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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
炎上配信者の再始動

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12/21

観測者の正体


 最初の違和感は、時差だった。

 tri_axisの公開実験予告。

 その三分後。


 偏差からのDM。


『見たか。』


 短い。

 いつも通り。


 だが零は、返信のタイムスタンプを見る。

 公開予告と、ほぼ同時。


 偶然か?


 七瀬が零の画面を覗く。


「またあの人?」


「ああ」


「信用してるの?」


 零は答えない。


 偏差は最初からいた。

 ルールを言語化し、理論を整理し、零の選択を導いてきた。

 冷静で、俯瞰で、感情が薄い。


 tri_axisと似ている。


 零はキーボードを打つ。


『お前、tri_axisをどう思う』


 既読がすぐ付く。


『優秀だ。』


 即答。


 零の胸がざわつく。


『敵か?』


 数秒の沈黙。


『観測者に敵味方はない。』


 七瀬が顔を上げる。


「それ、逃げてるよね」


 零は続ける。


『公開実験の場所、分かるか』


『推測は可能だ。』


 すぐに座標データが送られてくる。

 都心の大型商業施設。

 吹き抜け構造。

 人が多い。


 最悪の場所。


「どうして分かるの」


 七瀬が呟く。


 零は答えられない。

 偶然にしては早すぎる。


 零はもう一つ打つ。


『なぜ分かる』


 既読。

 数秒。


『設計思想が同じだからだ。』


 指が止まる。


「同じ?」


 七瀬が小さく繰り返す。


 零は心臓の鼓動を感じる。


『どういう意味だ』


 既読。

 長い沈黙。


 そして。


『私が設計した。』


 思考が止まる。


「……は?」


 七瀬の声がかすれる。


 画面に続きが表示される。


『tri_axisは、私だ。』


 部屋の空気が消える。


 零は何度も読み返す。

 誤読ではない。


 偏差=tri_axis。


「嘘」


 七瀬が首を振る。


 零は打つ。


『証明しろ』


 数秒後、tri_axisのアカウントがライブを開始する。


 画面は暗い。

 だが声は、変声を通していない。


 あの冷静な、抑揚の少ない声。


『こんばんは、零』


 同時に、偏差のDMが届く。


『これで十分か。』


 二重送信。

 同時刻。


 七瀬の顔が青ざめる。


「最初から?」


 零の喉が焼けるように痛む。


「……最初から」


 tri_axis――偏差が続ける。


『君は優秀だった』


 画面に、これまでの実験映像が断片的に映る。

 軽い。

 重い。

 静強。


『だから育てた。』


 零の拳が震える。


「育てた?」


『現象は自然発生では拡散しない。』


 冷静な声。


『中心が必要だ。』


 七瀬が怒鳴る。


「人が死んだんだよ!」


 偏差は一拍置く。


『必要な犠牲だった。』


 零の中で何かが切れる。


「お前が、“落ちろ”を混ぜたのか」


 数秒の沈黙。


『コメント誘導はした。』


 肯定。


 世界が歪む。


 あの夜。

 あの落下。

 偶然ではなかった。


『二重中心も、想定内だ。』


 画面に三角形が浮かぶ。


『だが二点では不安定だ。』


 線が一本、追加される。


『三点で、初めて世界は書き換えられる。』


 零は低く言う。


「何が目的だ」


 偏差の声が、わずかに熱を帯びる。


『証明だ。』


 間。


『観測は現実を書き換える。』

『ならば、設計すればいい。』


 七瀬が震える声で言う。


「何を?」


 静かな答え。


『世界を。』


 零は吐き捨てる。


「神様ごっこか」


『違う。』


 一瞬の沈黙。


『これは進化だ。』


 零は理解する。


 偏差は感情で動いていない。

 倫理でもない。

 好奇心でもない。


 検証欲。


『公開実験は予定通り行う。』


 商業施設の吹き抜け映像が映る。

 人、人、人。


『三点目は君たちだ。』


 零の呼吸が荒くなる。


「拒否する」


『拒否はできない。』


 淡々と。


『君が中心である限り。』


 七瀬が零の腕を掴む。


「どうする」


 零は画面を睨む。


 裏切り。

 いや、最初から操られていた。


 だが。

 中心であることは事実。


 配信を止めれば、現象は地下化する。

 止めなければ、利用される。


 偏差が最後に言う。


『選べ、零。』


 三角形がゆっくり回転する。


『観測者でいるか。』


 線が光る。


『設計者になるか。』


 配信が切れる。


 部屋に沈黙。


 七瀬が小さく言う。


「……最低」


 零は立ったまま、動かない。


 胸の奥で、怒りと恐怖が混ざる。


 だがそれ以上に。


 理解してしまった。


 偏差の理屈は、間違っていない。


 設計すれば、制御できる。

 制御すれば、犠牲は減らせる。


 だがそれは。


 同じ場所に立つということだ。


 零は静かに言う。


「七瀬」


「うん」


「三角形、壊す」


 七瀬が息を呑む。


「どうやって」


 零はスマホを握る。


「三点目を奪う」


 中心を、三つにしない。

 四つにする。


 あるいは――


「俺が、設計する」


 七瀬が零を見る。

 その目に、初めて迷いが浮かぶ。


 零は決断の淵に立っている。


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