0 賽は投げられた 1
1939年8月27日午後9時 総統官邸
「閣下本当に、本当によろしいのですか?」
最後の、最後のあがきでノイラート大臣が確認する。
「大臣。いい加減くどいぞ。こちらは条件を出したのだ。黙殺したのはやつらだ」
(まぁ、そうせざる追い込んだのはこちらだが)
そう内心思いながらも俺はノイラート大臣にすげなく答えた。
この期に及んで最高指揮官たる俺が揺らぎを見せる訳にはいかないのだ。
「・・・そうですか。では私はこれで失礼します。」
『これ以上、今私が出来ることはありませんからな』と言って、肩を落としてノイラート大臣は部屋を出ていった。
いつもなら『勝手な途中退席とはなにごとですか!』と、ちょび髭党3馬鹿トリオの誰かなどが言いだしそうなものだが、今回ばかりは皆がその背を黙って見送った。
ノイラート大臣がどうにか開戦を避けようと奔走したのは皆が知るところであり、思うところがある人間も流石に自重したようだ。
「まぁ、諸君。そういうことだ。ライヒはこれまで外交的努力により、あの忌々しいヴェルサイユ条約の枷から逃れ拡張をしてきたが、それもここまでのようだ」
少し重くなってしまった空気を振り払うようにやや芝居がかった口調で俺は口を開いた。
俺が話し始めたことで、再び場の空気が引き締まる。
(こういう時ばかりはちょび髭総統のカリスマに感謝だな)
俺も前世では社会人をやっていた以上、空気の重くなる会議というのはちょくちょくあった。
立場的に会議を引っ張っていかなかればならない時もあり、そんな時は場の空気を変えようと苦心したものだがあまり上手くいった記憶はない。
その点ちょび髭総統のカリスマ(独裁力ともいう)を利用できるのは、本質的にはしがないサラリーマン気質の俺としては助かるポイントだ。
「諸君には十分な準備期間を与えたと思うが、一応確認しよう。3軍とも準備はできているんだろうな?」
俺はレーダー提督、ブロンベルク大臣、ゲーリングを見据える。
「はい!準備万端であります!」
そう真っ先に返事したのはゲーリングだ。
「我がルフトバッフェは制空戦闘機He112、重戦闘機Fw187、迎撃機Bf109を中心に戦闘機1000機に加え、急降下爆撃機Ju87、双発爆撃機He111や最新鋭双発爆撃機Ju88などの爆撃機部隊1000機、さらには重爆撃機Do19も数十機配備しております。ポーランドの航空部隊など3日で壊滅させてご覧に入れます!」
(結局、ほぼ数は史実通りか)
ゲーリングの報告を聞いて俺は内心肩をすくめた。
内訳は勿論違うだろうが、確か史実でも一線級の機体は大体2000機ほどだったはずだ。
スペイン黄金の奪取という史実にはなかった泡銭のゲットした上、戦艦の建造を取りやめたり、アウトバーンの建設を遅らせたり、要塞線の建設をほぼハリボテにしたり、経済性を無視したヘルマンゲーリング工場への出資を控えたりした。
そのお陰でライヒ経済は史実より余裕はあったはずだが、それを帳消しにする勢いで俺は金を使った。
大規模なエンジン工場の建設であったり、ブロック式建艦インフラに投資したり、コンテナシステムの構築・鉄道インフラの更新であったり、イタリアの産油インフラ投資したりと、地味ではあるがそこそこな金額を色々と投資したせいで正面装備はあまり増えていない。
製造が困難なDB系のエンジンからJumo系のエンジンに生産の軸足を移させていたが、そもそも新設したエンジン工場も今年の半ば入り本格操業を開始したところなので、まだ正面装備の増加には貢献していないのが現状だ。
(まぁ、史実通りだったらとりあえずは問題ないか)
特段、英仏やポーランドが史実と違う動きをしている様子はない。
そもそもこの時期ライヒ以外の国では空軍の整備がそこまで進んでいない。
というか、制空権の重要さを本当の意味で理解している軍は世界中どこにも存在しないだろう。
その点、俺は違う。
制空権を奪われた戦場、ひいては国家、国土がどうなるかを『過去の事実』としてよく知っている。
何を妥協しても制空権だけは渡せない。
ポーランドは勿論、フランス上空もイギリスがスピットファイアを送り込んでこない限り容易に制空権をとれるだろう。
「ふむ、期待しているぞゲーリング。陸海軍とも密に連携をとるように」
「承知いたしました!」
今回は特段俺のダメ出しがないと悟ったゲーリングは、ほっとした表情でそう答える。
ゲーリングの随行員として奴の後ろに控えていた空軍の面々も一様に胸を撫でおろした様子であった。
(まぁ、空軍はとりあえずいいだろう)
「うむ、で他はどうなっている?」
そういって俺は残りの陸海軍のメンツに矛先を向けるのだった。
いよいよ開戦です。
なのですが、ちょくちょく触れれていなかった分野(例えば、4号戦車の詳細とか)について加筆もしていきます。
たぶん過去話の間に挿入という形式になると思います。
不細工で申し訳ないのですが、計画性皆無の作者を生温い目で見守ってください笑




