第1話 雨の日の配達
雨の音は好きだ。
しとしとと落ちる滴の音は心地良く、落ちつく気がする。
朝から降っていた雨は、昼を過ぎても止む気配がなかった。
こんな天気の日、シャッターの半分閉じた商店街を行き交う人の姿もない。
(早じまいしようかな)
鈍く垂れ込めた雲を眺めながら、カフェのキッチンを片付け始めたとき。
カランコロンとドアの鈴が鳴った。
「すみません、お荷物です」
声をかけられて顔を上げると、レインジャケットの男が立っていた。
この地域を回っている、大手配送業者の配達員だった。
「こんな雨の日にありがとうございます。中にどうぞ」
「いや、床が濡れますから」
配達員の男性は、遠慮がちにそう言った。
たしかにレインジャケットにはびっしょりと雨粒がついていた。
「かまいませんよ。もう店を閉めるところなんですから。どうせ掃除しますし」
すると、男性はぺこりと頭を下げて、店の中に入ってきた。
店先のマットで靴裏を拭き、丁寧な手つきでドアを閉める。
「良かったら拭いてください」
キッチンからタオルを持ってきて手渡す。
男性はフードを外し、タオルで顔を拭った。
伝票にサインをしながら、ちらりと荷物を見る。
コーヒー豆の入った段ボールは、雨の中を運ばれてきたとは思えないくらい乾いていた。
「濡れてないんですね」
思わず言うと、彼は少し驚いたように瞬きをした。
「ああ、これですか。中身、濡れると困るものかもしれないんで」
台車には、青いビニールシートがかけられている。ただ雑にかぶせているんじゃなくて、荷物の形に合わせて、角までしっかり折り込まれていた。
「几帳面なんですね」
「そういうの、気になるほうで」
それだけ言って、彼は少し照れたように台車のシートを直した。
「ありがとうございました。失礼します」
一礼して、男性はまた雨の中に戻っていった。
かたん、かたん。水たまりを避ける音が、だんだん遠くなる。
私はしばらく、濡れていない段ボールを見つめていた。
こんな雨の日に、こんなに丁寧に荷物を運ぶ人がいるんだ。
店の中には、コーヒーの匂いがまだ温かく残っている。
ガラス戸の向こうで、雨脚が少し強くなっていた。




