ゴールドラッシュ
「砂金?」リュカは報告書を読みながらつぶやく。
「近年、タイアルでは川から砂金が獲れまして。」モンケは地図を指した。「この通り、川が急流なんです。」
「だから砂金が流れ着きやすいのか。」
「ええ。一つ見つかると、連鎖的に見つかるんです。」
「また、翡翠、蛍石、琥珀、オパールなんかもみつかったらしいよ。」とヘレナ。
「人が増えすぎてるのよ。」とマリーは資料を叩く。
「見て、ほとんどが砂金目当て。」
「この増え方、異常だよ。」
リュカは資料を見つめ眉をひそめた。
「去年の三倍はいる。」
「じゃあ、観光も増えて、北国はこれから潤うわね。」とリル。
「ところが、そうも簡単にいかないみたいだ。」とリュカ。
「元来、北国は土地がみんなのものという扱いだから所有権が不明確なんだ。そのため、土地から貴金属が出ても、その資源をどのように有効に配分するか、北国は頭を悩ませているらしいよ。」
「一度、タイアルに赴く必要があるね。」とリュカは、2度目のタイアル行きを決断した。
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タイアルへは、モンケさんとリュカ、そしてリル、マリー、ヘレナ、クシイナダ姫が赴いた。出迎えてくれたのは、新ハーンのチンキムさんだった。
「ようこそ!タイアルへ再び。リュカ殿、会えてうれしいです。」
「チンキム・ハーン、お久しぶりです。」とあいさつをそこそこに済ませたリュカ達は、本題に入る。
「当地では、砂金・宝石の発見による民の流入が続いているとか。」
「ああ、砂金が発見されたという報が私の元に届いてから、わずか一週間後にはこの大混雑ぶりです。」
「どのような方が多いですか?」
「冒険者が多いですね。独り身が多いです。男女比は、半々といったところでしょうか。」
リュカ達は、市場を歩いている。市場で、バター、チーズ、牛乳を買おうとしたリュカは、あることに気付く。
「おかしいな。この前より、3倍は上がっているぞ。」
「ああ、すまねえ。見ての通り、観光客が押し寄せて、食糧も燃料も奪い合いさ。卸値もね上っちまうし、商売を続けるにはこれでもぎりぎりなのさ。」
「そうなんですね。」ヘレナが小さく頷く。「物資不足で、インフレーも進んでいます。」
ある酒屋の店主は次のようにぼやいた。「最近は、物騒でね…」店主は声を潜めた。「スリやひったくりが増えている。知らない顔のやつらが一晩中騒ぐし。夜は出歩かない方がいい。この町が自分たちの居場所じゃなくなったみたいだ。」
夜、遠くで怒号が響いた。
「やめろ!」「返せ!」
リュカ達が駆けつけると、採掘権を巡って口論が起きていた。
外から来た男と、現地の牧民が掴み合っている。
「ここは俺が先に掘ってたんだ!」
「土地はみんなのものだ!」
周囲の人々は止めに入らない。ただ、冷たい目で見ているだけだった。
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「……もう始まってるね。」とリュカは呟いた。
たしかに辺りはスラム街が増えているし、路地裏では、リュカ達も何度か犯罪の現場に出くわした。
「観光客の野郎は、勝手に土地を掘って、金を持っていきやがる。土地はみんなのものだという、タイアルの掟なんかガン無視だ。」とぼやく初老の男もいる。
リュカ達は、一度宿屋に戻って話し合う。
「思ったよりもひどいわね。暴動が起こらないのが不思議だわ。」とマリー。
「この状況をまとめている人物がいるとしたら、相当危険だね。」とリュカ。
「このままじゃ、多くの人々が飢えで死んでいきます。」とヘレナ。
「何かいい方法はないかなあ」とリル。
(これは、政策でどうにかなる問題なのか……?)
リュカは、自分の手のひらを見つめた。
(人の欲と怒りを、法で縛れるのか?)
しばらく話し合っていると、皆のお腹が鳴りだした。
「とりあえず、ご飯を食べようか」
僕らは、北国の饅頭であるポーズと、石焼料理のホルホグを頼んだ。
しかし、明らかにこの前よりも2~3倍は高い。ここは、北国のはずれだというのにである。
「おじさん?本当にこの値段?ふっかけてない?」とリル。
「冗談じゃない。あちこちでモノの値段が上がっているから、こちとら値上げしないとやっていけないんだよ。」と悲哀をこめて料理屋の店主は言った。
しかも、ただ高いだけでなく、物が手に入らないこともしばしばらしい。たとえば、リュカは北国で有名な絹織物の店に入ろうとしたが、店は商品が陳列できずに閉まっていた。




