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喉元を這いずる恐怖は吐き出すことでしか解決しない。

 人は本当に死が迫ったときゆっくりに感じるらしい。


 そしてその間に今までの記憶から何とか助かる道を探すために脳が焼ききれるような速度で思考し、それを走馬灯と呼ぶ。


 言い得て妙な話だ、それを回避するだけの手段があるというならそもそもこんな目には遭ってないのかも知れないんだからな。


 いくら過去をみてもどうしようもない時だってある。


 私が英雄と呼ばれるほど強かったら、迫り来る触手の化け物もどうにかなったかもそれない。


 なんて、驚くほどに冷静な頭で考えた。




 走馬灯の時間は止まったわけじゃない。


 ゆっくりだが動いているのさ。



 そして、時間は使い切られた。






「がわっ!?あっがぁぁ…!」


 顔にまとわりつく何本もの瑞々しいミミズのような触手、一本、また一本と喉の奥を攻め立てるように口内に入り込んでくる。


 最悪な気分だ、だがそれを忘れるくらいに苦しい。


 吐き気を催す臭いに痛み、ズルズルと内臓を引きずり出されているみたいだ。


「くそっ此奴!」


 ロイさんが必死に剥がそうとしているのを感じる、だが剣で刺せばもれなく私の頭も致命傷を負うだろうし力で剥がすにはこのミミズもどきはパワフルに過ぎるのだ。


 呼吸ができないからか、次第に意識も遠のいていく。



 何度目か死にかけたが、この死に方だけは嫌だったな。


 窒息は脳の細胞が秒単位で死滅していくんだ、つまり散々蓄えてきた知識も……じきに……全部無くな



 ……るか



 …死んで……たま……


 死んでたまるか!



 勢い良く歯を食いしばる、食いちぎって飲み込んでしまおうが構わない、後で全部吐けばすむ話だ。


 簡単に私の体を奪えると思うな、私のこの知識は奪わせたりしない。


 私をこの最高の世界から閉め出させたりはしない!



 硬い、だが骨じゃなく蛸足のような弾力で噛み切れないだけだ。


 歯をノコのように使う、縦にじゃなく何度も横にスライドさせるんだ。



 生き残る、私は生き残るぞ。



 そしてそのあかつきにはお前の仲間を隅々までばらして調べてやるからなミミズ野郎。


 体を起こしてロイさんの剣を掴み、自分の顔ごと擦り付ける。


 口に入りきっていない触手の大元が切れているのだろう、生暖かい液体が私の手を伝う。


 顔が多少切れようが知ったことか、消毒は出来やしないかも知れないが焼いて塞いでやる。



「お、おい!大丈夫なのか!?」





 程なくして、ミミズもどきが私を離した。


 我慢比べに勝ったと言うのが正しいだろう、だが油断はしない。


 今度ばかりはしてやらない。


 久々の呼吸に頭が悲鳴を上げるようにズキズキと痛むがそんな事は知ったことではない。


 何度も踏みつけ、踏みにじり地面にめり込ませる。



 その後数十分はもう凄かった、嘔吐に次ぐ嘔吐。


 しかし井戸の水をバケツいっぱいに飲んで尚も吐瀉し続けるには訳があるのだ、最初に吐いたものの中に透明な粒があった、恐らく卵抱か何かだろう。


 こんな世界で得体の知れない生物に寄生されるなんてごめんだ。



「…学者、大丈夫か。」


「…得体の知れないミミズもどきに喉を犯され卵を植え付けられたのを大丈夫と言うなら…無事です。」



「悪かったな、あれくらいやらねえとお前を村の奴らに売り込むネタにならなかったんだよ。」



「おかげで私はあとちょっとでこの知識ともお別れし、その後世界からもおさらばする所だったんですが?」



「……同情するよ。」


 うっせえばーか!同情するくらいならお前もいきなり猛獣レベルの謎生物と戦わされた挙げ句に強制触手プレイさせられてみろ!


 とまあ忌々しい記憶は忘れよう、幸いにも私の心の傷以外は剣を掴んだことで出来た手の傷、弾みで負った口元の傷、後は内臓を傷つけているかも知れないがひとまずは様子を見る他ないくらいだ。


 うーん、心の傷が何よりデカい。



「まあ何だ…最後ぶっ倒れそうになってからの兄ちゃんの動きは鬼気迫るもんがあったよ…村人にゃあ俺から言っておくから…な?」



 ああ、そう…ロイさんは私の予想通りあの肉虫とか言うのと私を戦わせる事で村を守った転移者として地位を築く手伝いをしてくれたらしい。


 ならば先程のあの様も許せると言うものだ。


 もっと他にやり方があったとか抜かしたら引き裂いてやる、タロスが。





 まあそんなわけで諸々解決した。


 村長を生け贄にしたミノタウロスとの協力は私の力とコネでどうにかなるだろう。


 そうすれば私は殺されないしひとまずブルゴ殿の指令は守れた。



まあ一番デカい課題はあるんだけどな、制限時間付きで。



「ロイさん、ミノタウロス一族…ミノゥース族が人間に力を貸したところで正直覆りそうにない戦況ですが、どのようにお考えで?」



「…あの爺を切り捨てんなら俺が村長代理なわけか。」


 良かったな、トップに立てたぞ?もうじき足元から全部崩れるけどね。



「…逃げます?我々は少し訳あって亜人の国を作りますが…最初に人間族とのいざこざを締結させたとなれば箔もつくというものでしょうし。」



「大国ならともかく…うちは人数も少ねえ村だ…それに、全員の説得は難しいだろうよ。」




「まあそもそも逃げる場所も無いんですがね。」


「…お前のさっきの戦いぶりを見てわかったよ、本当…ただの学者なのな。」


 厳密に言うと学者ですらないんだけどな、ただの学生だ。


「落ち着いたら村の奴らに説明するが、来るだろ?」


「勿論、人知れず殺されても嫌ですからね。」



 あと3日もすればカカが様子を見にきて、伝言を頼んでミノゥース族に迎えにきてもらい、そのままブルゴ殿と相談してこれからの策を考え、ミノゥース族を連れて帰ってくる。



 効率わっる……



 スマホ欲しいな、最低でも通信機程度の働きを持たせられる奴とか…まあ不可能だけども。


 原始時代で離れた人との通信手段がここまで有用性高いとは思わなかった、とっても長い糸電話でも作るか?



