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15 幕間 ライヒと機関車

「かくかくしかじか、ということでございますのでヘンシェル・ラインメタルといった各社にて52型機関車の量産に入っております。初年度は500輌、来年度は1500輌の生産を見込んでおります」


総統御前会議の場でトートは自ら担当の分野の報告を立て続けに報告していた。


「そうか、よくやったトート。そのまま生産数を増やすように」


ちょび髭総統は至極ご機嫌な様子でトートに告げた。


「承知いたしました」


そうトートは返事をしながら2年前、ちょび髭総統の急な呼び出しから始まった統制型蒸気機関車『52型機関車』を思い返すのだった。


———————————————



「はぁ、機関車ですか?」


トートはその時思わず惚けた声を出してしまった。


それだけ総統閣下の言った事が意外だったからだ。


「あぁ、そうだトート。ライヒ国鉄の機関車や貨車は著しく老朽化が進んでるらしいではないか、これではまるでライヒが動脈硬化を起こしているようではないか!早期に解決せねばならん!トート!君も仮にもライヒ産業界を統括する立場なのだ!それくらいは分かるだろう!」


「は、はぁ」


総統閣下の剣幕に押されトートはまたしても曖昧な返事をしてしまった。


トートは優秀な官僚でテクノクラートだ。


総統閣下の言った事が理解出来なかった訳ではない。


むしろそんな事は現場を預かる者として総統閣下より身に染みて理解出来ていた。


では、何故優秀なトートが惚けてしまったのか?


(正論すぎる・・・)


ちょび髭総統は国力増強にご執心だ。


アウトバーンを建設したり、国民自動車を開発し自動車所有台数を増やそうとしたり、鉄鋼生産量を増やそうとしたりと様々な角度から国力の増強を計画してきた。


だが、数字に表れない部分、目立たない部分に関してはどちらかというと注力しない傾向があった。


鉄道インフラの改善などはその最たるものだ。


別に総統閣下が鉄道に興味が無い訳なのではない。


ベルリン地下鉄の延伸には積極的であったし、高速機関車の開発にも熱心であった。


だが既存の設備の刷新、改修といった『いまいちパッとしない』案件に関してはそれほど熱心ではなかったはずなのだ。


それがここにきて『設備の刷新を図れ!』だ、しかも地味中の地味といえる貨車を含めだ。


あまりに落差が大きく、トートが咄嗟に反応できなかったのも無理からぬことであった。


「承知いたしました。ですが、それをするとアウトバーンの建設速度がますます低下しますがそれは宜しいのでしょうか?」


国鉄の設備刷新とアウトバーン建設は関係ないように見えるが、実はそうではない。


建設作業員といった労働力の取り合いという点もあるが、そもそも国鉄の利益の一部をアウトバーン建設に流用していたのだ。


その流用分が無くなる分、資金面からしてもアウトバーン建設が送れるのは無理からぬことなのである。


「それは仕方あるまい。それにそもそもだトート。ライヒは今完全雇用が達成されようとしている。労働者不足であるのにアウトバーンの完成を急ぐ必要もあるまい。」


『ライヒのモータリゼーションはまだまだ時間がかかるだろうしな』と、苦笑しながら総統閣下は言った。


全くもって正論。


トラック生産台数が大幅に増え、近日中に国民車の量産開始も予定はされているが、まだまだライヒの物流の主役は鉄道である。


失業対策ならまだしも、現状のライヒの雇用情勢でわざわざ工事する必要もない。


必要ないのだ。


そんなことはトートも当然分かっている。


分かっているからこそトートはこう叫びたい。


(あんたがそれを言うか!)


総統閣下『早く完成されろ!』とせっつくから採算性、効率を無視してアウトバーンの建設を進めていたのだ。


トートからしたら梯子を外された気分にもなるというものだ。


それでも悲しいかなトートは宮仕えの官僚である。

しかも上司は最恐の独裁者、ちょび髭総統である。


「承知いたしました。国鉄と調整してまいります。」


こう答えるのが精一杯であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1ヶ月後


「ダメだ、トート。もっと簡易な設計にしろ。」


トートは国鉄とすったもんだの打ち合わせの上、ちょび髭総統にドイツ国鉄刷新計画をプレゼンしていた。


貨車の入れ替えや、鉄道網、貨物ヤードを中心とする設備刷新についてほぼ何も修正点なく総統閣下の決裁を受けることが出来た。


だが、新型機関車の提案でつまずいた。


老朽化していた機関車を代替するべく、もともと新型標準機関車を新規設計・生産する計画はあった。


だからそれに則った形で設計要目を設定し、総統閣下に報告したのだがこれがバツをくらった形だ。


「簡易な設計といいますと、もっと軽量級の機関車にせよということでしょうか?」


恐る恐る国鉄総裁が総統閣下に尋ねる。


「そういうことではない。諸君らが設定した機関車のスペックは諸君らが必要だと考え設定してるのだろ?であればそれは別に良い。私が言っているのはもっと生産が容易な設計にせよということだ」


