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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
終章 限界突破のアルティメットパイル

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エピローグ 旅の果ての観測

パイルバンカーがすべてを撃ち貫き、圧倒的な閃光が空を包み込んだ直後。

アタシの身體を覆っていた銃鎧が光の粒子となって解け、急速に意識が遠のいていく中、頭の中にあの青年の声が優しく響いた。


『......ありがとう、ローズ。俺の願いは、今果たされた』


その声は、どこか安堵したようで、けれどひどく透明で、今にも風に溶けて消えてしまいそうだった。


『これで、この世界に本来居ないハズの、人間の出番は終わりだ。......あとは、キミ自身の足で、未来に向かって突き進め』


パチリ、パチリと。

彼とリンクしていた記憶の欠片が、時間軸の修正によって強制的に剥がれ落ちていく。アタシの中で滾っていたあの熱い闘志の持ち主の顔が、輪郭が、名前が、不可逆の忘却の彼方へと薄れていく。


『俺は、いつだって、君を──────』


最後の言葉は、ノイズに掻き消されて聞こえなかった。

でも、不思議と悲しくはなかった。彼がアタシに何を伝えたかったのか、魂の奥底で確かに理解できていたから。


......ありがとう。ちゃんと、伝わったよ。■■■──────。


彼への感謝を胸の中で紡いだのを最後に、アタシの意識は完全な暗闇へと落ちていった。



◇◇◇◇◇



頬を撫でる、柔らかくて温かい風。

どこからか聞こえてくる、穏やかな小鳥のさえずり。


「......ん、んん......」


ゆっくりと重い瞼を開けると、そこには雲一つない、透き通るようなロンベルの青空が広がっていた。

気が付いたら、アタシはロンベル郊外の、緑が青々と茂るのどかな平原に大の字になって寝そべっていた。


「......アタシ、生きてる?」


身を起こして自分の身体を見下ろす。致命傷だったはずの怪我も、極限の疲労も、まるで嘘のように消え去っていた。


そして、すぐ隣の草むら。

そこには、銃鎧の役目を終え、元の白銀の銃剣の姿に戻った相棒──────『ゲヴェニア』が、アタシを見守るようにしっかりと横たわっていた。


アタシはゲヴェニアをそっと手に取り、その冷たくて頼もしい金属の感触を確かめる。

空を見上げても、もうあの不気味なひずみも、絶望的な巨大戦艦もない。ただ、美しくて平和な世界がそこにあるだけだ。


「............やったんだ。アタシ」


すべてが終わったのだ。

自分の手の中にある確かな平和の重みに、アタシはゲヴェニアを抱きしめながら、ポツリと、万感の思いを込めてそう呟いた。


「帰ろう。家に」



◇◇◇◇◇


あの最終決戦で限界以上の機構を展開し、アタシの魂の叫びと共にすべてを撃ち貫いた愛車、ブレイブバスター。

役目を終えたあの子は、光の粒子と塵になって大空へと消えてしまった。だから、アタシはロンベルの平原から、自分の足だけで歩いて帰ることにしたのだ。


ヴァイドヘイムのアーゼリア家までの道のりは、それはもう凄く時間がかかった。

でも、不思議と足取りは軽かった。道中、空のひずみが消え去り、平和を取り戻した街で笑い合う皆の顔が、とてつもなく眩しかったから。アタシが命を懸けて守り抜いたこの世界の景色を見ながら歩くのは、何も苦じゃなかったのだ。


そして、のんびりとした歩き旅を続けること三週間。

ようやく懐かしいアーゼリア家の広大な敷地が見えてきた時、アタシを出迎えてくれたのは──────。


「............あ、ローズ! おかえり、英雄!」


あちこちに痛々しい包帯を巻きながらも、満面の笑みでぶんぶんと手を振る、ルフトの姿だった。


「......ただいま、ルフト。アンタ、その怪我どうしたのよ」


「へへっ、ちょっとね。俺も、俺なりにここを守るために頑張ったんだよ」


照れくさそうに笑うルフトの姿を見て、アタシの顔にも自然と笑顔がこぼれた。

そうか。アタシやあの規格外の化け物たちだけじゃない。ルフトも、そしてきっと世界中の誰もが、絶望に屈することなく自分の場所で戦い抜いたのだ。その確かな成長が、アタシは何よりも嬉しかった。


「......そっか。よく頑張ったわね」


ルフトの頭を軽く小突いてから、アタシは大きく深呼吸をして、見慣れた家の門をくぐった。


「遅いぞ、ローズ。待ちくたびれた」


「ふははっ! 徒歩で大陸を横断してくるとは、流石は拙者が見込んだ剣士殿だ!」


「おかえりなさい。怪我がなくて本当に良かった」


『フッ。主役の凱旋にしては、少々時間がかかりすぎではないか? 』


庭先のテラス席。

そこには、文句を言いながらも温かい目を向けるレイと、豪快に笑う弦弥、優しく微笑むユキ、そして相変わらず偉そうに紅茶を傾けるロッドの姿があった。


あの絶望的な戦場を共に駆け抜けた、四人の神代の英雄たち。

彼らはそれぞれの故郷や時代に帰る前に、アタシの帰還をここでずっと待っていてくれたのだ。


「......アンタたちねぇ。女の子が三週間も歩き通しだったのよ? もう少し労いの言葉ってもんがないワケ?」


呆れたように言い返しながらも、アタシの目からはポロポロと、堪えきれない温かい涙が溢れ出していた。


退屈な日常から逃げ出したくて始まった、神代の英雄たちに振り回される厄介な旅。

世界を背負い、沢山の出会いと別れを繰り返し、絶対に勝てない絶望にも立ち向かった。


そして今。

アタシの、長くて、苦しくて、とびきり楽しい旅は、ここで本当に終わったのだ。


......ああ。やっぱり、世界はロマンに溢れてるわ。


晴れ渡る青空を見上げながら、アタシは心からの笑顔を咲かせた。


これは、ただの家出少女だったアタシが、伝説の英雄たちと肩を並べて世界を救った物語。

最高に理不尽で、最高に熱くて、最高の経験だったって──────アタシは今でも、そう胸を張って言えるのだ。

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