 というかミノゥース族は大丈夫なのだろうか?向こうに戻ったらあのサンダーバードが掌握してたとか笑い話にもならない。


 

 まあリリーが喰われてる可能性のが高いだろうけどな、そこまで徳が高そうに見えなかったし。


 さて、胃の中身も全て地面にぶちまけた事だしそろそろ村人に弁明しにいくかね。


 遺書書いとくか…あ、読める奴いないな。










「さて、それじゃあまず裏切り者の処刑の前に俺から話してえことがある。」


 やあ皆、さっきぶりだね?


 首に縄を掛けられて吊される寸前のわたしだ。



 はっはっは、まさか試練(触手プレイ)に耐えたからもうトラブルは早々無いだろうと思ったらこれだよ、いやロイさん次第では助かるんだろうけどさ


 ……それつまりロイさんがとちったら死ぬってことなんだよな。


 おっさんに命握られてるこの状況嫌すぎるんだが?


「俺はさっき此奴を連れて2人で肉虫を倒した、わかってるだろうが無茶なことだ。」


「確かにこいつは俺達に亜人との繋がりを隠してた大罪人と言える、だけどな…こいつは転移者だ。」


「あのまま殺されとくには惜しいじゃねえか、今のジリ貧な状況はこいつを殺しても変わらねえだろう?」


「ガッツもあるし生かしておいてまずい事はねえじゃねえか。」



「だがロイ…そいつは亜人と繋がってるんだぞ。」

 

 おお村の若者よ、君達がそうやって亜人を蔑ろにするから衰退してんだってわかってるか?


 わかってないよな…仕方ない。


「取り敢えず話してもいいか?」


 ここで初めて口を開いてみる、上手いこと自分を殺さない立場に居座らないと行けないからな、ここからが本番さ。



「私は亜人と関わりがある、それもミノタウロスやハルピィヤ、サンダーバードもだ。」


 村人全員が息を飲む、ふはは、恐れろ剛力の化身の名を、神の名を。


「ミノタウロス…」


「それにハルピィヤ…はまあめったに見ねえが危険って程じゃねえな。」 


「サンダーバードって何だっけ?」

「そんなのいたかしら?」




 おい自称神、お前知名度低すぎないか?



「そして私はミノタウロス種、ミノゥース族が長ブルゴからこの村とミノゥース族のいがみ合いを止めるために遣わされた言わば偵察兵だ。」


「偵察兵…ロイ、やっぱりこいつ生かしとくわけには…」



「長は無血締結を求めている、そもそもだが…お前らが何の考えもなしに見た目が魔物に近いからと無抵抗のミノタウロスを殺したのが問題なのにこれ以上ミノゥース族は攻撃しないと言っているんだぞ。」


 まあ正直この村の長は生け贄に捧げられるけどな。



「ミノゥース族は強大だ、その気になればこの村などすぐに落とせるだろう…だがそれをしないのは何の抵抗も出来ない人間が滅ぶのはあまりにも()()()だからだ。」



「だか奴らに親を殺された奴だっている!」


「やり返されただけだろうが、お前達が殺した奴に子供がいなかったと思うのか?」



 まあ、思うだろう…というか考えないだろうな。


 正直私も最初にミノゥース族に拾われてなかったらミノタウロスは魔物だと言い切っていたかも知れないしね。



「…家族を殺され一族の中でも非難を受け続けている立場でありながらも人間に情けを掛けてくれていることがわからんか?」



「うっ…」


 まあそんな泣きそうな顔をするな若者よ、どうあろうが奴隷よりはましな生活ができるから。



「敢えて言ってやろう、お前達がいくら亜人を否定しようが構わないが、このままミノゥース族からの申し立てすら断るようならこの村に未来は無い。」


 全員が苦虫を噛み潰したような顔をしている、まあそりゃそうだ。


 完全なる死への恐怖に心が折れるような感情が伝播していく村人達、怖いか?ならばその目の前にぶら下がるロープを掴んだらいい。


 命だけは助かるだろう…まああのブルゴ殿がそう簡単に遺恨を無くす筈もないがな。


 そんな中で立ち上がる女性…ロクサリーヌさんか。



「森近様…私もミノゥース族に…」


「俺も頼む…森近様。」


 1人が折れたら早いものだった、次々と声を上げて最後の希望にすがりつこうとする人間の様はかくも醜いものかと思わず笑みがこぼれそうになるな。



 とは言え全員ではない、複数名は意地でも亜人の傘下には入らないつもりだそうだ。


 全く問題ない、むしろ数人はいないと困るのだ。



 見せしめに処刑される人間が村長だけでは足りないからな。






さて、これで目前の心配事は潰したし次は一番デカい山に集中できるな。


 うぶ……安心したらまた吐き気が。

 


もう次くらいには十万文字!

読んでくれてる方本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の危機見るの辛い方なんですが、 「ドラゴンがあんな骨格で飛べるわけないだろう。」 これ回収されるまでは死なないだろって安心して見てます。 むしろ回収される気配がなくて逆に心配……。…
2020/12/23 06:23 退会済み
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