そう言うと、続けて総統閣下は矢継ぎ早に新型機関車にもとめる要件を提示された。


・非鉄金属は可能な限り低減すること

・肉厚鋼材の使用は可能な限りさけること

・厳冬期にても運用可能な仕様とすること

・低廉廉価単純な構造とすること

・上記を達成するため想定耐用年数は10年とし、安全装置も最低限のものを除き省略可とする


「耐用年数10年ですか?」


国鉄総裁が驚きの声をあげる。

蒸気機関車の耐用年数は適切な運用・保守をすれば数十年に及ぶ。


10年というのはあまりに短い。


「そうだ10年だ。ただし、軍用機関車として過酷な状況で使用したとして10年だ。過度に頑丈に作る必要はないが、一定限度頑丈につくれ」


(また難しいことを・・・)


トートは国鉄総裁とヘンシェルなどのメーカー技術者を気の毒に思った。


要はコストと耐久性の絶妙なバランスを追及せよという指令だ。

そんな事を言われた技術者は涙目だろう。


「それにだ、そう遠からず蒸気機関車の時代はおわる。ディーゼル機関車や電動機関車の時代がくるのだ。もっと言えばトラック輸送の割合が飛躍的に上昇するだろう。だからこそそこまでの耐久性を新型機関車は備えずともよい」


『そのうち船もディーゼルに置き換わるだろうしな』と蒸気機関技術者からすると涙目なことを総統閣下は平然と告げるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ドイツ国鉄52型機関車


この蒸気機関車は1937年から始まったコンテナシステム対応を始めとしたドイツ国鉄刷新運動の一貫として開発が始まった標準型機関車であり、第二次世界大戦における、ちょび髭ドイツ軍の兵站と戦時経済を語る上で欠かせない存在である名機関車である。


設計に2年の歳月を費やしたことで量産開始は1939年であるが、その設計に要した時間に比例し非常に完成度の高い機関車となっている。


本車両の特徴としては、生産性の高さと堅牢さが筆頭に挙げられる。


多くの部材が薄い鋼鉄のプレス加工で製作され生産が容易なものとなっており、特殊な耐熱金属や肉厚な鋼板、切削加工が必要な部材などの高コストな部材は最小限に留められている。


その結果、最盛期には日産10両以上、年産に直すと5000両以上の生産が行われ、総生産数は約3万両にも達する。


その数ゆえに、戦後多くの個体が余剰分としてドイツ勢力圏内圏外を問わず格安で輸出され、アメリカなど旧敵国で使用されたものも多い。


特に戦時中、多くの機関車がルフトバッフェの攻撃で破壊された英国には多くの個体が輸出された。


故障知らずの堅牢な52型に対して、愛憎入り混じった複雑な想いを抱く運転手も多かったそうだ。


そんな膨大な規模の生産を実現する為、生産性の高さ及び低い調達価格を52型機関車は求められた。


その為、安全装置を省略したり耐久性を落としたりと、凝り性のドイツ人が設計した割には非常に簡素で単純なつくりとなっているが、むしろその単純な構造が綿密な構造計算・重量配分と相まって破格の耐久力を52型機関車に与える結果となった。


『10年もてば良い』という要件の中で設計された本車両だが、一部地域では1980年代まで、つまり半世紀近くに渡って使用された個体が存在するほどの堅牢さを誇る。


かくして、『必要な時に、必要な数、必要な品質』で供給された52型機関車は戦時中に生産されたドイツ工業製品の中でも屈指の成功を収める事になった。


だが一方でこの機関車の存在こそ、ちょび髭総統が世界大戦を意図して引き起こした証拠の一つと語る歴史家も多い。


通説では当時のドイツ指導部は幾つもの外交的要因と経済的要因の重なりが原因で、開戦に踏み切ったとされており、グデーリアン将軍の有名な言葉『まさか訓練用の戦車で戦争するとは思わなかった』に代表される通り、あのタイミングでの開戦はドイツ指導部にとっても想定外であったように外形的には見える。


だがここで疑問となるのがこの52型機関車の存在である。


ドイツの設計にあるまじき簡素な設計。


それこそ鹵獲した連合国が慌てて参考にするほどの戦時急造機関車としての完成された存在。


そんな存在を1937年初頭の段階から設計開始し、1939年から生産を開始したという時系列。


まるで前大戦をもはるかに越える総力戦に伴う経済の拡張、占領地の拡大による物流規模の大幅拡大、さらにはパルチザンや航空攻撃による機関車の損耗を事前に織り込んでいたかの様な、平時においては破天荒とも言える生産数値目標の設定。


これら全てが『ちょび髭総統は開戦の数年前から次の戦争が人類史最悪の大戦となると想定していた』それどころか『ちょび髭総統こそが大戦の絵を全て描いていた』というある種、陰謀説めいた説を唱える歴史家一派の論拠となっている。








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― 新着の感想 ―
いわゆる日本の戦時型車輌って良くも悪くもあとに続くですよねえ。あとドイツの大失敗は鉄道網の貧弱さですからねえ。 D52も粗悪ボイラ取り替えて高度経済成長直前には大活躍ですし流用のC62は御存知の通り …
まさにD-52型! ←(≧∀≦)
経済の立て直しの見通しが立てれたらまず間違いなく最後通告が来るだろうなって前世の歴史を知ってると予感させられるからしゃあない。
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