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24 欧州情勢は複雑怪奇なり

・大日本帝国首相官邸のとある一室にて


「いったいどうなっているのかね?なぜこの様な情勢になるというのだ?!」


そう、声を荒げるのは宇垣総理だ。


普段は軍人の割には温厚で、ともすれば『政治家軍人』などと陰口を叩かれる宇垣総理だが欧州から降ってわいた緊急事態に頭に血を上らせている。


「我々も先ほど大使館から連絡を受けたところでして・・・詳細を確認中です」


青ざめた顔でそう報告するのは外務省の担当者だ。

欧州方面を担当しているだけあって敏腕の官僚であるはずなのだが、皇国の存亡を左右しかねない事態とだけあって流石に平静ではいられないようだ。


「外務省がそんな体たらくでどうするというのだ!ちょび髭総統は本当に戦争をする気なのか?!」


この日総理官邸はある議題がもとで紛糾していた。


その議題とは『ダンツィヒか戦争か』だ。


今年に入り緊張緩和がみられていた欧州情勢がいきなりトップギアに入ったのだ。


当事国であるポーランド、ドイツは勿論のこと、英仏も軍の動員を開始。


周辺各国、イタリア、オランダ、ベルギーなども当事国並みではないにせよ軍の動員や、国境付近への展開準備を開始するなどまさに戦争前夜の様相を呈してきていた。


とはいえ極東に位置する日本からすると欧州は遠い。


再び欧州で大戦が起きたしても、直接火の粉がかかってくることはまずない。


前大戦の時は青島や南洋諸島にドイツの植民地があったが、今はそれすら存在しない。


だから本来遠い対岸の火事のはずなのだが、つい先日締結した日独伊三国同盟がそれを許さなかった。


国内でも『英米などを不用意に刺激する』などと反対意見も多くあった同盟なのだが、外務省と陸軍の強い推進があり今年の3月に締結したのだ。


世論も当初は盛り上がっていなかったものの、ちょび髭総統が遠路はるばる自ら来日したことで政府が誘導するまでもなく親独ムードが急速に醸成された。


そうやって熱狂する国民にも背を押されるようにして締結された三国同盟は、経済分野での協力も盛り込まれた包括的な条約ではあるが、一番の目的は軍事関連での協力にある。


技術協力や、観戦武官の派遣等細かい規定は諸々あるが、かい摘むと『第三国から加盟国が攻撃もしくは宣戦布告を受けた際には自動的に参戦』『加盟国が第三国に宣戦布告した際は参戦要請があった場合は任意での参戦。ただし、対象国が事前に経済制裁等を含む存続を左右する脅威に晒されていた場合はその限りではない』という2点が最も大きい要素となる。


両方かなり踏み込んだ内容の条文であるが、特に後者は問題となった。


軍事同盟である以上、前者の項目は必須であろうが後者の項目は見方次第では加盟国が勝手に始めた侵略戦争にも付き合わないといけなくなりかねないものだったからだ。


だが、ノモンハン事件で再認識を余儀なくされたソビエト連邦の軍事力に対抗する必要や、電球や綿花・繊維分野などにおいて発生している英米との貿易摩擦を解決する手札として独伊と連携を深めることが優先されることとなった。


勿論、勝手な戦争に巻き込まれないために『任意での参戦』という但し書きをつけることで、参戦を見送ることもできる条文となってはいる。


いるのだが・・・


「閣下、ちょび髭総統から参戦要請があった場合どうされるのです?まさか独逸国の侵略戦争であるなどといって参戦を見送られるつもりではないでしょうな?」


そう牽制球を投げてくるのは石原中将だ。

閣僚級の集まりである今回の会合に出席するには本来では石原中将だと役者不足なのだが、ちょび髭総統と石原中将が『親しい』のは有名であり、今回も『有識者』として特別に出席させていたのだ。


「石原くん、控えたまえ。」


『このちょび髭信者が!』とややうんざりしながら宇垣総理は石原中将を嗜める。


本来そこまで宇垣と石原は親しくない。


というかむしろ元々は犬猿の仲だったりする。


宇垣内閣を流産させようと当初石原が画策していたことを宇垣は知っているし、石原も石原で宇垣軍縮のおり所属部隊を廃止されるなどされており、決して宇垣のことをよく思っている訳ではない。


とは言え、過去に宇垣軍縮を行った影響で陸軍内での人気が微妙な宇垣と、本人の尖った性格も災いし陸軍内で色々軋轢を抱える石原(東條英機などとは宇垣相手以上に犬猿の中である)は互いの立場を守るためにも切ってもきれない関係になってしまっているというのが実際のところだ。


そんなわけで今の発言のように宇垣を援護どころか追い詰めるような発言が飛び出してもくるのだが、困ったことに同じことを考えている将校は多い。


一触即発だった大陸情勢が急速に落ち着いたことで、多くの軍人、特に陸軍の軍人は振り上げかけた拳の落とし所を無くした。

今回の三国同盟の締結と、欧州情勢の緊迫化は絶好の『拳の落とし所』にも見えたのだ。


そしてさらには一般市民も独逸とちょび髭総統に同情的な声がなかなかに多い。


これはちょび髭総統来日で独逸との友好機運が盛り上がっていることに加え、関税やなんやらをふっかけてくる(日本人目線)英米などを腹立たしく思う世論が形成されていたことが要因である。


そんなこんなで、ちょび髭総統が参戦要請を日本に送ってきた場合、要は国民と陸軍を抑えれるか微妙なところだったのだ。


いくら同盟の中で参戦義務がないといっても、軍と国民が前のめりになってしまってはどうしようもない。


「えー、そのことなのですが総理。独逸大使から先ほど連絡がありました」


これまで黙っていた外務大臣のその一言で一気に部屋の空気が張り詰める。


「早速、か。それで大使は、ちょび髭総統は何といっているのだ?」


ひりつく空気の中、外務大臣は総理に促されるままおもむろに口を開く。


そうして外務大臣の口から語られた独逸大使の要請は、意外なものでありその場に居並ぶ閣僚に驚きと困惑をもたらしたのであった。





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― 新着の感想 ―
嫌なら参戦しなくてもいいよってかw? まあ日本参戦はアメリカ参戦の引き金と言えなくもないからなぁ・・・
さあさあ物語は盛り上がってまいりました! 更新を首を長くしてお待ちしています。
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