが乱れる。

 揃わない。


 偏差が、割れる。


 司会が震える声で締めに入る。


「本日の討論は――」


 七瀬とトウマ。

 視線が交わる。


 勝敗ではない。

 崩壊でもない。


 変化。


 管理は残る。

 揺れも残る。


 だが。


 “揺れない象徴”は消えた。


 そこにいるのは。

 揺れる、人間。


 配信終了。


 スタジオの照明が落ちる。

 同接はゆっくり減る。

 だが、コメントは止まらない。


 零が小さく笑う。


「やったな」


 国家の男は画面を見続ける。


「……予測不能域に入りました」


 七瀬はトウマを見る。


「ご飯行く?」


 トウマが、ほんの少し笑う。


「効率は悪いですが」


 一拍。


「悪くない提案です」


 揺れは、消えない。

 だが、管理と共存する道が、わずかに見えた。


 偏差は、完全には戻らない。

 社会は、均されきらない。


 それは不安定。

 だが。


 少しだけ、息がしやすい。


 次章。

 揺れが拡散した後の世界。

 管理は黙っていない。


【第三十四話 終】


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